映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

成瀬巳喜男 監督「山の音」3409本目

1954年の作品。私は娘時代の原節子の、悪い子の演技や怒った怖い顔が見たい。でもこの映画では冒頭から「いやぁねお父様、ウッフフフフフ」という、完成された”原節子美”を見せています。・・・えっこのお父様、実の父じゃなくて義理の父なの?で、夫は平然と愛人を作って家を空けることが多く、父もそれを苦々しく思っている(叱責しないあたりが、昔の日本だ)。

小津映画とも違うイヤな家。川端康成の原作のせいなのか、成瀬監督の演出なのか。妻は子を断念し、愛人は子を産む。

ラストの場面、新宿御苑のプラタナス並木のベンチで、山村聡が原節子に「息子と別れるのか・・・じゃあ私も妻と別れるから、私と結婚してくれないか」と言い出したらどうしよう、と一瞬思った。言うわけないけど。言わないけど、この映画はこの二人の映画だ。息子から「お父さんだって若いころは何もなかったわけじゃないでしょう」。なんとなくちょっとイヤらしいような、イヤらしいと思う自分の方がイヤらしいような、複雑な気持ちで誰も幸せにならない映画なのでした・・・。

山の音

山の音

  • 原節子
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フランク・ダラボン 監督「マジェスティック」3408本目

<ネタバレあり>

ジム・キャリーがコミカルな演技をしない作品には、だいたい期待します。(私は「エターナル・サンシャイン」がすごく好きなのだ)

これは、アメリカの郊外の普通の町で戦地へ旅立った地元の人気者の青年が、記憶を失って戻ってくる・・・という映画かと思って見ました。映画の最初の部分だけ、見始めてすぐ一瞬席を立ってしまって、見逃してた。(家で見てるとこういうことがある。)

途中から、どうも明らかに別人だなと思ったけど、どちらかというと町の人たちの視点で見られました。怪しいけど、信じたい。父親とおぼしい男性、恋人だった女性、他にもルークが大好きだった人たちが彼を取り囲んで、なんとか彼をルークだと信じようとする。

一方の脚本家ピートは、”赤狩り”でFBIに追われている。逃げてきたわけではないけど、捕まったらどんな目に遭うか・・・。

・・・これ、日本で映画化したらけっこう涙涙の物語になりそうなくらい、深刻ですよね、見方によっては。でも、だいたいの人たちが温かくてヒューマニティあふれていて、アメリカにはこういう良さもあったなと思い出させてくれます。無理のない、真摯な優しさ。世界中の人がみんな、自分の中のこういうあったかさを思い出して、大事にできたらな・・・と思いました。

 

R・J・カトラー 監督「ベルーシ」3407本目

ジョン・ベルーシ好きだったなぁ。なんともいえない愛嬌があった。ブルース・ブラザーズの最後に、黒いサングラスをずらして見せる目がとってもきれいだった。

奥さんや親せき、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス(最初のゴースト・バスターズでトリオを組んでた)とかチェビー・チェイス(サタデー・ナイト・ライブのスター!)といった、最も彼に近くて彼を理解し、サポートしていた人たちがインタビューにたっぷり答えていて、とても濃い、親密な内容です。ビル・マーレイも加えた、若いころのSNLの映像まである。自分の若いころを思い出してるような気分で胸が熱くなる。

彼を知ったのは多分「ブルース・ブラザーズ」だから1980年だ。音楽の興味から見てみて、結果、アメリカのコメディシーンに圧倒された。初めてアメリカに旅行したのは1988年かな。ニューヨークのホテルのテレビでサタデー・ナイト・ライブを見て、狂喜して写真を撮ったけど、ブラウン管だからちゃんと写るはずもなかったっけ。。。

「スター」にどうしてみんな憧れるんだろう。どうして過剰な期待をして、自分自身の期待に押しつぶされてしまうんだろう。これは、薬物の問題だけとも言い切れないのかも。古今東西、大きな成功もどんづまりも、たくさんの人をおしつぶしてきた。彼が特に繊細とか弱かったとか思えないんだよな。

なんとも言えないけど、ベルーシに出会えてよかった。彼の茶目っ気が大好きでした。

BELUSHI ベルーシ(字幕版)

 

リサ・インモルディーノ・ヴリーランド 監督「ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪」3406本目

グッゲンハイム美術館のグッゲンハイムだ。でもニューヨークの美術館を作ったのはペギーじゃなくて伯父のソロモンらしい。あの美術館もユニークだけど、ユニークな姪がこんな強烈な一生を送っていたのか。

いちいちお付き合いしなくてもいいと思うけど、自分が本当に良いと思う作品を作る人たちに囲まれて、彼らを応援して生きていけたら素晴らしいだろうな。

私がもし大金持ちだったら。高い服や化粧品や食事にはあんまり興味ないけど、アートコレクションにはちょっと憧れる。(鑑識眼がないので、お金があったとしてもムリだけど)

ペギー・グッゲンハイム・コレクションがあるのはベネチア。1996年くらいに行ったけど、全然存在も知らなかった。自由時間の少ないツアーだったから仕方ないけど、シュールレアリスムはとても好きなので、いつかまたイタリアに行くことがあったら必ずこの美術館に行こう。

