映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

代島治彦 監督「まるでいつもの夜みたいに」4002本目

いくつになっても、以前の自分を思い出して、未熟だったなと思うことがある。

吉祥寺の、当時よく行ってたバーのカウンターに高田さんはいつもいて、いつもすごく酔ってました。店の人も私たち客もまだ30代で、50代の男がずっと飲み続けてることが全然理解できなくて、なんとなく(ああ、またいるな)としか思ってなかったのです。あの人はどんな人だったんだろう。音楽は当時もかなり好きだったので、「自衛隊へ行こう」を歌った有名なフォークシンガーだということは知ってたけど、自分から話しかけた記憶はない。彼のほうからかかわってくることも、ほとんどなかったけど、何か一度くらい話をした気がする。笑顔で何か親切なことを言ってくれたような、かすかな記憶がある。

すごく優しい人だったんだな。今こうやって、高田さんの歌を聴いていると、そう思う。やさしくて、さびしがりやで、少年みたいな人だ。高田さんはとてもちいさい人だった。こどもみたいに小柄で、いつも少しほほえんでた。あの店が好きだったんだな。亡くなったとき、まだ56歳だ。今の私より若い。そんな中年男に、なんかもう少し温かい気持ちを持てなかったものか。たまには話しかけてみてもよかったんじゃないのか。

若い頃によく知ってた人のなかに、もう今はいない人が何人かいる。毎年、わずかずつ増えていく。いつも、もう少し話をすればよかった、もっと知りたかった、とあとになって思う。話しかけてくれたときに、どうしてもっと喜んで返事をしなかったんだろう。

大切に思ってるのに話をしなくなった人たちのことを、もう一度思い出してみよう。ちゃんと話をしよう。高田さんの歌が優しいので、そんなことを思うことができました。