映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルキノ・ヴィスコンティ監督「ルートヴィヒ 完全復元版」2251本目

まぁなんて美しい映像、美しい男たち。女性より男性の美のほうが強調されてる映画って、だいたいホモセクシュアルの男性監督が撮ったとみて8割がたは合っている。だいいちルートヴィヒの物腰が見るからに・・・

ヘルムート・バーガーアラン・ドロンにちょっと似た正統派二枚目だけど、あの軍服の可愛い男の子は誰?と思ったら「早春」で青春を台無しにしたジョン・モルダー・ブラウンじゃないですか。本物のルートヴィヒとオットー兄弟の写真を見たら、二人ともよく似ています。耽美的な兄弟・・・。

ルートヴィヒ王はあのノイシュバンシュタイン城を建てた王なんですね!ドイツのツアーといえばノイシュバンシュタインです。未完成で世界遺産の要件も満たさない城だそうですが、ルートヴィヒを知らなかった私でも行ったことがあります。無駄なぜいたくをして豪華なものを作った王ほど、後世のその国の観光に多大な貢献をしているのって、すごく皮肉ですよね。

ものすごく美しい映画で、ストーリーもドラマチックだけど、全編口パクなのが気になって仕方ありません・・・。イタリア人が撮ったドイツの映画。ドイツ人俳優がたくさん出ているので、現場はドイツ語だったんでしょうかね。それにイタリア語の音声を乗せている。字幕じゃダメだったのかな。気になって仕方ないので、音声レベル落としてひたすら字幕を追うしかありませんでした。生の役者さんの音声が聞けるのって大事だなぁ。

晩年の崩れていくルートヴィヒも、花びらが落ちかけた花みたいに美しい。

今は質実剛健で華美を避けるイメージしかないドイツの一つの地方に、150年前はこんなにきらびやかな時代があったということに、改めて驚いたのでした。

ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター [DVD]

ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター [DVD]

 

 

ルイス・ブニュエル監督「哀しみのトリスターナ」2250本目

カトリーヌ・ドヌーヴは常に美しいなぁ。隙がない。しかし彼女がスペイン語を話すという設定は不自然。口パクの外国語は見ていてどうも疲れます。

フェルナンド・レイが少女を愛するというのは、「ビリディアナ」と同じだ。ビリディアナは修道女になったがトリスターナは俗世間に生き延びている。男と出奔もするし、ぬけぬけと戻って来たりもする。

スペインのカトリックは、結婚式に花嫁も黒衣を着るのか。ちょっと強烈。いや、この映画では彼女は黒を着ていることが多い。片脚を失ってからか、それとも出奔から戻ったあたりからか?初夜には真っ白な寝間着を着てたはず。わかりやすく彼女の心の汚れを示してるのか。

結末は時間をさかのぼるだけで、明確には示されないけど、なかなか後味の悪い映画です。

ところで、年を取った男たちが夜、家でココアを飲みながらおしゃべりしてるのって面白いですね・・・。

哀しみのトリスターナ [DVD]

哀しみのトリスターナ [DVD]

 

 

 

ペドロ・アルモドバル監督「アタメ」2249本目

アルモドバル監督の作品はいくつか見たけど、こんなに昔のを見るのも、アントニオ・バンデラス出演作品を見るのも初めて。最近の作品は熟成されてて深い~と思うことが多いけど、この作品って、もっと、カラフルでやんちゃで、おもちゃ箱みたい。浴槽の中で子どものおもちゃが突進してくる場面とか、どう考えても監督のお遊びだし。

その中で、エキセントリックでちょっとヤバいストーカーを演じてるアントニオ・バンデラスだけ目が怖い!・・・といってもこの監督の作品は暖かいので、ミヒャエル・ハネケの作品みたいに殺戮の場面にはなりません。いや、そもそも、精神病院に長く入ってたにしては日焼けして筋肉質だし、設定に無理があるといえばあります。

マリーナのほうも、最初からなんとなく、まんざらでもなさそう。以前バーで会って何かあったくらいだから、嫌いなタイプではなかったのかな。でも普通は、ちょっといいなと思ってた人に拉致監禁されたら憎さ100倍だと思う・・・。だけど、情にほだされるエピソードがあって、結ばれたあとはもう、ただの仲良しになります。

あちこちに、屈託のない笑いがあって、バカだけど憎めない愛情あふれる奴ら・・・。彼女のマネージャーをやってる姉が、ポジティブで強くていいキャラクターですよね。妹を拉致監禁されても、事情を聴いて「仲直りのキスで水に流しましょ」。ああ、こんなさっぱりした性格になりたい。

ストーカーと恋をすることってありうるのか、考えてみる。自分のために殴られても戦ってくれるし、最初から家族になりたい、子供がほしいと言ってくる男って、こんなセクシーな女性にはあまり寄ってこないかもしれないので、訴えかけるものがあったのかもなぁ・・。まぁこれはコメディ映画だからこれで一件落着だけど。

なんともチープな電子音楽が使われてるのも、B級っぽくて面白い。この監督がのちに、本格的な映画賞を受賞する作品をきたんだなぁ。

 

ヴェルナー・ヘルツォーク 監督「アギーレ・神の怒り」2248本目

この監督、いかれてるなぁ。だいたいドイツ人なのになんでこんなロケ隊まで組んでスペイン人の映画をドイツ語で作る必要があったんだ?誰が出資したの?いいけどやりすぎじゃね?・・・日本の昔のアニメも宝塚もヨーロッパとかが舞台のものが多いけど、少なくともロケ隊出してないですから。

