映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ケネス・アンガー監督「マジック・ランタン・サイクル」3454本目

誰だこの人は?サムネイル画像に見覚えがあって気になったので見てみましたが、この短編映画集の中で一番古い「花火」は1947年って戦後すぐじゃないか?カルト的なにおいがするけど95歳で健在。Wikipediaで解説を読んでも謎だ。KINENOTEでもこの映画の解説はちょっぴりしかないので、アップリンクの解説ページがカラフルで詳しくて良いです。

「花火」1947年。白黒でセリフなし音楽ありの、サイレント時代のような作品。強烈な自虐性と男性への性衝動がなにかの形に昇華された作品。

「プース・モーメント」1949年。カラー。インドの舞踊衣装をあれこれ見てるような作品だと思ったけど、実際は大昔のハリウッド映画の衣装だって。音楽はちょっとサイケな感じ。フランツ・フェルディナンドがカバーしたらしい。短かった。

「ラビッツ・ムーン」1950年撮影。キラキラした森にいるピエロの映像はきれいだけど、空の月はカキワリというよりもっとチャチだなぁ。同じアクションが繰り返されて、前半とてつもなく冗長だけど、ハーレクインと月のお姫様の動きも優雅で、不思議な美しさのある映像です。

「人造の水」1953年。公園の水飲み場みたいな噴水や「真実の口」みたいな彫刻が、これもまた繰り返し繰り返し投影されます。

「快楽殿の創造」53分。プレジャードーム、快楽殿って魅惑のことばだなぁ。でもこの作品の場所は”アヘン窟”のように見える・・・という場面は移り変わって、さまざまな人が静かに踊っていたり。頭を鳥かごに入れてほほ笑む女性はここで登場します。踊らないバレエといった雰囲気。

「スコピオ・ライジング」1963年。オールディーズのヒット曲が次々に流れるなか、ガレージでバイクのメンテをするリーゼントに革ジャンの青年。ただ彼はファッションの仕上げに帽子を被ったり、鋲つきのベルトを2本重ねでつけたり・・・”トム・オブ・フィンランド”すぎる・・・。狂乱のパーティとキリストの受難っぽい古典映画のような映像。カギ十字まで登場します。もう、いつまで見せられても、共感も理解もできないんだってば・・・(誰に言ってる)

「K.K.K. KUSTOM KAR KOMMANDOS」1965年制作、尺はわずか3分!こんどはバイクじゃなくて四輪フェチです。ふわふわのダチョウの毛でぴかぴかな表面をぬぐう映像は高級車のCMみたいです。人間がほとんど映らず、車とダチョウ毛だけ!

「我が悪魔の兄弟の呪文」1969年。音楽にミック・ジャガー。確かに悪魔的でした。最後に「ラビット・ムーン」の短縮版つき。短縮したので冗長でなく、カキワリの月がちゃんとした映像になってました。

「ルシファー・ライジング」1980年。溶岩沸き立つ火山の火口から。ちょっと映画っぽくなってきました。舞台はエジプト、古代の神々やピラミッド、神秘主義めいた原題の男性、なんだか「サスペリア」の学校の奥で行われてる秘儀みたいな。技術が上がってくると、監督のやりたいことが明確になってきるように思いますが、ルクソールの宮殿の空の上をUFOが通ったりして、むしろ「ムー」のイラストのようになっていくのがまた、なんとも。

全体的に、振付のないバレエ、セリフのない映画、という感じで、アンガー監督はイメージと音楽の外にイマジネーションを広げない人なのだ。このどちらかでも存在したら、私にももっと伝わっただろうに。というか、イメージだけで圧倒してくれたパラジャーノフの作品を改めて思い出して、私の個人的な印象だけど、パラジャーノフ偉大!と思うのでした。

アンガー・ミー(字幕版)

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  • ケネス・アンガー
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