映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ケリー・ライヒャルト 監督「ウェンディ&ルーシー」3448本目

ミシェル・ウィリアムズは悪運に見舞われる普通の女性を演じるイメージが強い。これもそうだった。

彼女はひとり、愛犬ルーシーを連れてボロボロの愛車でアラスカを目指している。失職し家も失って、当地で仕事を見つけようと思っている。・・・二人で旅するロードムービーだと思って見始めたので、すでに寂しい気持ちになる。装備や資金が十全じゃないので、ルーシーのご飯にも事欠き、万引きを試みて捕まっている間にルーシーがいなくなり、車も動かなくなって廃車にするしかない。

林で野宿したときの場面は、彼女が暗闇で目を覚ますと男が「顔を見るな」と言い、その後くどくどと自分の窮状を話して去る、彼女は激しく動揺してトイレに駆け込む・・・という状況から考えると、男にレイプされている最中に目を覚ましたのかと思ったけど、KINENOTEのみなさんの感想を見ても、英語でググっても、ほとんどの人がそうは取らなかったみたいでした。彼女は物音ひとつ立てず寝てたのに、わざわざ起こして「顔を見るな」って言う必要はないし、いきなり自分の不幸を寝てる人に語りだすのも不自然だけど、未遂に終わったと見ればいいのかな。ここで被害があったかなかったかで、彼女の不幸の度合いが違ってくる。

この監督も、たぶん、安易なカタルシスを提供するつもりのない人で、万引きしたスーパーの人も自動車修理工場の人も、誰も大目に見たり値引きしてくれたりしない。(老いた警備員だけは情を感じてくれている)ウェンディがこんなに困ってるくらいだから、この町の人はみんな生活がキツキツなんだ、きっと。あえて金髪のロングヘアでスリムでセクシーな女性じゃなくて、もっさりした普通の女性にしたのは、女性プレミアムのないところでどうやって女性が生き延びるか、という問題提起もあるのかな。

貨物列車にもぐりこんで街を出たウェンディは、いろいろあってもまだ元気そうで、きっと仕事さえ見つかればアラスカかどこかに定住して強い母になって家庭を守っていけそうにも思う。若い分、「ノマドランド」よりはこの先に希望が持てる気がするのでした。

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