映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ダニー・ガルシア 監督「SAD VACATION ラストデイズ・オブ・シド&ナンシー」3480本目

このテーマの作品、けっこう見てるな。アレックス・コックスの「シド・アンド・ナンシー」、レック・コワルスキーの「D.O.A.」。

ナンシーが20歳で亡くなったのは1978年、シドは21歳で翌年亡くなった。安全ピンや破れたTシャツの”ロンドン・パンク”が終わったのはその時期だと思う。音楽でなにかを表現しようとした、彼の少し前の世代の人たちと違って、彼らはパンクかっこいい、自分たちもパンクになって爆発したい、と思って集まってきた子たちだった。パンクを売り出した人たちが、ドラッグや酒や暴言や暴力をその魅力として宣伝して、きちんと楽曲を作ったり楽器を練習したりする場面は彼らには見えないままだったから、パンクスになったらドラッグで若くして死ぬんだと思って彼らは飛び込んでいった。

誰が誰を殺したのか殺さなかったのか、彼らが生き延びていたらどんな大人になったのか。正直、私はこの二人はあまり清潔感のないジャンキーたちだと思ってたけど、ニューヨークのナンシーの友人たちは彼女が知的だったというし、ロンドンのシドの友人たちはシドがいい奴だったという。そういう話が聞けたのは良かった。

それにつけても、彼らはパンク・ムーヴメントの最後に花火みたいに爆発して燃え尽きて、幸せだったんじゃないかという気がしてしまうんだよな。生命が長いことはなんで「いいこと」とされてるんだろう。自然に生きてるものを断ち切るのは良くないと思うけど、彼らは長く生きようなんて1ミリも思ってなかっただろうし、これが彼らの寿命だったんじゃないかとも思う。今はもう、ロンドンパンクシーン関係者や当時の熱烈なファン以外は忘れかけているかもしれない。天国だか地獄だかで、二人はきっと仲良く暮らしてるんじゃないかなという気がします。