 

ジャッキー・モリス/デヴィッド・モリス監督「ヌレエフ-世界を変えたバレエ界の異端児-」3405本目(KINENOTE未掲載)

エンディングが感動的だ。ヌレエフがおそらく最盛期の頃に公開インタビュー番組に出演したときの、彼の登場で、鳴りやまない拍手に彼が陶然とした表情を浮かべる。その後はエンドロールとともに、この映画で取り上げたバレエ公演の映像ダイジェストを、出典のテロップとともに流す。これだけでも見る価値があります。

私はバレエはおろか、ダンス全般まったく知識も経験もないけど、きわめて洗練された踊りを見るのはどんなジャンルのものでも好きだ。バレエは特に、人間と思えないくらい、重たい肉体を軽々と扱う、現実離れした踊りだ。人の肉体はここまで、「美」の純粋概念に近づける。

ヌレエフには、セルゲイ・ポルーニンを知ったときに「ヌレエフの再来」と言われていたことで興味を持って、この映画でやっと実像が見えた。

すごく、肉体や精神に負担をかける踊りだと思う。でもこんな踊りができるなら、生活全部棒に振ってもいいような、そんな人生を送ってみたいような気もする。

ヌレエフと一緒に踊っていたマーゴ・フォンテインも素晴らしいですね。オードリー・ヘップバーンみたいな本物の貴婦人だ。映像が残っていたことに感謝します。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督「オテサーネク 妄想の子供」3404本目

すごいなと思うけど「いいな」と思ったことのないシュヴァンクマイエル作品をまた見てしまうのは、”怖いもの見たさ”以外の何物でもない。木でできた赤ん坊って…「アネット」かよ!(ちょっと違う)

チェコスロバキアのスロバキアのほうは絵本の国、ファンタジーの国っていうイメージがある。国は二分されて、絵本の賞が有名なブラチスラバはスロバキアになったけど、これはその流れを汲むダーク・ファンタジーなんだろうか。露悪的だけど様式的。生々しいエグさではなく、現実より気持ち悪いものを生み出そうとする。(参考:「現実より残酷で怖くて美しいもの」を生み出そうとするのが、ギレルモ・デル・トロがプロデュースする中南米の映画、って私のなかでは分類してる)

とにかく食べる。鍋で煮くずれた何かを、食べて、食べて、また食べる。ホイップクリームを塗りたくったキュウリをむさぼっていたら想像妊娠する。木でできたオテサーネクには魂が宿るけど、彼は「食べる」以外何もしない。

・・・すごくヨーロッパ的な映像だけど、ふと、このストーリーは日本の民話にあってもおかしくないと思う。『子供ができない夫婦が川から桃を拾ってきたら(※違う)、恐ろしい怪物になって村人たちをどんどん食ってしまいました。おじいさんから必死で逃げていた少女は怪物と仲良くなって、餌を与え続けましたが、オテサーネクはつい空腹でキャベツを爆食い。怒った農家のおばさんがオテサーネクを退治したら、今までに食べたものたちが全部お腹から出てきました』

これ、普通の民話としてアニメ化したものが見てみたいな・・・。

オテサーネク (字幕版)

オテサーネク (字幕版)

  • ヴェロニカ・ジルコヴァー
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樋口真嗣 監督「シン・ウルトラマン」3403本目

<ネタバレご注意!>

いくつ続くんだ「シン・」シリーズ。でも盛り上がってるみたいなので、何度でも乗ります!・・・というわけで見てきました。

いろいろ笑えたなぁ。Twitterに流れてくるいろんな情報をすでに見てたけど、「巨大な桜井浩子」はそういう意味だったのね・・・。これは、やって良かった。最初のゴーストバスターズのマシュマロマンと同じくらいのインパクト。そもそも、今回の映画化、やたらめったらカメラが人物に寄ってますよね。ベルイマン「沈黙」かよ。人物の大きさ、近さは、それだけでものすごい圧迫感なのだ。大きくて美しい外星人と地球人。

映像よりセリフや文字に物語を語らせるのも、「シン・ゴジラ」からの流れだ。どれだけ俳優たちに暗記させるんだ。でも、戦後すぐの映画を見てると、日米問わず、とにかくセリフが多い。CGがなかったし技術が未発達だったから、というのもあるけど、あの頃の”しゃべくり漫才”みたいな、話芸といえそうなセリフ回しに圧倒されることも多かったので、あれを最新作に持ってくるのは一つのアイデアだと思う。人間のもつ声のパワーは強い。

今回のウルトラマンはタイマーの代わりに体色が変わる。カメレオンみたいだ。そして背中にトサカがなくてツルンとしてる。別に強そうに見えないけど、取っ組み合いで勝つタイプじゃないので、それで合ってる。顏はどこか神永に似てる気がする。私たちがよく知ってるウルトラマンより、宇宙人って感じだ。

中空に浮くゼットンの造形はエヴァンゲリオンを思い出す。いろいろ、いいものを組み合わせて全部のっけて作った映画なのだ。

テレビシリーズの最初からゾフィー、ゼットンまでをわずか112分にまとめたので、短い感じもするけど、現代のウルトラマン入門編か濃いダイジェストみたいで面白かったです。