映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スパイク・リー監督「アメリカン・ユートピア」3851本目

また見た。素晴らしすぎる、やっぱり。現存するデヴィッド・バーンの集大成なんだろうな(変な言い方だけど)。楽器も歌詞も力強いけど、何より人間の声と動きに圧倒される。理不尽に若くして亡くなった人たちの名前の連呼は、何度聞いても涙が出る。

同じ時期に公開された美術の展覧会とコンサートとそのほかの舞台芸術と、映画やドラマと、いろいろなものを合わせても、これほど個人の考えが完成された形で提示されたものはなかったんじゃないだろうか、と思う。彼はまさに「芸術家」なんだな。

この人、生きてるうちにもう一つ、このレベルの新しいことができるだろうか?

アメリカン・ユートピア (字幕版)

 

大島渚監督「夏の妹」3850本目

大島渚監督作品をひととおり見ようと思ったことがあって、多分そのときに「これから見る」に入れておいたんだろうな。サムネイル写真の栗田ひろみと石橋正次の笑顔が明るくて、見てみました。サムネイルが白黒なのに、映画派カラーなんだな。栗田ひろみも石橋正次もすごく可愛い。沖縄返還直後らしいけど、変わらない部分もたくさんあります。

そして、りりィがモデルから俳優になった欧米ルーツの美少女に見えて新鮮。市川紗椰みたいな。りりィってハーフだったのか。彼女はアメリカを代表するアイコンとして使われてるんだろうか、それとも、アメリカに虐げられた日本を表してるんだろうか。

各登場人物にいろんな象徴的意味を持たせてるらしい、けど、役割にかかわらず無邪気にセリフを読む栗田ひろみの幼さ!監督のむずかしい考えを気にもしてないようでなんだか痛快。

石橋正次って小さい頃わりと好きだったような記憶がある…なんか明るくて屈託がなくていいですね。現在の姿をググってみてみたら、おじいさんになっても明るくさわやかで嬉しくなりました。

アレックス・ウィンター監督「ZAPPA」3849本目<KINENOTE未掲載>

面白いミュージシャン、変わったミュージシャン、天才的ミュージシャン、鬼才、奇才、等々の評判は聞いていたけど、肝心の楽曲はあんまり聞いたことがないザッパ。(今ふと、「三遊亭」とつけても座りがいい気がする)

ジャンルを超える良い音楽を真剣に模索し続けた、”現代音楽家”なんだろうな、と思う。日本でこのジャンルのアーティストは坂本龍一なんじゃないかと思うけど、彼はザッパほど奇矯ととられる言動はなかったし、芸大の大学院まででたインテリなので世間は尊敬の眼を向けてた。若い頃のザッパには彼を世間から守る人がいなかった、守ろうとしてもガンコすぎて難しかったかもしれないけど。

なんとなくリスペクトしつつ、あえてこれから彼の音楽を聴いてみようという勇気も出ないな。。。だって生前に発売されたアルバム63枚、死後さらに50数枚ってどういうボリューム!?

マイケル・ウィンターボトム監督「スペインは呼んでいる」3848本目

スペインに呼ばれて見てみました。今ちょうど、年末年始に貯金を取り崩して久しぶりのヨーロッパに行こうという暴挙を計画していて(経済的に暴挙といえよう)、マドリードからロンドンへのチケットが高すぎて泣きそう、でも他に選択肢はない、と思って払い戻し不可チケットを取った直後に、この人たちがフェリーでイギリスからスペインに渡るのを見て、「やられた!」。

でも、調べてみたら所要時間30時間だそうだ。ヘルシンキからエストニアのタリン(竹芝から伊豆大島ていど、数時間)くらいかと思ったら、小笠原だ。これは無理。ちょっとほっとしながら続きを見ます。

マイケル・ウィンターボトムって、私を恐れおののかせた映画トップ3に入る「日蔭の二人」や、仲間内の気楽でいいかんじの時間をつづってるけどオチがない「ひかりのまち」の監督だ。難民の少年を追った「イン・ディス・ワールド」や「いとしきエブリディ」もこの監督だ。一方この作品は、モキュメンタリーかな?実在の二人のコメディアン(どこ行っても大声でボケかましてる)が実在の映画や家族について話したり、実際にスペインで食事してワイン飲んで食事して(観光らしいことはほとんどしてない)いる様子を、ただ見ている映画。これけっこう気持ちいいんですよね。私は一人で旅行することが多くて、いつも丸くなってテーブルについてるけど、こんな風に背もたれにふんぞり返って大声で笑い合ったりできるのは、仲間と一緒だからなのだ。そんな気分をちょっと味わうことができます。

