映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

石川梵監督「世界でいちばん美しい村」3600本目

マグニチュード7の地震のあと、まだ復興していないネパールの震源地近くの村の状況を撮った、報道写真みたいなドキュメンタリー映画でした。

最近、ネパールのことが身近でよく話題になる。ときどき大久保のネパール料理店で600円の「ダルバート」(豆のスープ、カレー、漬物、ご飯の簡単な定食)を食べる。日本語教師仲間から、ネパールから親に連れてこられた子どもに日本語を教えるのに苦労している話を聞く。数家族で狭いアパート一室で暮らしていると聞いて心配になる。

一方で「日本の中のインド・ネパール料理店」という本を読んだら、ネパールから日本に働きに来て定住し、自分の店を開き、親類をたくさん呼んで北海道でも沖縄でも商売を拡大していくたくましいネパールの人たちの話も知った。

日本に来た彼らを、この大地震と結びつけて考えたことはなかった。断片的な知識を自力で結び付けるのって難しい。ウクライナから日本に来た人なら、みんな戦争から逃げてきたと連想するのに。テレビ局や新聞社の人たちも、インドネパール料理店で流行のスパイスカレーを食べるのに、日本で暮らす彼らに本気で興味を持って調べる人がすごく少ないってことじゃないかと思う。大きな災害は報道されるけど、そのあとの復興のことを知ることは少ない。「誰も見ないから取材しない」と思ってるかもしれないけど、もうちょっとがんばってみてくれたらいいのに。

数家族で暮らすことは、もしかしたら、別にすごく嫌なことじゃないのかもしれない。「幸せって何?」「豊かさって何?」と根源から考えてみると、欧米の高級食材を食べることが豊かなわけじゃないし、家族で仲良く暮らす幸せは世界中、人間でも動物でも共通の大いなる幸せだと思う。

・・・ということを踏まえても、この村だけが世界で「いちばん」美しいのかどうかはわからないなぁ。ブータンの子どもたちもマレーシアの子どもたちも、とても美しかった。石川さんは本当にそこが「世界でいちばん美しい」ことをタイトルにする必要があったんだろうか。その土地に住む人にとっては、そこが世界でいちばん美しいってことかな・・・。