映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

増村保造 監督「兵隊やくざ」3426本目

これも評価の高い、ずっと見たかった作品。勝新太郎が主役でこのタイトルなので、かなりヘビーな暴力の多い映画を予想してた(典型的な苦手分野)けど、非常に軽妙でとにかく面白い映画でした。暴力の場面も多いけど、残虐さを強調するのではなく、いじめの不条理さなど、あくまでも人間を描いていて、高評価もなるほどです。

勝新は小さいころに見た「座頭市」の印象が強いんだけど、この映画では、強面なのに小さい男の子みたいに真っすぐで、強くて、なんとなく丸っこくて、これは男にも女にも愛されただろうなぁ。中村玉緒がその後、不祥事の絶えない夫のことを「それでも私はかわゆうてならんのどす」(表現はうろ覚え)と言ってたのを思い出します。

インテリ丸メガネの田村高廣といい対比になってるんだけど、彼が天衣無縫な勝新に弟のように目をかけるのが、まるでBL(って書くと、途端になんかいやらしくなるのはなぜだろう)。

そして、「社長シリーズ」等でも「お色気担当」の淡路恵子の女っぷり、むんむんしてます。そのベースにある無常観。思うに、日本の働く人々のメンタリティって、兵隊や遊女のような、上に逆らえない前提で抑圧の中で花咲こうっていう感覚が根っこの部分にある。今はどんな人もこの時代よりは自由なのに、会社を辞めたら死ぬみたいにしがみつきがちなのって、理屈では説明がつかないよな。なんでみんなこんなに権威を畏れちゃうんだろ(自由の身になったからこそ、そう思う。もっと早く辞められたのにな、って)

前半はいじめ映画って感じなんだけど、後半の大反撃~大脱走が痛快で、腹の底から面白かった!って言える作品になってます。増村保蔵って若尾文子とか出てくる黒い映画のイメージだけど、何よりこういう、体の芯にくる面白みが身上の監督だったんだな。すごい映画でした。大満足です。

兵隊やくざ

兵隊やくざ

  • 勝新太郎
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