こんどの旅行は期間長めなので、冬だしついでにオーロラ見に北欧行くか、とか、マドリードから列車で南下してフェリーでモロッコ、とかこの二人並に私もいろいろ妄想してたのですが、アフリカ大陸はやめといたほうがよさそうだ…。イタリア編と湖水地方編も見てみたいけど、日本では難しいのかしら。。。

スペインは呼んでいる(字幕版)

スペインは呼んでいる(字幕版)

  • スティーブ・クーガン
Amazon

 

ビシャール・ダッタ監督「イット・リヴズ・インサイド ”それ”が巣食う場所」3847本目<KINENOTE未掲載>

<結末にふれています>

アメリカで、インド出身の女の子たちに何者かの呪いが迫る。「プージャ」祭りを抜け出したり、アメリカの子たちとも仲よくしようとするサミ。同郷の少年の死につづいて、最近距離を置いていた親友のタミラが姿を消し、サミの白人のボーイフレンドも、サミが信頼している教師も襲われ…。

土着ホラーが大流行ですね!タイのは怖いし(「ミッドサマー」もこのジャンルだとしたら超怖い)、日本のホラーも心底怖い(「呪怨」どころか「犬神家の一族」だってトイレいけないくらい怖かった)…この映画は怖いと思うひまがあまりなかったな。インドの呪いは怖くない、ということではないかもしれないけど。「イット」が目に見えてこないし、どういうわけか、みんな暗闇に向かって行きがち。かつ、彼女たちを助けようとした人たちはすぐ死ぬのに、タミラとサミはすんでのところで生き延びても、よかったよかったとは思えないというか…。(このパターンは古今東西ありがちだけど)

あとは、オーム シャンティと唱えられると、どうしても「恋する輪廻」の爆発的に明るい歌と踊りを思い出してしまうのか。インドにも闘争の歴史があって、決して明るいだけの人たちではないとわかっているのに、どうしてもさわやかな気持ちで見てしまう…ううむ。

マイク・ミルズ 監督「20センチュリー・ウーマン」 3846本目

アメリカ版”わが母の記”で、私は息子を持つこともなかった女性なので、この中の誰の立場でも”なつかしさ”を感じることはないんだけど、こんな家庭もあるのかな、と見させてもらいました。

女は中学生でも女だし、母になっても子どもが大きくなっても女だ。ということを認識していくプロセスは、息子にとってはなかなかの成長痛なんだろうな。日本に来たら、男性や年長者にいろんな判断をゆだねがちな女性の存在に出会って、全然ちがーう!って思ったりするんだろうか。

(それにしても、グレタ・ガーウィグが出てる映画ってどうして、彼女が監督してなくても、あけすけな女性特有の下ネタが満載なんだろう?)

そして、これと逆の娘から父を見た映画って、どうして全然見かけないんだろう。大昔の小津作品はわりと原節子が父離れできない愛娘ってのが多かった気もするけど。監督や脚本家に男性が多いからかな。女性監督や脚本家も、こういう作品を作ってみたら、世のおじさんたちがカタルシスを得られていいんじゃないだろうか。冗談でもなんでもなく、男は荒っぽくていやらしい、みたいなステレオタイプが横行しすぎていて、おじさんたちが自信をなくしている問題ってあると思うんだよな・・・。逆の立場だったら私なら嫌だと思う。男性が作るとチャップリンの「ライムライト」みたいに、若い娘が自分に恋をする、になっちゃうんだろうか。(このパターンならごまんとある)いややっぱり実の父娘の仲睦まじい、あるいは愛憎こもごもな映画をもっと見てみたいです。

 

 

アリソン・エルウッド監督「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」 3845本目

音楽映画ってほんとに見つけにくい。どんなにアンテナを張ってるつもりでも、公開に気が付かないし、VOD化も見落として何年もたってしまうのがザラ。

見つけたらすぐに見るべし。でローレル・キャニオン。聞いたことあるような、くらいでほとんど知らなかったけど、ウエストコースト・ロックの文脈で必ず出て来る聖地ですね。リンダ・ロンシュタット(ワイルドなハスキーボイスが最高)のドキュメンタリーでもきっと触れてたはず。ここもまた、音楽を愛する若者たちと、音楽の神様が地球上に集まった一時期のパラダイスだったんだなぁ。

こういうのを見ると、美しいものってはかないなぁと感じて胸が苦しいような気持ちになる。短い間でもこんなパラダイスがあったんだ、はるか彼方の国の私まで、ラジオを通じて楽しませてくれた。すごいことだ。まだ天国へ行く気配はないけど、人生もだいぶ後半になってくると、今私が聞いている音楽も好きな俳優も、シリーズものの映画も、やがて終わるんだなぁと思う。自分が最後まで見られるかどうかもわからない。ほんとに、まあまあ好きなTVシリーズの1回だけでも、ものすごく大切に思えてくる。

心して見ますから、これからもみなさん、がんばってくださいね。。。