映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フリッツ・ラング監督「リリオム」3487本目

<ネタバレあります>

(この作品はラング監督の「映画監督に著作権はない」には出てきません。)

1943年の作品。

リリオムってメリーゴーランドに乗ってる細面のブロンド嬢の名前だと思ってたら、彼女に言い寄る係員の男の名前だったのね。その男を演じてるのは、若きシャルル・ボワイエ。シドニー・ポワチエとなんとなく似てるけど違う、「ガス燈」でイングリッド・バーグマンの夫を演じた人か。そのときの写真を見ると、まるで英国紳士かなにかのようで、この映画での粗野な労働者風情とまるで違う・・・「ガス燈」のほうがよっぽど若くさえ見える。なんか、ローレンス・オリヴィエの若い頃を「嵐が丘」で見たときみたいな驚き。(比喩になってるのかどうか)

ラング監督のフランス作品って違和感あるけど、遊園地の明るくわびしい音楽、ブロンド嬢の妙に真面目で世間知らずな佇まいと、女好きなだけで愛嬌のあるリリオムが犯罪の誘惑にズルズル引き込まれる弱さ、彼を思い続けたサーカスの女の厚化粧、などに引き込まれます。

息を引き取ったばかりのリリオムに「一度も言わなかったけど、乱暴者だけどあなたを愛してた」という妻が、中村玉緒に見えた・・・・。マグリットの絵の中の人みたいな”最後の審判コンビ”が終盤に突然現れ、リリオムの魂を連れていくところで突然SF映画になります。音楽が「コメットさん」みたい。星をいっぱいつけた可愛いタイピストが打つ天国の裁判所のタイプライターが、オルゴールみたいな音でおしゃれ。

それほど悪いやつでもなく、愛する妻に「ごめん」とも言えないままだったリリオムの気持ちはちゃんと妻に伝わっていて、妻は何か美しいものを受け取っていたみたいだよ、という話。

・・・乱暴男に都合のいい話ではある(笑)。女にしてみれば、乱暴者であれ何であれ、惚れた男と添い遂げるのは幸せなことだ(死に分かれたとしても)、ってところかな。合理主義が横溢したこの世界ではなかなか、これが愛だと言っても通用しないかもしれないけどね。

リリオム(字幕版)

リリオム(字幕版)

  • シャルル・ボワイエ
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