映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヨーロッパ映画(90年代以降)

フランソワ・オゾン監督「苦い涙」3942本目

オリジナルは50年も前なんだ。映画をたくさん見るようになってから、ファスビンダーとかヴェルナー・ヘルツォークとかの、すごく手に入りにくい作品を探し回って見てた時期があります。このオリジナルはいまだ未見です。…あっU-NEXTに入ってる!すぐに見なけ…

フランソワ・オゾン監督「Summer of 85」3941本目

どうしても「君の名前で僕を呼んで」を思い出してしまうけど、オゾン監督作品なので、もっと苦い。(原作が、だけど) 誘惑するダヴィッド18歳、初恋におちるアレックス16歳。まだ幼くてもろい、遊び盛りの少年たち。楽しさだけを追い求めるダヴィッドやイギ…

マッテオ・ガローネ 監督「五日物語 3つの王国と3人の女」3931本目

ずっと「ごがつものがたり」だと思ってた。どうりで検索にひっかからないわけだ。(何が5日なんだろう?) 怖い童話の実写化。なかなか面白かった。完全に中世の装束なんだけど、若く美しくなりたい気持ちや、悪戯をして入れ替わったりしたい気持ちは普遍的…

アレクサンダー・エイ 監督「CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ」3924本目

ロンドンパンクは多少聞いてたつもりだったけど、このバンドのことは全然知らなかった。面白い人たちだなぁ。考え方は原始的共産主義コミューンというか、とても平和的で優しい。オランダ映画ってところも面白い。アムステルダムは演奏をしに行ったことがあ…

ティム・フェールバウム 監督「セプテンバー5」3923本目

1972年。”昭和”の頃に”みなごろし”のおそろしい事件がいくつかあったのをおぼえてるけど、この事件のことは知りませんでした。ぜったいやっちゃいけない事件だ。オリンピックは国の誇りで、アスリートたちはいろいろなものを犠牲にして、ひたすら国を代表し…

ペドロ・アルモドバル監督「ルーム・ネクスト・ドア」3922本目

はぁ。今ちょうど、たまたま、17年近く連れ添った猫に病気が見つかって、そろそろ覚悟しなければ‥というところです。猫は自分のさいごを演出するんだろうな。一人でいたければどこかに隠れる。誰かにそばにいてほしければ、私を待ってくれるかもしれない。 …

ギャスパー・ノエ監督「ルクス・エテルナ 永遠の光」3916本目

ギャスパー・ノエ作品は「大凶」、という感じがあって、見るときは構えてホラー映画より緊張して見ます。 「クライマックス」が以前やけに好きで何回も見たんだけど、先日見返してみたらあまり何も感じなくなってました。監督から私がもらっていたものは「新…

ベッキー・ハトナー監督「ファッション・リイマジン」3915本目

ファッション産業に疑問を呈し、新しい挑戦をする人の映画は、他にも見たことがある。関根光才 監督「燃えるドレスを紡いで」だな。あちらは、中里唯馬という日本のデザイナーが、廃棄された洋服がケニアのどこかに積まれているのを再生して新しい繊維を作る…

ダビッド・プジョル 監督「美食家ダリのレストラン」3914本目

ダリといえばもちろんあのサルバドール・ダリで、これは、ダリの映画ではなくて、地元の名士ダリの訪問を切望するフレンチ系レストランのオーナーやシェフたちの物語。他愛ない内容なんだけど、さりげなく治安の乱れをからめつつ、バルセロナ近郊の普通の人…

ドミニク・モル 監督「悪なき殺人」3913本目

面白かった。コートジボアール、フランス語圏だもんな…。今勉強してるスペイン語の場合、スペインのスペイン語、コロンビアのスペイン語、キューバのスペイン語は語彙もけっこう違うと聞いてるけど、この国のフランス語とフランスのフランス語は明らかにわか…

ペドロ・アルモドバル監督「ストレインジ・ウェイ・オブ・ライフ」3889本目

わずか31分の短編だけど、KINENOTEに載ってるってことはどこかで上映したのか。 感想は、まず、これは「ブロークバック・マウンテン」のアルモドバル監督によるアンサー・ムービーなのかなと思った。あと、イーサン・ホークがすっかりおじさんになった。いま…

ジョナサン・グレイザー監督「関心領域」3884本目

自分が落ち着いた気持ちで見られるときをずっと見つくろっていて、今日は夜のレッスンが延期になってのんびり家でワインとか飲んでるので、これを逃すと次の機会は遠いと思って見ることにしました。 「多分そいつ、今ごろパフェでも食ってるよ。」って本があ…

パブロ・ベルヘル 監督「ロボット・ドリームズ」3862本目

<結末にふれています、他の映画も> 公開されてすぐ見に行った友達が絶賛してたやつ。久々のヨーロッパ旅行で、長いフライトの中で早速見ました。「ブランカニエベス」はブラックなひねりのある映画だったけど、これは子どもが真剣に見てもいい映画だと思い…

メアリー・ハロン監督「ウェルカム・トゥ・ダリ」3854本目

奇矯な天才…。 少し前の一時期、美術館に展示するようなアートにすっかり興味をなくしてしまった時期があって、「No art, no life」ばっかり見てたのですが、巨匠と、小さな施設で自分だけのために毎日絵を描き続ける人との違いって、あるようでないのかもし…

マイケル・ウィンターボトム監督「スペインは呼んでいる」3848本目

スペインに呼ばれて見てみました。今ちょうど、年末年始に貯金を取り崩して久しぶりのヨーロッパに行こうという暴挙を計画していて(経済的に暴挙といえよう)、マドリードからロンドンへのチケットが高すぎて泣きそう、でも他に選択肢はない、と思って払い…

