映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリストファー・ノーラン監督「フォロウィング」3805本目

<ストーリーにふれています>

ノーラン監督のデビュー作。自主制作感や低予算感は強いけど、重厚で、制作者のこだわりのテイストがあふれる作品です。

複雑な時系列や主人公が抱える問題のありかたは、「メメント」を思わせるものがあって、これが下敷きになって「メメント」ができたのかな、と思う。集中して見れば一度でも理解できるけど、それでも、もう一度見返してみて初めてわかることも多い。

感想を書かれているみなさん、いろんな他の映画も思い出しているようですが、私は「マルホランド・ドライブ」も思い出しました。ノーラン監督がこのあと何度もテーマにする”良心の呵責”が、現実に起こったことの認識を歪めて、観客はその歪んだ現実だけを見せられる。犯罪者ってきっと私たちと紙一重で、万が一犯罪を犯してしまった場合、その重みに耐えられずに記憶を喪失したり、自分の行動を誰かに転嫁してしまったりする。この「紙一重感」が恐怖なんですよね、ある日自分がこうなってしまわないかと。

「マルホランド・ドライブ」を思い出したもうひとつの理由は、主人公の見た目がだんだん変わっていくところ。「マルホランド」では彼女が憧れた女性と自分が一体化していくけど、この作品では(「メメント」もだ)主人公を刺激し、そそのかす自分の分身が現れる。犯罪者の心理って、怖いけどすごく興味を惹かれてしまう。現代人の深層心理に迫っていくところが、ノーラン監督作品のすごさ、かもしれません。対象が1個人であっても、1つの国や1つの戦争、宇宙間であっても、浅く広くならずに、どこかを深く深く掘る。

この作品は、最後のどんでん返しが鮮やかだし、見る人を落ち着かなくさせる犯罪心理学的な部分が印象的だけど、この新人監督がいまのクリストファー・ノーランになることまでは、私には予想できない。だから、この作品を絶賛し、コマーシャルな作品の監督を次々と彼に任せていったプロの人たちの見る目はすごいなと、改めて思うのです。

フォロウィング(HDレストア版)

フォロウィング(HDレストア版)

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