映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

今村昌平監督「果しなき欲望」3239本目

今村昌平のごく初期の作品。

冒頭、1958年の地方都市の、まだ戦後の雰囲気が残る駅前。集まってきたのは星形のバッヂを胸に付けた悪そうなやつら。新卒サラリーマンみたいな若造は小沢一郎だ。一番悪役ヅラしてるのは西村晃(若い頃のミシェル・ピコリと重なって見える)。武闘派は加藤武。何歳の時も同じ雰囲気の殿山泰司。電話ボックスで様子を見ている着物姿の色っぽい紅一点は、小川真由美かと思ったら渡辺美佐子じゃないか。この悪い女が最後まで、着物姿のまま、ひたすらファムファタールっぷりを展開するわけです。

その後の執拗に人間に迫る演出はまだなくて、熱いけどまだ比較的シンプルな演出。とにかく渡辺美佐子のよく働くファムファタールっぷりが一番の見どころでした。

 

マイク・ホッジス 監督「フラッシュ・ゴードン」3238本目

NHKBSでクイーン特集をやった流れでこれも放送したので、初めて見てみた。

フラッシュ君はクリストファー・リーヴのスーパーマンに似てるな、と思って時代を画印したらスーパーマンの映画が1978年。なるほどの二番煎じ感。(失礼!)

そもそも何でアメコミの映画の音楽をクイーンがやるようになったんだろう。特集番組で、古今東西のミュージシャンや執筆家が熱く思いを語るのを聞いて、「テヲトリアッテ」を聞いてしみじみした後に、これか(笑)。いや、それもこれも含めてのクイーンだから。

宇宙の支配者が中国かモンゴル的なのも面白い。戦前のフー・マンチューやチャーリー・チャンの影響を受けた人が原作を書いたのかな。悪役だけどなかなか強烈です。フラッシュと機内で知り合う美女も、ミン総督の女も、とっても美しいですね。彼女たちの露出の多い衣装や、悪役の装束って、いまどきのロールプレイングゲームとセンスが似てる。エピソードが連なるだけでストーリーに見ごたえはないけど、総天然色のビジュアルが楽しい。

…えっミン皇帝やってるのマックス・フォン・シドーなの?ほんとだ。誰でも良かったのに(←関係者全員に対して失礼) そして味方についてくれる王子はティモシー・ダルトンか。すごい贅沢な配役…。王子(グリーンの、まるでピーターパンのような服装)はなかなか精悍で魅力的。

なんか…楽しいな、この映画。羽虫の群れみたいに赤い空を埋め尽くす戦隊とか…。ビジュアルが嫌いじゃないです。

クイーンは「主題歌」だけでなく音楽担当というクレジットになっていて、テーマ曲とエンディングテーマのほかによく耳を澄ますとたまに音が鳴ってる。全体的に、音楽はとても少ない。その分、極彩色の画面に集中できる効果を狙ったのかな。

フラッシュ・ゴードン(字幕版)

 

イ・チャンドン 監督「シークレットサンシャイン」3237本目

ペパーミントキャンディーの世界だ。絶望(比喩じゃないやつ)のあとのインスタント解脱、そこからやっと壊れ始める人格。安易な救いなんてどんな宗教でもないのだ。

自分を傷つけたアイツはきっと今頃、宗教に救いを見つけたり、家族と笑いあってアイスでも食べてたりするのが現実なのだ。極悪な顔をした悪魔を想像するより、もっとキツイその部分に焦点を当ててしまった映画です。

ソン・ガンホが「パラサイト」ではいい役すぎてどうなんだろうと思ったりしたけど、この人は”韓国の良心”のような象徴的な役者さんなんだな。昔の日本でいえば寅さんの渥美清みたいな。彼が画面に出るだけでしみじみする。彼がいいことをすればうなずき、悪いことをしても信じてみようと思う。(cf アメリカの良心ジェームズ・スチュアート…今ならトム・ハンクスかなー)

主役の女性を演じたチョン・ドヨン、自然ですばらしい演技でしたね。韓国の女優さんって、主役級の年齢不詳の美女たちとクリクリパーマのおばさまたち、というイメージが強いけど、こういう普通の人っぽい女優さんがいるから映画が締まる。

この映画は、コミカルな感じで進むのかなと思っていたら、中盤に突き落とされる。二回見ると、最初から不幸の空気があるし、たくさん伏線が張られていたのにも気づきます。

夫を亡くしてソウルから密陽という町に引っ越してきた母子。地図で見たら釜山の近く、朝鮮半島の右下角というあたりで、ソウルからははるか彼方です。目立つだろうな、お金持ちに見られて、ねたまれたんだろうな。ソウルにもいづらかったんだろう、夫を亡くした女ってずっと見られるから。

