映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

早川千絵監督「PLAN75」3598本目

このテーマの作品はいつか誰かが作ることが決まっていたような気がするし、それが超高齢化社会を突き進んでいながら少子化対策も高齢者の政策も全然整っていない日本で作られたのは、必然なんじゃないかと思います。

映画好きな大勢の人たちに愛されてきた倍賞千恵子や演劇業界を引っ張ってきた串田和美が高齢者たちを演じるのもふさわしいし、彼らが演じる高齢者たちの置かれた環境も、こうであるだろうと想像できる。「PLAN75」のシステムは妙にかっちりしていて、政府が宣伝に力を入れていて、現場の人たちによるケアが行き届いているというのも、ありそうに思える。・・・それが残酷なんですよね。

安楽死の制度は高齢者に限らないし、超高齢化社会をもたらしたのは生まれて年を取っただけの市民たちじゃなくて、けっこうな税金を徴収しておきながらこんな社会にしてしまった政府なのに、被害者意識を持ってしまった人たちは真剣に政治を変えようとするより、年を取った人たちをどうするかばかり考えてるように見える。これ以上人口を減らしてどうする。問題のすり替えも甚だしくて、ものごとをよく、深く、考えることをなぜしないんだろうかと思ってしまう。

「死を選ぶ自由」を実現するシステムの問題と、高齢化対策は同列に考えちゃいけない。この映画が、それらを一連のものとして表現したものだと思い込むと、さらにおかしな議論が始まりそうで、考えない人たちの大きな声が怖いです。

磯村優斗の演じる感情の揺れもいいし、河合優実(2年前の「由宇子の天秤」では中学生役!)のいまどきの若い女性の感情の動きもよかった。だけど高齢化問題は、”誰かが死ぬと悲しい”みたいな感情で語っちゃダメです。死を選ぶかどうかという二択問題に矮小化するのもダメ。改善のための選択肢は、今まだ誰も気づいてないものも含めて無限にあるはずなのです・・・。

 

PLAN75

PLAN75

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