大好きな映画なのでまた見ました。1938年のヒッチコック英国時代の作品。
サスペンス色は強いんだけど、胃を締め付けるような死の恐怖、という感じではなくて、家族で見に行けそう。全体的にすごく見事に計画され、まとめられた、とても完成度の高い作品だと思います。
最初はたまたま同じ列車を待つだけの群衆のように見えた人々が、少しずつバラバラになって、それぞれの素性が語られていく流れとか、見事ですよね。当時の列車で旅行することは、今なら飛行機で出かけるのと同じくらい、非日常の場だったんだろうな。集う人々がみんなどこか高揚していて、見ている私たちもこれから何が起こるんだろうとドキドキしてきます。ツカミを大事に作り上げる、なんとなく舞台っぽい演出です。
マイケル・レッドグレイヴはヴァネッサ・レッドグライヴのパパなのか。一見軽妙だけど洞察力が深く、いざというときの判断力、行動力も高い、頼れる男。
最初はにぎやかな女子旅グループとしか思わなかった中に、これから結婚するマーガレット・ロックウッドがいて、彼女の強気な性格がだんだん大きな意味を持っていきます。
冒頭すぐに登場する「中年の婦人」、なんとなく浪速栄子を思い出す・・・。昔の中年女性は出産や育児や家事で疲れていたのだ。というか今はいろんな手法で若さや元気をキープしてるけど、これが本来の姿か。でもこの英国婦人、ひ弱に見えるけど実は映画では見せなかっただけで、武術やさまざまなトリックを駆使できるスーパーな女性だったのに違いない。「あの人がまさか!」という驚きがあると楽しい。
「The Lady Vanishes」を「消えた乗客」みたいな邦題にしなくて良かったんじゃないかな。「消えた乗客」もスリリングだけどなんとなく小粒で地味な感じがする一方、「バルカン超特急」というと、どこかエキゾチックな地域でのすごい列車、というワクワク感があります。今みると別に超特急ではないけど、タイトル大事・・・。
今回また見て気づいたことはほかに、「敵」として描かれてる人たちはイタリア語かドイツ語を話してるってこと。第二次大戦直前の、悪い予感の立ち込めるヨーロッパだ。英米は勝利し、日本は独伊側について負けたわけだけど、万が一これが逆だったらその後どんな世の中になってただろう・・・と思うと、決していい感じではなくて、ちょっとぞっとしますね。