映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

城定秀夫 監督「夜、鳥たちが啼く」3790本目

佐藤泰志の原作作品がまだ作られてるんだ。なら見る。

誰かが感想に、彼の原作作品の中では一番結末が明るいと書いてたけど、そうだな。鬱屈しているばかりで、上手に作品として表出することもままならない男と、欠落だらけの女。私には今も山田裕貴の良さがよくわからないけど、松本まりかいいですね。綺麗で一見さわやかだけど、心は暗闇の中にいるような重さがある。欠落が食虫植物みたいに、あでやかに、男たちをひきつけて呑み込んでいく。

でも、底からどん底へ滑り落ちていくような場面はこの映画にはない。”まだそこまで行ってない”だけかもしれないけど、この風景は、自分や自分が過去に付き合った人も含めて、だいたいみんなこんな日常だ、という風景。そこから、何かのきっかけでクサビが外れたみたいに転がり落ちるか、あきらめずに這い登るか。(底の底で達観して笑う、というのもいいけど)

みんないつの時点で夢をみたり自分に過大な期待をしたりするのをやめるんだろう。死ぬまで乙女のような夢を見続ける人もいるんだろうけど、達観した後にも美しい世界を見続けられる人もいる。(私もそうかも)

なんとなく危なっかしい、スレスレのところをゆらゆら歩いている二人と一人の子ども。なんとなく、数日後の新聞になにかの事故か事件の被害者として載ったりしないか、ハラハラする。

でも逆に、見てると落ち着く気もする。なんだろうこの気持ち。自分自身が、ゆらゆらしている人たちを「神の視点」みたいな遠いところから見ていると、ちょっと愛しい気がするからかな。自分も赦されるような。何も起こらない、大きな変化など何も起こらない映画だけど、不思議な感覚を、押し付けずに感じさせてくれる、という点で、共感できる人はむしろ少ないのかも。客観的な評価などしにくい映画だなぁ。でも嫌いではないです。