映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「ローラ」3802本目

<結末にもふれています>

「嘆きの天使」とは全然違うんだ。時代を変えただけではなくて、教授のキャラクターも違うし堕ち方も違うし結末が冗談みたいに違う。一緒なのは、歌手の女に誘惑されて(いったん)身を持ち崩すところだけだ。出資者に「ハッピーエンドにしないと命はないぞ」とでも言われたのか。そうでもなければ、この監督の作品は全部バッドエンドだと思ってた。いやでも、ローラの行いが変わってないからには、この家庭は近い将来破滅することになる、んだろうか。

監督の政治的な立場はどうだったんだろう。この作品は1981年、東西統一までまだ8年もある。おちょくられるだけみたいな真面目男フォン・ボームは、建前やきれいごとの代表のようにも見える。

ローラを演じたバルバラ・スコバは「マリア・ブラウン」もほうふつとさせる、丸顔でちょっとけだるい美女。ケイト・モスとか、今の日本なら小松菜奈みたいな、顔立ちは親しみやすいのにぜったい愛想笑いしないタイプ。歌手と名乗りつつ、クソみたいな権力者に金で囲われている生活に心底嫌気がさしていて、新しく赴任してきた仕事のできる中年男に惹かれる。彼女に、彼を破滅させる意図はあったのか?もし私が彼女の立場だったら、と想像すると、そもそも今の生活が死ぬほど嫌なので、悪い予感はするけど、後先考えずに突っ走ってしまったかもしれない、と思う。せいぜい”未必の故意”だな。

全体的に、ファスビンダー的な病んだ感じが全然ないし、会話が多くて、画面がうるさめ(人や物が多い)。1回目は「嘆きの天使」を期待して見たこともあって(あれ?あれ?)と思っているうちに終わってしまったけど、もう少しまっさらな目で2回目に見たらするっと入りました。

しかしやっぱり、こっちのローラは、酒場の女という素性を隠して男に近づいていくところがズルいよね。嘆きのローラと真面目教師は、場末の酒場でまっすぐ見つめ合って恋に落ちたところが、素直でいとしいんですよ。

でもこの映画ずっと見たかったから、見られて満足です!