映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アンドリュー・ドミニク監督「ブロンド」3625本目<KINENOTE未登録>

これもNetflixでしか見られないやつ。マリリン・モンローに対する性暴力の実際の有無や表現に対する疑義がさかんに語られた問題作ということで、見るかどうかも迷ったけど見てみました。

アナ・デ・アルマスは適任だと思う。マリリン・モンローに似ているかどうかより、彼女の魅力は「赤ちゃんみたいな可愛いらしさ」がセクシーさより先に来ると思っているので、童顔で無垢なイメージがあるアナは理想的なキャスティングに思えます。

でもマリリンを滅ぼしたのがその可愛いらしさなんだろうな。とても悲しいけど、この作品は彼女に対してなんらか存在したはずの性暴力をやや増幅してみせて、一人の女性がどう追いつめられていくかを描いたのかなと思います。

あるいは、増幅ではなくて矮小なのかもしれないよね、もうすべてを語る人はいないだろうから、本当のことはわからない。美しく微笑む女性の心のなかに、どんな痛みがあったか。ここ数年のあいだにも、映画界の大物が長年行ってきた性暴力が明るみに出たりしているくらいだから・・・。

彼女が撮影現場などさまざまなところで常態を保てなくなる場面は、制作者の想像と誇張だし、むしろ平静を保っていても心の中はボロボロだったんだよ、ということだったんじゃないかと思います。見てて辛くなる映画だけど、妊娠して子どもを失うことに関連する女性の気持ちってこのくらい辛い(あるいはもっと)のではないかと想像します。ありえたかもしれない、誰もが目を背けていた世界を、マリリン・モンローという誰からも愛された存在を通して描いた、意味のある作品だと思います。