映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

園子温監督「愛なき森で叫べ」3627本目

最初のほうはみんな、演技がかたいなぁと感じました。監督の初期の自主制作作品みたい。

椎名桔平が演じてるのは、面白い男だなぁと思うけど、「冷たい熱帯魚」のでんでんや「凶悪」のリリー・フランキーみたいな背中が鳥肌立つようなうすら寒さはなかった。怖くなかった。計算づくでちょっと抜けてる善人のように振舞う”人たらし”なら、もっとゾッとする人が身近にだって何人もいた気がする。映画制作倫理が厳しくなって、監督が以前ほど俳優を追い込まなくなったんだろうか?

園子温監督作品の、徹底的に追い込まれる感じがどこか快感で、最新作はいつも劇場ですぐに見てたけど、どこからか、物足りなくなってきた。監督がエスカレートしていったのは、そうやって期待値をどんどん高くしていった観客の私たちのせいなのかとも思う。

終盤になって、「熱帯魚」みたいな解体の場面とかは以前の作品のそういう場面と同等の気持ち悪さだったけど、終わり方もどことなくスッキリしない。悪が圧勝するのか、それとも裁きを受けるのか、あるいはさらに大きな何かがやってくるのか。過去の作品のエッセンスを全部混ぜたような映画で、各場面は迫力があるけど、全体がひとつになって大きな波みたいに圧倒してはこない。「ヒミズ」や「愛のむきだし」のような感動をいつかまた見せてくれたらなぁ。それとも、私の感覚のほうが慣れてしまって鈍ってるのかな・・・。