シャルロット・ゲンズブール 監督「ジェーンとシャルロット」3809本目

いきなり東京だ。これオペラシティコンサートホール?ジェーン・バーキンがそこに来て歌ったのは2013年のことらしい。それから、ホテルの部屋、焼き鳥屋の赤ちょうちん…あれ、「ロスト・イン・トランスレーション」をシャルロット・ゲンズブールも撮りたくな…

ダニー・ガルシア監督「Rolling Stone ブライアン・ジョーンズの生と死」3806本目

ドラッグで亡くなったんだとばかり思ってたけど、この時代なら陰謀もあったのかもな…。誰の?警察の?周囲の利益関係者?…大きくなりすぎた人物には、その周囲に闇が集まってくる。なんかホラー系の映画の話をしてるみたいだけど、欲や羨望にまみれて闇に飲…

クリストファー・ノーラン監督「フォロウィング」3805本目

<ストーリーにふれています> ノーラン監督のデビュー作。自主制作感や低予算感は強いけど、重厚で、制作者のこだわりのテイストがあふれる作品です。 複雑な時系列や主人公が抱える問題のありかたは、「メメント」を思わせるものがあって、これが下敷きに…

アキ・カウリスマキ監督「枯れ葉」3800本目

マッティ・ペロンパーはもちろん、カティ・オウティネンさんも出てなくて、冒頭すぐゼレンスキー大統領がロシアのウクライナ侵攻についてコメントするのがラジオから聞こえてくる。今までと違う時代だ。いまこの瞬間だ。これまではこの監督の作品を、遠いヨ…

ジャン・ジャック・アノー監督「愛人/ラ・マン」3795本目

1992年の作品。公開後わりとすぐに見た記憶があるけど、もっと明るい部屋でずっとからみあってたような印象だった。フランス人少女の家庭のごちゃごちゃのことも、忘れてた。 久しぶりに見直してみると、少女を演じたジェーン・マーチはアジア系の血も引いて…

ジュスティーヌ・トリエ 監督「落下の解剖学」3778本目

<ネタバレあるかも> すごい映画だった。映画の宣伝文句には「(サンドラの)人気作家としての知的なポーカーフェイスの下で、底なしの冷酷さと自我を爆発させる圧巻の演技」とあるけど、彼女の普段のありかたは、感情を抑えるのが苦手な私がああなりたいと…

オリヴァー・ハーマナス 監督「生きる Living」3774本目

「生きる」といえば、黒澤明より前に、ブランコの志村喬の「ゴンドラの唄」だ。あの場面をビル・ナイに置き換えた写真を思い浮かべながら、ちょっと半信半疑でやっと見てみました。 感想:よかった。静かに切なく、頬を流れる涙のように温かい作品でした。(…

アキ・カウリスマキ監督「コントラクト・キラー」3756本目

冒頭に大写しになる男、ジャンピエール・レオに似てるな、そういえば「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」にも出てたな、監督はこういう人が好きなんだなー・・・じゃなくてこれも本人でした。(なんでいちいち勘違いするんだろう、私)(だってカウリスマキ監督の映…

ビクトル・エリセ監督「瞳をとじて」3752本目

「ミツバチのささやき」「エル・スール」をVHSで探し出して見たのがもう11年も前。この監督の作品は、じゃあアマプラで再見しよう、ということができない。今でも昔の作品をなかなか見る機会のない監督です。 この新作映画の印象は、なんとなく、11年前の印…

アキ・カウリスマキ監督「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」3750本目

わかりやすい映画だった、カウリスマキ監督にしては。 「ラ・ボエーム」は権八と同系列のカフェ、じゃなくて、プッチーニの有名なオペラで、ボヘミアンな男女のうち薄幸のミミが病死するのは既知なので、「ロミオとジュリエット」のようにこの筋をベースに見…

アキ・カウリスマキ監督「愛しのタチアナ」3749本目

わずか62分の作品だけど、たっぷりとカウリスマキ監督の世界を味わえます。 いつものマッティ・ペロンパー(アル中)とカティ・オウティネン(エストニアからの旅行者)に加えて、レニングラード・カウボーイズのマト・ヴァルトネン(コーヒー中毒の仕立て屋…

アキ・カウリスマキ監督「トータル・バラライカ・ショー」3744本目

まずタイトルがいいよね。バラライカという楽器は、ビートルズの「バック・イン・ザ・USSR」でもロシア(当時はソ連)を象徴する楽器として歌詞に使われてたっけね。このコンサート、当時友達からCDのサンプル盤をもらったので何度も聞きました。映画だった…

マイク・カズンズ監督「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」3729本目

この前にU-NEXTで配信されてるCNNの「ハリウッド映画の一世紀」っていうシリーズもののドキュメンタリーを見ました。時代を区切って84分間×6本。主役級の俳優や監督が、自分以外の俳優や監督に感激した経験を語る(自分たちのことも話すけどね)のが、見てい…

バラン・ボー・オダー 監督「ピエロがお前を嘲笑う」3716本目

<ネタバレあります!> どんでん返しがありそうなので、他の方のレビューは読まず、前情報も抑えて見てみました。 主役ベンヤミンは知的で小柄で、ケンカは強くなさそうだけど、ちょっと鬱屈したかんじの青年。こう見えて実は・・・?と思わせます。なかな…

ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ監督「トリとロキタ」 3715本目

救いとオチがないダルデンヌ兄弟の監督作品のなかでも、これまた救いのない映画でしたね・・・。(←これネタバレでしょうか?) 感想を書こうにも、言葉がない。こんな現実が実際に存在する。日本にはこれほど確立したマリファナの流通がないと思うので、同…