映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アレクサンドル・ソクーロフ 監督「エルミタージュ幻想」3513本目

2002年の作品。エルミタージュって、写実的な名画を集めたクラシックな美術館なんだな。ソビエトになる前の貴族趣味の東ヨーロッパ。私は世界史をちゃんと勉強したことがないし、美術史もあまり知らない。比較的新しい美術作品を見るほうが楽しいほうなので、この映画はとてもハードルが高いです。

画面の暗さ、登場人物のクラシックさ、このテンポも苦手です。「幻想」なのでこれが自然なのかな。おじさんがブツブツ話し続けるストーリー性も、なかなかキツイと思うんだけど、みなさんすごく評価が高いのは、やっぱり映像美に注目したのでしょうか。

96分1カットという離れ業。・・・そういえば最近「怒りのキューバ」をYouTubeのモスフィルム公式チャンネルで見て、1カットの映像に驚愕したっけ。この映画のクレジットにはモスフィルムがないけど(主役のおじさんが「私は舞踏会に残る」と言うセリフとか、革命前のロシアを肯定してる空気あるしな)、ロシアの映画人には1カットコンプレックスでもあるんだろかね・・。

登場人物のなかでは、小さい女の子たちは天使だし、若い少女たちは妖精としかいえないくらい美しくて見とれてしまうし、大舞踏会はバブルかと思うくらい絢爛豪華でまぶしい。明るい室内で人々が生活している場面はどれも見てるだけで楽しいです。舞踏会といえばNHKの歴史ドラマ「坂の上の雲」(2009~2011年放送)の舞踏会も絢爛豪華でした。きっとこの映画がベースになってるんだろうな。

(音楽が終わるとみんな「ブラボー!」って言うのだ。気になって語源を調べたら古代ギリシャ語由来のラテン語が語源のイタリア語、らしい。ポルトガル語やスペイン語では違う意味に使われることもあるけど、実演に対してブラボーというのはイタリア語と考えられているようだ)

ふと、革命前の文化への共感が強いこの監督が今無事に暮らしてるのか急に心配になって英語のWikipediaを見たら、真っ向から大統領にウクライナ攻撃は間違っていると言って、2022年6月にロシア国外に出ることを禁じられたとありました。20年も前に作られた1本の映画を見ても、ひとりの映画人の長年のポリシーや大国の変遷が見えてくる壮大な体験になるな・・・。