村田喜代子「偏愛ムラタ美術館【発掘篇】」という本を読んだら、黒澤明の絵コンテ集のことが書かれていました。映画より絵コンテのほうを強烈で面白いと感じる著者に共感するところがあったので、本で絵コンテが引用された映画をさらっと何本か見直してみようと思った次第。
「夢」は、寺山修司「田園に死す」(1974年)の黒澤版だなぁ。そして、画面の印象は確かにゴッホや棟方志功を思い出す絵コンテのほうがインパクトが強烈。映像になるとリアリティが増す分、怪しさは際立つけど。夢の中では人間の頭:胴体の割合や遠近感なんかもどうでもいいもんね。
この映画、作品としてはとらえどころがないけど、何枚かの絵の完成度はすごいです。自分が死んだことがわかっていない一小隊が、シベリア帰りの上官のところにやってきて、号令を受けて一斉に闇へと行進して帰っていく映像、とか。中心にいるのが常に凡人で善人であるところの寺尾聡、というのも夢に圧倒される感じを強調しています。(インパクトの塊のような黒澤監督が自分を彼に化体するのはちょっと不思議)