映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジャスティン・カーゼル 監督「ニトラム」3455本目

オーストラリアのタスマニア島は、私が老後を過ごしたい場所No.1。(というか叶わない夢)英国の流刑地だった歴史を持つオーストラリアの中でも、特別過酷な刑務所があったのがタスマニア島の端っこの半島にあるこのポート・アーサー。今は穏やかで優しい丘なんだけど、その一角の壁で囲まれた場所で起こった乱射事件について、地元ガイドが解説してくれた記憶があります。不吉なことや不幸なことなんて何も感じなかったあの場所のことについて、きちんと知っておきたい。

マーティンは家族とはうまくいかなかったけど、ヘレンという女神と出会って家族らしさを知ったり、亡くしてからもとんでもない財産を相続したのは、すごい運の強さだ。だけど人とうまくやれない彼を、もっとお日様の当たるほうに導いていくことはできなかったのかな・・・と考えるのは、私が今、少しだけ教育に携わってるからか。

ヘレンの邸宅で札束と犬一匹と孤独に暮らすマーティン。母親は彼をコントロールすることをずっと前からギブアップしている。

免許を持ってなくても車を運転できたり、銃まで買えてしまうというユルさが、自然豊かなタスマニアらしさなのか。

死者35人もの被害を与えるのに、爆弾でもなくライフルが使われたということは、戦争みたいな尋常じゃない装備があったってことなのだ。銃器店でいともたやすく札束だけでその装備を手にするマーティン。オーストラリア国内と、おそらく銃器の民間販売が行われている他の国々に向けて、銃規制について考えさせる意図が感じられる。(でも、銃が手に入らなくても刃物や自作の銃で攻撃できるって、みんなもう知ってるけど)事件のことはオーストラリア・ニュージーランド辺りでは広く知られてるので、乱射そのものを再現しなくても伝わるだろうし、生々しくて辛い人の気持ちも配慮してるんだろうけど、日本には説明が欲しい人が多いんじゃないかな。

ヘレンも寂しかったんだろう。彼の周囲のみんなが、笑顔ややさしさやお金がちょっと欲しい、という気持ちで、無軌道な彼に、彼には管理できないさまざまなものを与えてしまった。彼らみんな、事件を知ってショックだったろうに。

これを見ても、マーティンのことが理解できたと思う人はいないだろうし、わからないからどうするかを考え始めるしかないんだろうな。

・・・タスマニア移住の夢?変わらないですよ。今でもそれほど簡単に銃が買えてみんな持っているのには驚いたけど、これは世界中のどの町でも起こりうる事件だと思いました。

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