でもこの監督の「カスパー・ハウザーの謎」は好きなんだ。カスパー・ハウザー役の俳優をわたしはエレカシの宮本になぞらえたんだけど、この映画のアギーレは「inu」の頃の町田康みたいだ。イカレてる人には独特の魅力がある。それに、彼が製作総指揮をした「アクト・オブ・キリング」はすごい映画だった。ヘルツォーク監督は、「地獄の黙示録」を監督する機会があったら受けたんじゃないかと思う。映画黎明期には“南海の孤島の動物の怪異”みたいな映画もたくさんあったので、そういうのを見て育って、未知の大陸や自分に想像もつかない世界に対する憧憬が抑えられない、そんな大人になったんじゃないか・・・などと妄想します。

彼ひとりが生き残るってシナリオは、原住民としてはありえないと思うんだけど、ドン・キホーテ性を際立たせるのが監督の意図なんだろうな。このラストシーンの、まるで明日が普通にくると彼が思っているかのような太陽の明るさ、風景のおだやかさが不思議。映画を見る前に感想をたくさん読んだので、ホドロフスキー監督みたいな異様な映画なのかと思ったら、目に見える狂気が描かれてるわけではなかった。そういう意味でも、狂人というより小独裁者って印象でした。

アギーレ・神の怒り [DVD]

アギーレ・神の怒り [DVD]

 

 

ジョン・カサヴェテス監督「フェイシズ」2247本目

何不自由ないけれど満たされない夫と妻が、半ばヤケクソになって、それぞれ別の場所へ夜遊びに出かける。そこでそれぞれ、若い女、若い男と出会う。ちょっとした気晴らしで済むはずだったのに・・・。

この人の映画は、いつも “ちょいと小じゃれた日常” から始まる。ちょっと享楽的な時間、イケてる仲間、いい男といい女、ちょっとした皮肉、ちょっとドキッとする会話・・・。で、それが続いてちょっと飽きてきたころに、「えっ!」というような事件が起きる。中だるみは多分、意図的なもの。その後に起こる事件で、目が覚めるという効果があります。

ジーナ・ローランズ若くてかわいいな。ジョン・マーレイってダンディでいい男だな。この監督の映画の人たちは、どこか親しみが持てる。みんな、複雑な気持ちを抱えてるけど率直。そしていつも、男性優位的な態度の男と、下に見られる女が出てくる。

“若い男”があんまり若く見えないんだけど、低予算の時期に身近な人にしか声をかけられなかったのかしら~。

このあとこの夫婦がどうなったか、なんか映画だし人ごとだけど心配・・・。 

フェイシズ [DVD]

フェイシズ [DVD]

 

 

ゴードン・パークス・ジュニア 監督「スーパーフライ」2246本目

これもずっと見たかった!カーティス・メイフィールドが音楽を担当した、初の本格的ブラック・ミュージック映画だと思うけど、見始めると普通のギャング映画かな?って感じです。どことなく、演技が硬くていろいろアマチュアっぽい。しかしアメリカの映画の中でコカインを鼻からスコーっとやってる人たちの割合ってすごいね。この割合で一般の人が同じことをやってると思わないほうがいいよね、きっと。

わりとゆるっと映画は進んでいき、やけにシビれる音楽がちょいちょい乗せられている・・・この感じは・・・そうだ「太陽にほえろ!」だ。井上堯之はこの映画に影響を受けたのか?と思ったら、ほぼ同時期でした。(オチなし)

悪者は当然、全員白人。主役はスマートに身軽に、強く、賢い。優しい男なので皆殺しになどしない。知恵で切り抜ける。うむ、わかりやすい。

マチュアっぽさもまた味のうち、かな。このスカッとする感じは捨てがたいですね。 

スーパーフライ 特別版 [DVD]

スーパーフライ 特別版 [DVD]

 

 

大森立嗣監督「日日是好日」2245本目

枯れた映画っていうジャンルがあるのかなぁ。 

これとか「モリのいる場所」とか、河瀨直美の一連の作品とか。黒澤明スピルバーグとかと同じテンションで見始めてはいけないやつ。とはいえこの映画はまだ枯れ切らない、まだ脂っけのある女の子が、生活の節々にお茶を通して心静かな時間を持つという映画。主人公の女の子はアキ・カウリスマキの映画とか北欧雑貨とかが好きそうで、雑誌でいえばオリーブ的で普通。この普通は、しかし、余裕があって落ち着いた人の普通なんだ。身近に思えるけど、自分はこれほどきちんと雨の音を聞くのはムリだなぁと思う。足りることを知ってる人の人生は豊かだ。

つってもこの映画は、ストーリーがなさすぎて、なかなか難しいな。主人公が結婚しなくてもいいけど、未来を思いながら終わるなら、せめてもう少し、どう変わったかが説明でなく見るからに実感できるようなエピソードを追加してくれたらよかった。

樹木希林はもちろん、黒木華多部未華子もいいんだけど、こういう華のあるキャスティングでなければ物足りない映画になったかもしれません。

畳の部屋から障子をあけて、縁側の外のしとしと雨を聞きたい気分になりますね。

日日是好日

日日是好日