映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョーダン・ピール監督「NOPE」3583本目

<結末にふれています>

ジョーダン・ピール的異世界にまた足を踏み入れます。

最近よく(※仕事で)見ている”超常現象”だの”UFO目撃”だのといった世界をアフリカン・アメリカンの兄妹を中心に描く、という設定がまずもって新鮮。ドリー・パートン的ブロンド女優や馬の調教といった、典型的な白人のカントリー・ランチを仕切っているのが彼らやアジア系の人たちで、そこに白人たちが撮影に来る、という状況も可笑しい。この「なにこれ?」感がいいんだ、ジョーダン・ピールの作品は。

みなさんのレビューを読むと、それぞれいろんなことを受け留めていて興味深いです。作品に監督が隠した意味って、意図したものというより、監督の暗黙の意識がにじみ出てると考えて観察すると面白いんじゃないかなぁ。たとえば・・・主人公が監督の価値観を一番表しやすいのは当然として、主人公の味方は誰で、敵は誰なのか。チンパンジーのゴーディのエピソードは本編と関係ないかと思ったけど、アメリカ的なホームドラマで、可愛がられつつおもちゃにされるチンパンジーが、白人にとって都合のいい「アンクル・トム」のように見えてしまったりする。大人にいいように使われる子役もそうだし、撮影に使われる馬も同じ。それでも、子役でありアジア系のジュープは最後やられちゃう。言葉は悪いけど”ホワイト・トラッシュ”的なエンジェルやホルストに、主人公たちは仲間意識をもつけど、最後はやっぱりやられる。残るのは「僕」と「妹」だけだ。それは、やられた人たちに対する敵意や憎しみではなくて、家族しか信じられないという孤独感が無意識のうちに出てるんじゃないか、とかね。

キレまくった後のチンパンジーが少年に「やったぜ」みたいなポーズをする場面があったので(あの子まで襲うかとヒヤヒヤしたけど)、少年は生き延びるのかなと思ったけど、やっぱりやられちゃった。

最後の最後に大食いUFOが爆発していろんな欠片が降ってくるのは、そのまま映画の冒頭につながる。生物の本体だけじゃなくて、着衣や荷物まで消化しちゃうUFO。あいつだけじゃなくて、他にもいるはずから気を付けろよ・・・。

NOPE/ノープ(字幕版)

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