映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉野竜平 監督「君は永遠にそいつらより若い」3631本目

久しぶりにこういう映画を見た気がする。こういう、というのは、非力な傷ついた者たちの静かな諦念が、リアリティをもって伝わってくる映画、ということ。

現実の犯罪サバイバーのその後は、人の数だけ違うパターンを描くんだろうけど、物語のなかで描かれる彼ら彼女たちには、傷と一緒に静かに暮らす、傷を見せながら克服しようとする、傷にとらわれて苦しみ続ける、といったパターンが多いと思う。世間は加害者だけでなく、被害者のことも忘れてくれないし赦してもくれない。

現実の世界にはもうひとつ、何事もなかったように装って、強く明るく生きて幸せになろうとする、というパターンの人が多いと思う。過去の傷のことは一生誰にも言わずに墓場まで持っていく。唯一、遺書で告白するパターンなら物語にもある。夏目漱石「こころ」とかね。でも、人間、知らないことは再現できないので、ピカピカでキズひとつない幸せを手に入れるのは簡単じゃない。

そう、この映画のいいところは、無理に幸せになろうとか克服しようとか、誰もしないところだな。生も死もしずかでゆるやかだ。そして、若さゆえにみんなちょっと変に勢いづいてたり、手探りだったり、無知だったりするのも自然。

人間社会のなかで何があっても、生き続けてほしいと思う。会社や家族や恋人とかの恩恵がない人でも、生きててよかったと思えることはたくさんあるのだ。一人でもそれほど健康でも賢くもなくても、お日様は平等に降り注ぐし、そこそこ美味しい新鮮なごはんが食べられるし、美しい風景を見ることも、可愛い動物を抱きしめることもできる。変わらない恩恵は、そういう変わらないものからしか得られないし。変化し続けるものには期待せず、ときどき降ってくるものをありがたくいただけばいいのだ。

この原作者の本は読んだことがなかったので、さっそく読んでみたいな。攻撃するみたいに幸せを連呼する作品ばかりだと疲れるしね・・・。