ソン・ガンホがまた、ひたすら優しいんだけど、間が悪いんだよな…。

ストーリーをちゃんと理解したくて2回見たけど、なかなか重いです。でもただ暗くて重いんじゃなくて、人間、とか生きるってことを真剣に捉えてこの映画を作ってくれている、という感じがして、いやな気持ちにはならない。

小さいレベルでなら、あらゆる人に共通してあるテーマなのだ。牧師も言ってたように、人を赦すのが一番むずかしい。でも赦せないかぎり、自分の心の中の憎悪っていう悪魔にさいなまれ続けるしかない。

やっぱりいいな、この監督。

 

是枝裕和監督「花よりもなほ」3236本目

わかりにくかった…。

是枝監督の作品は一通り見てみよう、と思って見てみたけど、のんびりとしてコミカルな長屋の人たちの雰囲気に飲まれて、仇討ちとか切腹とかが”場面のひとつ”としてするする流れていってしまった。

珍しく時代劇だけど、長屋のひとびとの風体がなんとなくリアルで、極貧の中でも人を恨まずに生きていこうとする優しい人たち。「万引き家族」と違うのは時代だけだな。と思いました。

ロバート・タウン監督「テキーラ・サンライズ」3235本目

小じゃれたトロピカル・カクテル片手に浜辺で、トサカを高く立てた女子とごっつい野郎どもがからむようなタイトル(原題同じ)。まるで1980年代の日本のトレンディ・ドラマみたいな世界だ。メル・ギブソン若い。ミシェル・ファイファーすごくきれい。カート・ラッセル…(けっこう見てるしアクのある俳優なのに、なんで私は印象残らないんだろう)

そして、多分私はラウル・ジュリアが好きなので彼を見るためにこのDVDを「見たいリスト」に入れたんだと思う。この映画の彼、よかったー。コカインの裏取引に関わっていても、熱い友情を忘れない大きな男、という役。もみあううちにやられてしまうけど、最後までいい男だったよ。

というのが見られただけで満足でした。

 

ポール・マザースキー 監督「グリニッチ・ビレッジの青春」3234本目

最初は「ふーん」という感じだったけど、ちょっと忙しかったので流してみながら作業をしてるうちに、好きになってしまった、この映画。友達と同じで、長い間一緒にいるだけで、だんだん親しくなっていくような。ジャンルとしてはもう作りつくされているかもしれない青春群像ものだけど、1人1人に熱い思いや苦い傷があるように、この映画の中の彼らも痛々しく輝いてました。

主役のレニー・ベイカーが日本人には馴染みのない顔立ちなので、日本では入り込みにくいのかも。目が大きかったりもっと平べったかったり、日本でいう親しみやすい顔立ちなら、自分を投影しやすいんだけどね。

今は怖い悪役?みたいなイメージのクリストファー・ウォーケンはクールな女たらし(やっぱりイメージ悪いわ)。彼が人間関係を振り回してるけど、彼の魅力にひかれて人が集まってくるという部分もあるのかも。

そして出色なのはやっぱり「母」シェリー・ウィンターズ。今はオバサンはみんなダイエットしてるから、こういう”中年ぶとり”した大地のような母ってほんといないけど(日本でいえば東山千栄子とかね)、母性本能のままに息子を溺愛し、家を出るときには大泣きするし、彼女がいると知って結婚しろと迫ったり、おおさわぎなんだけど、なんともいえず愛しい女性です。夫がまた、不愛想なんだけどいつもちゃんと着いてきて手綱を握ってる。

1976年公開。戦争が終わってアメリカの映画が幸せを取り戻しつつある、明るい時代を映した作品でした。

 

ジョセフ・ロージー 監督「唇からナイフ」3233本目

お洒落に決まってるタイトルとジャケットイメージ。冒頭の音楽も、アイドルとポップスの中間みたい。

原題のモデスティ・ブレイズはモニカ・ヴィッティ演じるセクシーな泥棒の名前。いいなぁこの人。何物にも動かされず好きなことだけやってるような、この雰囲気。大きくてとろんとしたまなざし、がっしりしたアゴの線が広瀬すずの15年後みたいな感じ。

ジョセフ・ロージーって「エヴァの香り」「緑色の髪の少年」の監督か。私好みのダーク・ボガートとテレンス・スタンプも出てる。嬉しい。こういう、だらけ切って疲れ果ててるときに見ても全然疲れない映画って嫌いじゃないです。おかげであまり筋が頭に入ってこないけど。

モニカ・ヴィッティ、ダーク・ボガート、テレンス・スタンプを楽しく鑑賞するだけで満足な映画でした。モニカとダークは見てるとなんとなく前のめりしてしまうけど、テレンスはなんとなく野生の荒馬みたいであんまりセクシーにみえなかったな…。