名作だったー。文句をつけるのが難しい、完成度の高い作品でした。さすが、なるほど、クロエ・ジャオ。
シェークスピアの時代にはまだインターネットはおろか電話もテレビもあるわけなく、印刷技術の普及もまだ用途が限定されていたはずなので、家族や生活のことはほとんど記録がないのは当然です。だからこの作品は原作も含めてほとんど創作だと思うけど、ハムネットという名の幼い息子を自分の不在時に失くしてしまったことと、ハムレットというよく似た(この映画の冒頭によると「ほぼ同じ」)名前の青年を主役を据えた悲劇をそのあとに書いたのは事実。作家の中にあったはずの息子への思いが、意図的ではなかったとしても、作品の中に反映されている可能性は高そうです。
で、あとはそれをどう描くかということなのですが、クロエ・ジャオの人間洞察が本当に深くて、思わず手を合わせて拝んでしまいそうなくらいです。今までの人生でどういう経験をして、これほどの深みを獲得したんだろう。…あるいは、ストーリーテリングがうますぎて、すっかり転がされてしまって、監督自身に過大な期待をしてしまっているのかな。
とにかく役者さんたちが素晴らしい。イギリスのミステリードラマは、役者さんたちがみんな演技が非常にうまくて、犯人が誰だかわかりにくい…とよくここでも書いてるのですが、そういう達者な人たちがちりばめられています。ジェシー・バックリーとポール・メスカルの自由な精神が自然。エミリー・ワトソンは30年前なら彼女がアグネスをやっただろうな。でもやっぱり印象が強いのはハムネット少年のいたいけな強いまなざしですね。彼もこの年齢にしてすでに、イギリスの素晴らしい役者の一人として立っています。ジャコビ・ジュープという名前だそうで、憶えておきたいと思います。スター・ウォーズのアナキン・スカイウォーカーもこの子がやったら可愛さ含みで複雑さが増してたかも、など妄想)