映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

オリヴィア・ワイルド監督「ドント・ウォーリー・ダーリン」3597本目

どうもオリヴィア・ワイルドとトニ・コレットを混同してしまいがちな私ですが、ワイルド監督の第二作がこんなサスペンス・スリラーだったりすると、ますますトニ・コレットの驚愕した顔が浮かんできてしまいます・・・

にしても、良い。映像のセンスがとてもいいし、懐かしげなアメリカのオールディーズ音楽のチョイスもいい。存在感があって、すべての虚構をリアルに感じさせるフローレンス・ピューはこの映画でもとても良いし彼女をこの作品の主役に選ぶのも大賛成。ここで主役をもっと弱弱しい不思議っぽい女性にしたら「ローズマリーの赤ちゃん」のミア・ファローとなって、観客が(どっちを信じたらいいかわからない)と思い始める効果があるけど、ここにフローレンス・ピューをあてると、賢くて強くてまっすぐな彼女に、観客(とくに女性)の多くが自分のこととして共感しながら進むはず。

この舞台はいつ、どこなんだろう。クラシックカーが走る時代、アメリカの砂漠近く、謎の兵器の開発が行われている地域の研究者の妻の物語なんだろうか。そういう前情報も、なにも与えられないのがまたいい。かなり周到に構築された世界に、いきなり放り込まれる。お前も一緒に体験しろ、と。この映画の真骨頂はここですよね。

<以下ネタバレともいえそう>

マトリックスなのかアバターなのか、”肉体”ではなく意識のなかで展開する理想郷、というテーマが使い古しだと思う人もいるだろうけど、ワイルド監督の視点は「ブックスマート」でもこの作品でも、怒れる現代女性。男の仕事の都合のために、キツくてやりがいのある仕事を勝手に奪って優しげに「君を幸せにしたい」と鳥かごに閉じ込める、だと?そんな男たちは、気づいてしまった女たちに刺されればいいのです(※あくまでも、監督を代弁しているつもり)。ここまでなら合わせてあげてもいい。でも私たちは私たちの道を行きます(←これは監督自身が演じている役柄の立場)。

ジェンダーって本当に不自由で、長年にわたって感じてきた違和感は異性にはピンとこないかもしれない。という意味で、この作品は結婚してもしなくても、仕事を続けてきた女性にこそ監督の熱い胸の内がわかるんじゃないかと思う・・・というのも私自身のいろんな偏見によるものかもしれないけど。

オリヴィア・ワイルド監督、いい。次作も大いに期待してます。