映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

犬童一心監督「名付けようのない踊り」 3545本目

これすごく見たかったやつ。田中泯のたくましく、なまめかしい佇まいがドラマの中に現れると、何をしてても投げ出して見入ってしまう。これまた大好きな元ブランキー・ジェット・シティの中村達也のドラムに載せて踊るなんて、すごい。刺激的。二人とも時代劇の刺客キャラだ。芸術なのかな、さっぱりわからないけど、わからなくてカッコいい。しびれる。大人になって長々と生きてると、わかりたくなくてもわかってしまうことが増えてつまらなくなるけど、この人たちみたいにさっぱりわからないけどすごいものが、まだまだたくさんあると思えると、がんばってもっと大人になりたいと思う。

地方の路上で、彼が何をやっても人だかりが付いてくる。踊りなのかなんなのかわからなくても、ゾロゾロ付いてくるのが可笑しい。

映画を見ながら彼のプロフィールを見ていたら、彼が主催していた「舞塾」のパフォーマンスを当時、大学のイベントで見たことに気づいた。今もよく覚えてる。全裸の男女が次々に大学の中庭に現れて、なんだかみんな歓喜しているようだった。全身で生きる喜びとか愛する喜びとか春の喜びとかを表してるみたいに、ゆっくりゆっくり歩いていった。あれが田中泯だったのか。誰が呼んだんだろう・・・トラックで学校に乗りつけたりしてた当時の学生会長かな・・・(※女子大です、バブル真っただ中の)いやらしいとか怖いとか思わなかったな。素晴らしいとか好きとかも思わなかったけど、すごい歓喜だということは伝わってきて興味深かった。とてもフラットに新しいものを観察した感じ。当時、白塗りで踊る「白虎社」の方がセンセーショナルな感じだなと思ったりしてたな。

舞踊家って神がかりにも見えて、巫女とか、八百万の神様のたぐいにも見える。天と下々の私たちの間にあって、自分の意思ではなく何かを受けて踊るもの。この映画はすごく彼に近いところから、現在の彼の中の心象風景まで掘り下げて共有しようとしてくれた感じでした。もっと彼の客観的な踊りの歴史(昔の動画とか)を見せるドキュメンタリーも見てみたい気持ちがかえって強くなってしまうけど、今の彼に近づけた感じはします。

誰かもう一本ドキュメンタリーを撮ってくれ・・・ぜひ。