映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

高橋伴明監督「夜明けまでバス停で」3599本目

「PLAN75」と同様、これも誰かが作らなければいけなかった映画なんだろうな。最初に聞いたときは、おおげさだったり感傷的だったりしないといいなとちょっと心配になったけど、いい映画でした。実際に起こったシャロン・テート事件に対してタランティーノが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を作ったように、この製作者たちは、問題提起をしながら「こうあるべきだった姿」を作って見せてくれました。おかげで少し救われたような気がします。

実際の事件が起こったバス停は私の家から徒歩20分くらいのよく知っている場所。コロナで中止になるまで区の福祉施設にボランティアで通っていて、区の人たちが野外で暮らす人たちのことにも気を配っていると思ってたけど、あの時期はみんな屋内にこもっていて誰にも助けられなかった。気づいてあげられなかった。何もしてあげられなかった。・・・私がちょこちょこボランティア活動に参加したりしているのは、贖罪みたいな気持ちからかもしれません。

映画で撮影してるバス停は実際のバス停ではないし、被害者は60代だったし、「明日こそ目が覚めませんように」という言葉はある本に書かれたホームレスの人の言葉だし、いろんな事実やフィクションを組み合わせて映画は作られています。でも本当に、コロナで住み込みの飲食店の職を失った人って、私が会った人は、私たちと同じ、なんなら私よりよっぽど真面目そうな方でした。都庁下で食糧の列に並んでいる人たちは、ボランティアと一見、見分けがつかない人も多いです。(今は毎週700人も並んでます)この作品では、誰かを逆恨みするのでなく、自己責任?で爆弾テロを試みるのが痛快ですね。(「腹腹時計」という怪しく昔なつかしいタイトルの手作り冊子が、アナログというより”アナクロ”で素敵)

板谷由夏、片岡礼子、柄本明、根岸季衣もだけど、おばちゃんになったルビー・モレノも、嫌ったらしい上司になりきった三浦貴大も、覚悟した演技を見せてくれてとても良かったです。真面目な店長を演じた大西礼芳もいい。

目触りだといって殴打した人も、公判前に自分で命を絶ったんですよね、実際の事件では。そこまで周囲の変化を受容できない状態に病名をつけようとすればついたかもしれない。

怒りは強いけど、誰か特定の人たちに対する憎しみではなくて、むしろなんとなく大きな人間愛の感じられる作品でした。