映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リン=マニュエル・ミランダ監督「tick,tick・・・BOOM!:チック、チック・・・ブーン!」3626本目

<ストーリーに触れています>

「イン・ザ・ハイツ」と同じ監督なんですね。で、原作となった戯曲を書いたジョナサン・ラーソンは「RENT」の作者。彼はこの戯曲とRENTを書いてすぐに亡くなってしまった。

この映画のなかで、主役のジョン(ジョナサンの略「Jon」)はジョナサン・ラーソンと同じように「SUPERBIA」という戯曲を書いてやがて認められます。ジョンの幼馴染のマイケルは、役者を諦めてマーケティングの仕事について成功。ジョンが焦って「僕にはもう時間がないんだ!」とマイケルに怒鳴る場面で、マイケルは「時間がないのは自分のほうだ」と自分がHIV陽性であることを告げます。ジョンは深く後悔して彼に詫びるのですが、SUPERBIAが認められたあと、この映画の最後ではジョナサン・ラーソンの急逝が語られます。時間がなかったのは彼の方。。。無意識の焦りには無意識の理由があったんでしょうか。

そもそもタイトルが、日本語にすると時限爆弾の「チッチッチ・・・ドカーン!」になるわけで、テーマ自体が「焦り」だと思うのですが、この「BOOM」は彼の大ブレイクでもあり、突然の終わりと取ることもできます。若いころって、自分が何者にもなれないまま時間だけ過ぎていくように思えて焦るもので、ジョンに共感してやきもきしてしまいます。

ちゃんと中年になるまで生き延びている私や同年代の人たちは、懐かしく甘辛くこの映画を見るのかな。それとも、ジョナサンのあるべきだった未来を思って泣くのかな。

とても切なくなるけど、キラキラ輝いて、希望で胸いっぱいだった瞬間が美しく、まぶしく感じられるのでした。