映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイケル・パウエル監督「黒水仙」3470本目

ジャン・ルノアール監督の「河」を見て、同じ原作者のこの映画も見てみたくなりました。マイケル・パウエルは「赤い靴」の監督か。そしてこの作品も、「河」と同様、インドのイギリス人が主人公。

山あいの”宮殿”はブータンのタクツァン寺院みたいだし、そこの人々はインドじゃなくて中国かチベット系に見える。主人公デボラ・カー尼はがこの異教の地に遣わされたのは、信仰を求めるのではなく、教育を施してもらおうという地元の領主の思惑によるものだった。らしい。

異国にいる無垢なイギリス女性たちが、唯一の母国男性に執着するという図は、年齢や国籍が違うけど「河」と同じだ。で、「黒水仙」のほうはさらに、「白い肌の異常な夜」「ビガイルド」(同じ映画だけど)も思い起こさせます。尼僧たちは市井の誰よりも、異性への執着を棄ててそこに来たはずなのに。

タイトルの「黒水仙」は黒いナルシス(「オルフェ」に対する「黒いオルフェ」みたいに)と考えると、タイトルが表すのは現地の王子のことかと思うんだけど、彼の役どころはそれほど大きくないような。尼僧たちの信仰をおびやかす英国男性を演じるのは、アンソニー・クインみたいな野性味あふれるデヴィッド・ファラー。なんでわざと短パンだけ、上半身裸で女の園に現れるんだ。

映画は結末に向かってホラー映画のような様相になっていくんだけど、時間を引き延ばしたように進みがのろくなるのが、なんとも大げさ。。。でも、カキワリ感はあるとはいえ、鐘を鳴らす修道女たちのもみ合いの特撮はなかなかスリリング。インドでロケをしなかったって本当?撮影技術の変遷を見る上でも重要な作品だと思います。

それから、英語のWikipediaで読んだんだけど、この映画が公開されたのはちょうどインドが独立した時期らしく、エンディングの敗北感はその撤退にも重なるとのこと。なるほどです。

黒水仙(吹替版)

黒水仙(吹替版)

  • デボラ・カー
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