映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミハイル・カラトーゾフ監督「鶴は翔んでいく(戦争と貞操)」3500本目

<結末にふれています>

「怒りのキューバ」を見たら、これもモスフィルムの公式動画がYouTubeに載ってたので見てみました。カメラは「キューバ」と同じセルゲイ・ウルセフスキーだけど「キューバ」より7年前、1957年の作品。冒頭からなんだか重苦しいヨーロッパ北部の雰囲気です。(南米ではコンドルが飛ぶけどソ連では鶴が飛ぶのか?)

こちらはロシア語で作られていて英語字幕が乗っているだけなので、「キューバ」よりすっきりと見られます。ただ、あちらは言葉少ない作品なのでよかったけど、こちらはしっかり英語字幕を読まないとついていけなくなりそう。・・・でもセルゲイ・ウルセフスキーの映像を見るのが主目的なので、あまり気にせずどんどん見ましょう。

そんなに昔だと思えないクリアな白黒映像。主役たちの若い肌のツヤツヤまでよくわかります。タチアナ・サモイロワという主演女優、鼻っ柱が強そうな大柄な美女です。ちょっと丸くて上向きの鼻がチャーミング。この人や他の俳優さんたちは、どんなふうに生まれてどんなふうに生きたんだろうな・・・

ストーリーは、若くて初々しいカップルが戦争で引き裂かれ、男は戦死してしまいます。彼が撃たれてから死ぬまでの走馬灯の思い出の大げさなこと・・・。大雪原のように壮大で深刻な、このロシア的な情感がなんか素敵です。もしかしたら、歌舞伎にも近いかも。演出は大きいけど人は割と無表情。すぐ隣のフィンランド映画の人々のマネキンのような無表情を思い出すけど、あっちは演出も極めてシンプルなんだよな。興味深い。

その後女は言い寄ってくる別の男と結婚しますが、そいつはチャラ男で結局別れます。女はとうとう戦争へ行った彼の訃報を知り、自分がもらった花束を抱いて泣くんだけど、その花束をバラして、戦勝に湧く人々に1本1本渡していきます。どうして配るのかは語られないんだけど、達観したような女の表情が美しくて、彼女が最後に父親と見上げる空に、きれいなV字型で鶴が飛んでいくのもすがすがしい。勝ったのに戦争の悲惨さを描いた映画、ソビエト国営モスフィルムもなかなか大胆な作品を作るんだなぁ。

カメラワークについていうと、「キューバ」のような度肝を抜くショットはまだこの映画にはありません。でも俯瞰する映像や、女が列車を追って走る映像など、なかなかダイナミックでしたよ。

(このリンクから公式動画の全編が見られます)


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