映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイーズ・オズモンド 監督「ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生」3519本目

ケン・ローチに対して、リスペクトがある一方、そうは言ってもオックスフォードを出てBBCの社員になった人でしょう?という穿った気持ちも少しあった。この作品の中で、BBCがチャンネルを増やした時に増員が必要になって、労働者階級の人たちもたくさん雇われたという話が出た。本物の労働者階級だった。(父親が保守党を推してたという話もあったけど)、オックスフォードで初めて階級の違いを意識した、という話はとてもリアルだ。

じいさんになった「ケス」の少年が当時のことを語ってたり。ローチ自身が事故で息子を失ったときのことを思い出したり。彼が”頭で演じる”、彼自身が使わないタイプの役者だったと妻が語ってたり。

「ケス」や「麦の穂を揺らす風」の一部を見ながら、それらの作品を見たときに感じた辛さを思い出して、気持ちが弱ってしまいそうになる。

改めて、私はどっちなんだろうと考える。長年好きな英国は、昔貴族が建てた立派な建物の前で、労働者階級のミュージシャンたちがロンドンなまりで歌を歌う英国だ。幸福な旅行者にすぎない私は「どっちも好き」と言える。ケン・ローチは保守党支持の労働者階級出身のオックスフォード卒業生でBBCの社員だったけど、どこかで自分のポジションを確固として固めたのだ。私が知りたかったのは、こういうことだった。

彼を本当に知る上ですごくいいドキュメンタリーだと思うんだけど、なんでこんなに平均評点が低いんだろうなぁ?