映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョン・フォード監督「怒りの葡萄」3438本目

1939年、大恐慌から回復しつつあるアメリカで、原作小説が発売された年のうちに公開された映画。ドキュメンタリー番組みたいなスピード感。

映画のなかでずっと「レッド・リヴァー・ヴァレー」が流れますが、レッド川って2つあるらしい。カナダ国境付近を流れる北のレッド川ではなく、ニューメキシコ~オクラホマ~ルイジアナと流れてミシシッピ川に合流する南のレッド川。この家族はこの川をさかのぼるように、夢の地カリフォルニアを目指して西へ、西へと旅をつづけたんですね。

この家族、主役のトムが30歳くらい、その父が”50歳の老農夫”という設定。(ビル・ナイみたいな父と東山千栄子みたいな母)移動中に亡くなる祖父母は70くらいか。まったくの新生活を始めるのは簡単じゃない年代です。

原作はバカ売れした一方で、オクラホマでもカリフォルニアでも「真実を伝えていない」と反発する人も多く、禁書扱いにされたとのこと。そうだよな、私この映画、明るい「ニーチェの馬」って感じだと思った。あの映画は私にはショックだったけど、この人たちも希望を奪われていくばかりだ。人はこうやって、「どんな仕事でもあればいい」という境地になっていくんだ。

お金のある人が、金脈を見つけて、安く人を使い、彼らの生活や環境への影響など何も考えずに商売をするようになり、さまざまなところからの突き上げで労働者保護や環境保護を考えるようになる。突き上げないで泣き寝入りしちゃダメなのだ。

予想では、がちがち労働闘争とか悲惨な死とかが連続する悲壮感の強い作品じゃないかと思ってたけど、実際はアメリカの大地を踏みしめる人間のたくましさが印象に残る、力強く明るい作品でした。どんな時代でもどんな国でも、しっかり働く大勢の人たちが支えてるんだよな。こういう人たちを大事にする国になってほしい、していきたいです。(選挙前なので、なんとなくそんなこと考える)