映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

デイミアン・チャゼル 監督「バビロン」3604本目

〈若干、結末にもふれています〉

映画館で見ておくべき!という声をちらほら見て行ってきました。20:30開始、終わったら午前0時の歌舞伎町・・・席もけっこう埋まってたし、そんな時間でも街に人があふれてて、コロナ心配だけどその活気が嬉しく思えてしまいました。

で、「バビロン」。下品だという人もいたけど、汚いものを扱いながら品のある作品だなと思いました。荒唐無稽を愛する品性高い人たちが作った作品。アジア系やアフリカ系の役者さんが比較的自然な形で出てたりするあたりが、現代の良識あるハリウッドってかんじ。1915年の「国民の創生」よりクララ・ボウが活躍した1920年代は少し後だけど、ミュージシャンの顏に墨を塗る以上の差別的扱いが当時はもっとあったんじゃないのかな?でも人種差別だけがポイントではないので、そこだけにフォーカスしないで、制作現場のさまざまな苦労や死をからめて総合的に当時の現場のひどさを描いたのかな。

この映画を作ったチャゼル監督の気持ちを想像してみる。「セッション」「ラ・ラ・ランド」「ファーストマン」ときて今回も、世界の頂点に立つスターの目が覚めるような輝きと、泥にまみれるような裏側、という、極端な光と影を描いたことは理解しました。

監督の映画に対する思いが強いことはわかるけど、闇にかなりフォーカスしてるところが「ニューシネマパラダイス」や「フェリーニのアマルコルド」と違う。酒池肉林を描いてもバズ・ラーマンとは違う。栄光の影に大混乱があって踏みつけられた人たちがいて、恐ろしいところだハリウッドは、だから気が狂いそうなくらい強烈に惹かれる、ということを見せてくれた。蜜と毒。

それにしても「イントレランス」みたいに膨大な出演者の数。ブラッド・ピットはだんだんマーロン・ブランドみたいになってきた。マーゴット・ロビーは何にでもなりきるので大好きなんだけど、この作品でも期待を裏切りません。それよりマニーことマヌエルを演じたディエゴ・カルヴァがすごく良かった。若い頃のアントニオ・バンデラスみたいな、見開いた黒目がちな瞳と、呆けたように開けた口。彼の表情で魅了、恐怖、感慨、などさまざまな場面が語られた作品になりました。

結末はアンチクライマックスではあるけど、収まるところに収まったという気もします。ネリーは彼女を型にはめようとする男とは、いくら愛されていてもやっていけないだろうなと思ったけど、実際のクララ・ボウは結婚して静かに郊外で暮らしたらしい。(性に合わなかったかもしれないけど)

以下、役者さんたちについて。

トビー・マグワイアは「サイダーハウス・ルール」や「華麗なるギャツビー」では傍観者の役だったので、この作品でもそうなるかと思ったらとんでもない怪演でしたね。こんなイカレた奴が出てきたらもう八つ裂きにされても仕方ない、みたいな、カタストロフィを予感というより期待させる役どころを嬉々として演じてて、怖いけど楽しかった。

中国系のミステリアスな女性を演じたリー・ジュン・リーのモデルはアメリカ初の中国系スターとなったアンナ・メイ・ウォンという女優さんなんだな。一方で、レッチリのフリーに似た演技のうまい中年の俳優がいると思ったらまさかの本物じゃないですか!ステージでいつもネリーより弾ける満身タトゥーの彼が、破天荒な役者たちをいさめる重役を演じるなんて思ってなかったので、歯並びで確認するまでずっと半信半疑でした。なかなかやるなぁ。

クララ・ボウの映画は「つばさ」しか見たことないので、YouTubeで「It」も探して見てみよう(著作権切れてるので大丈夫)。この映画を見ないと、「バビロン」の映画体験は完成しないような気がする・・・。