映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジア・リン 監督「こんにちは、私のお母さん」3629本目

<結末にふれています>

4月だし何かちょっと勉強しようかな、中国語なら第二外国語でやったから、中級講座からいけるんじゃないか・・・とNHKラジオの「ステップアップ中国語」のテキストを買ったら、3か月かけてこの映画の脚本の色々なフレーズを学ぶという内容。それなら、おおもとの映画を一度見てみよう、と探したらU-NEXTにあったので早速見てみた次第です。

冒頭の関係各社のオープニングロゴの多さに、まずびっくり。知らない会社がほとんどです。改めて、現在の中国の映画のことを何も知らないし、まったく見てないと認識して、お隣なのにずいぶん遠い国になっちゃったな・・・と実感。

映画が始まってみると、はっとするくらい懐かしげな映像。朴訥であたたかみのある、昭和のホームドラマのような雰囲気です。(「渡鬼」?)監督・脚本・主役のジア・リンが演じるのは、ふっくらとして愛嬌のある女の子(女子高生です、あくまでも)。彼女が飛び込んでしまった異世界で出会う人々も、なんとなく吉本新喜劇みたい。不器用で真っ正直で、ちょっとコミカル。ラース・フォン・トリアーとかクリストファー・ノーランとかの映画を見慣れた疑い深い私には、彼らの心のまっすぐさがまぶしい・・・。

見る前にどこかのサイトを見たら、監督は若い頃に両親を亡くして、姉の仕送りで進学したと書いてあったので、その姉を母になぞらえて作った映画なのかな、と勝手に思い込んで見てしまいました。大きな誤解。結末に向かって、母のことが明らかになってきて、その愛と主人公の思いが高まり・・・。監督のお母さんの実際の写真が現れ、彼女が48歳で亡くなったことが語られます。異世界ものとしては、いろいろ無茶な展開が多い作品だけど、監督が亡きお母さんへの思いを注ぎ込んだ渾身の一本だということがわかってからは、涙が止まらず・・・。思い出すだけで泣けてしまって困ります。

52歳で亡くなった自分の母のことを連想したわけでもないんだけど、そのときの思いが勝手に再生されてしまうのかな。とにかくこれでは中国語の勉強にならないので、映画として堪能できてよかった、ということにしよう。(※大学でちょっとかじったくらいで中級などほど遠い難しさ、ということはさておき)

こういう素朴な普通の人々を描いた作品を見ると、その国に親しみを感じてしまいます。どこで生きる人たちにも、共通の感情や思いがある。この映画は、作品としての出来うんぬんより大事な、そういうものがストレートに込められているのが本当に素晴らしいですね。