映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

川島雄三監督「暖簾」3435本目

川島雄三監督の作品は、人間が生きてて、完全な善人も完全な悪人もいない。みんなどこかズルくて、どこか可愛い。ふつうの人たちがワイドショーを見ることも、ネットで悪口を書くこともなかった時代。

戦後かつ”高度成長期”前夜の1958年(原作は1957年)。恋愛をあきらめて、戦争で長男を失っても台風ですべてを失っても守り抜こうとするのは、昆布問屋の「暖簾」。山崎豊子が実家の昆布問屋を舞台に書いた、おそらくリアリティのある作品です。

「家」とか「会社」とか「暖簾」とか。「女に金を借りたら末代までの恥」とか。日本人は昔から建前を大事にしすぎて途中からそっちが本気になってしまって、自分たちの人間的なたのしみを後回しにしたり、陰で楽しむようになってしまったのかな。

それにしても役者がそろってます。森繁と仲良くしてるのは、「鬼婆」じゃなくて「100万ドルのエクボ」の頃の可憐な乙羽信子。森繁にいい縁談が来たので身を引き、結婚したのはしっかり者の山田五十鈴。二人を引き合わせた中村鴈次郎、山茶花究、中村メイコ・・・。

戦後は、年老いた父と、戦地から生きて戻ってきたダメなほうの息子(少年時代は頭師佳孝)の二役を森繁が演じます。娘がひとりいるので、山崎豊子を反映した役は彼女なんだろうな。

DVDにの特典映像のなかに、”メイキング”というか、この映画を撮影していたときの様子をとったプライベートフィルムが収録されていて、川島雄三監督の姿をかなりしっかりと見ることができます。やせた若い男。出演者にくっつくようにして、上目づかいで見ながら指示を出すちょっとギョロ目の、ゆがんだ笑いを口元に浮かべた男。・・・作品を見てると、酸いも甘いも知り尽くした老成した監督、きっと中年以上の穏やかな人だろう・・・などとイメージしてしまうけど、逆と言っていいような容貌と雰囲気です。この若造(このときは)の弟子が今村昌平ってのもすごい話で、にわかに信じられない気がします。人間って外見からは何もわからないんだな、と改めて思ったりするのでした。