映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

中江裕司 監督「土を喰らう十二ヵ月」3638本目

枯れた味わいのある、山菜や筍の土くささが漂ってくるような作品。河瀨直美の一連の作品や、「リトルフォレスト」や、NHKの「やまと尼寺 精進日記」など、山のものを料理するいろんな映像を思い出す。(お通夜の日にネクタイ締めて料理している沢田研二は、土井義春の父の土井勝に見えてしまう)

枯れてるけど、まだ死にそうにない。お腹は出たけど血色のいい沢田研二(ツトム)、地味なアースカラーをまとった松たか子(別れを告げに来たときだけ、藪を歩きづらそうなロングブーツに赤いスーツ)、ずうずうしい西田尚美と尾美としのり夫妻、みんなまあまあ元気だ。

というわけで、実は全然枯れてない映画だった。この監督は若い頃「パイナップルツアーズ」や名作「ナビイの恋」を撮った人じゃないか。てーげーで優しくて元気でバカ、そういう若者を描いた作品たち。あの、私と同世代のてーげーな監督が、今はこんなぱっと見「祖谷物語」みたいな映画を撮る歳になってたんだと思うと、感慨があります。

沢田研二って、多分イケメンでセクシーな自分があまり好きじゃなかった人なんじゃないかなと思う。同じように高齢者になった田中裕子と二人で、地味で普通な生活を送ることをじっくり味わってるように見える。

U-NEXT特典として付加されてた監督・松たか子・土井義春のトーク映像を見ると、監督は達観した教祖みたいな河瀨直美とは違って、緊張しまくってしゃべりまくっていて、ああやっぱりこの人は「ナビイの恋」の人だ、となんだかほっとしました。この作品でも、生に対する色気や欲がまだまだある自分たちが枯れた生活に憧れる、という距離感が感じられるところが、親しみやすさになってる気がします。ちゃんと明るくて、ちゃんと生き生きした、気持ちいい山の生活。水上勉はほんとはこんな人じゃなかったと思うけど(だって「飢餓海峡」だよ)、確かに沢田研二はすごくいいし、なんとなくこの映画好きだな。