映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 監督「ある画家の数奇な運命」3501本目

ゲルハルト・リヒターのことは全然知らないんだけど、今初の日本での展覧会が行われていて、明日にでも行ってみようと思ってるというので予習のために見てみます。

感想。映画としてすごく面白い良作でした。主役のトム・シリング、ティモシー・シャラメのような繊細な美少年っぽい容貌で、少しだけ線が太を併せ持つくて知性的です。この人の出てる映画をもっと見てみたい、と思える。セバスチャン・コッホはドイツ語圏の画家の油絵みたいな目鼻立ちで、非人間的な理性と人間的な感情をあわせ持つ怪物を巧みに演じました。画家の妻のパウラ・ベーアは”婚約者の友人”か。彼女もうまいです。というか演技が非常にうまい人しか出てないですね。西ドイツに行ってからの同郷の絵画仲間も、すごくいい脇役。

数年前に絵を習いに通ってた時期があって、最初のデッサンは誰でも描けば描くだけ上達するので楽しかったけど、だんだん「本当に描きたいものは何か」とか先生が聞いてくるようになったりして、よくわからず辛くなって辞めてしまった。でもこの映画を見ていたら、今いるのと別の憧れの世界を描くんじゃなくて、心の中に居座り続けている何かを恐れずにしっかり見つめて描けばよかったのかな、と気づいてしまった。この映画のなかのクルトが、幼い頃の叔母との写真や、彼女をほうむりさった(と疑われる)人々をまっすぐ見つめて描けたのは、いちいち恐れおののいたりしないくらい、長年心の中に巣食ってきたものだから、と思ったりしました。

どこが事実でどこが創造なのか、確かに知らないほうが作品として楽しめる。私の予想では、かなりの部分が創造じゃないかと思う・・・。

それも展覧会で確かめてこようと思います。(わかるのか?)