映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ニテーシュ・ティワーリー 監督「きっと、またあえる」2883本目

まぁ、最初から流れも結末もわかってるんだけどね。

でも思うのは、「きっとうまくいく」の中にもあった、受験で絶望して自殺をはかる若者。日本の映画館にかかるようなメジャー映画でこれほど取り上げられるほど、インド国内では受験競争の厳しさや若年層の自殺がおそらく社会問題になっているのだと思います。受験戦争って、世界中にあるもの?日本は少子化にともなってゆるやかになってるはずだけど、韓国は今や日本よりかなり激しいと聞きます。アジア的なのかな。貧富の差が大きくて、一流大学に合格することが運命を変えるという前提ありきだと思います。

つっても「きっとうまくいく」に比べてテーマがシンプルすぎて、意外性やドラマチックな面がなくて、昔話としてはまあ面白いよね、で終わってしまうのは仕方ないかな。

インドでは工科大学に入るのが一番のエリートコースなんだろうな。マイクロソフトの会長もインドで生まれ育って、インドの工科大学を出た後でアメリカに渡って就職したけど今は世界1、2のIT企業のCEOだ。

それにしてもインド映画の中にはどうしてこう映画の会話がちょろちょろ入るんだろう。韓国もわりとそうだ。日本の映画では、単語が英語になることはあっても文章まるごとってことはない。この感じすごく不思議。 

そしてこの映画は、歌はあるけど、とうとうダンスの場面がゼロだ…と思ったらエンディングだけはダンスだった。でもフラメンコ風!これだけ豊かなエンタメの世界を持つインド映画が、さらに世界を広げないわけがない。

インドの”イケてない男子”って理系なんだよな。賢いのにダサくて内気なインド男子たちが、可愛くてたまりません…。やっぱりインド好きだなぁ、私。

きっと、またあえる(字幕版)

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  • 発売日: 2020/11/25
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フランク・キャプラ監督「毒薬と老嬢」2882本目

タイトルは「砒素のしみ込んだ古いレース」?

紹介文を読んで、背筋が寒くなるような作品かなと思ったけど、フランク・キャプラ監督に限ってそんなはずはない。

主役のケーリー・グラントは「素晴らしき休日」や「ヒズ・ガール・フライデー」より後なのにまだ初々しい感じ。老嬢の二人はこのとき60代で、商業映画の歴史を作ってきた女優たちです。上品で優しいけど開き直っててちょっと壊れてる感じが…阿佐ヶ谷姉妹を思い出してしまった。もしこの作品を日本でやるならはまり役だと思う…。

そしてこの映画にも私が推しているピーター・ローレが「博士」役で出てます。アク強いなやっぱり…。上品に話す変態、って感じ…

家に戻ってきた甥のジョナサン(アダムスファミリーのフェスタ―みたいに、怖いのに笑える)が連続殺人鬼なら、老嬢たちだってそうだ。テディのデタラメぶりも可笑しいし、ケーリー・グラント演じるモーティマーの美人妻エレン(プリシラ・レイン)が誰からも見向きもされないのも愉快。キャプラ監督のユーモアのセンス、好きです。

最後ドタバタで、テディと一緒に老嬢たちもハッピー・ホームで暮らせるようになってめでたしめでたし。地下室の13体は結局、どうなったんだろうね…。 

毒薬と老嬢(字幕版)

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  • 発売日: 2020/05/23
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村橋直樹 監督「エキストロ」2881本目

新作をあまり映画館で見ないおかげで、予告編を見る機会もなく、この作品はドキュメンタリーだと思いながら見始めることができました。途中で、ドキュメンタリーではありえないカメラ位置の安定、なめらかな動き(絶対あらかじめドリー設置してある)に気づく。町人役をやるはずだったエキストラがワガママを通すとかありえないし、「この時代の町人は髭を生やすことは許されていなかった」のに撮影現場で農民が侍を押しのけて一番前に出てるのを普通に映してるのがおかしい。これはエキストラの世界を描いたまじめなフィクションなのかな。その後、その「農民」が10回以上も歌を歌う場面をやらされるあたりから、ああこれは笑わせにきてるんだなと気づく。

麻薬密売犯は、エキストラやるわけないだろ(笑)、顔を隠して生きてるんだから…。このあたりからもう、「ガキの使い」みたいな荒唐無稽っぽい「ヤラセ」の世界なんだなと、最初とは違う「お笑い番組を見てる気分」になっています。潜入捜査をするはずだった警官たちが仕事を放り出して演技に熱中してお芝居の教室に通うところまで撮影…とかもう、よしもと以外の何物でもないセンス。そんなに面白くはないけど、見慣れたノリと流れで、安心して(予定調和が想像できるので)おやつでも食べながら見ると…。

それでも、映画好きとしては撮影現場の裏側を見るのが面白い。監督はテレビの「透明なゆりかご」を監督した人だそうで、あのドラマはすごくよかった(特に主役の清原果耶)んだけどまた全然違うものを作ったなぁ。

主役の荻野谷幸三さん、すごくいいたたずまいですよね。朴訥で愛嬌があるけど芯が強くて目力が強くて。映画の製作者が彼に目を付けるのは、なるほど当然。彼は映画と同じように、生活しながらずっと演劇活動を続けてきた、いわばセミプロ。そういう人がやるエキストラは確かにマエストロなんだと思います。

去年、会社を辞めたときにエキストラ会社に登録してみたことがあったのですが、地元のフィルムコミッションの募集やテレビ局の直接募集は無償のことが多くて、都内のエキストラ事務所はだいたい有償でした。(拘束時間で割ると「東京都最低時給」を下回りそうな金額だったりする)でも、ただ通り過ぎるだけでも演技は演技なので、大林監督がいう「エキストラはマエストロ」というのは事実。エキストラといっても、モブだけじゃなくて役割を与えられえた人も多いし、一くくりにはできないんだろうなと思います。

ところで「ワープステーション江戸」がNHKエンタープライズの管理だと知ってびっくり。今、連続物の時代劇をずっと作り続けてるのって、NHKくらいだもんな…。

エキストロ

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  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: Prime Video
 

 

コスタ=ガヴラス 監督「ミッシング」2880本目

チリで軍事クーデターが起きたときに現地にいて、その後姿を消したアメリカ人青年。これは彼と、彼を探し続けた妻と実父の実話を映画化した作品。失踪した青年(を演じたジョン・シェア)の風貌や質問好きなところが、前にNetflixで見た「カメラが捉えたキューバ」を製作したドキュメンタリー製作者ジョン・アルパートを思い出した。彼の妻も非常に勇敢な女性だ。好奇心のかたまりで、どうやったらこんなに次々と質問が生み出せるのか不思議なくらい。好奇心を持ちすぎることを「火遊びしすぎると火傷する」として諫める場面がこの映画には何度も出てくる。アメリカにはその好奇心で鋭いドキュメンタリーを撮り続けて、ちゃんと生き延びた人もいる。そもそも、この映画を作れる自由の素地がまだ生きてる。それが希望なんだけど、アメリカ政府には外国で軍事クーデターを起こさせて、その国の新政権を覆せるほどの力がある。自国の利益のためにそこまでやってしまう”世界独裁”みたいな権力が怖い。

不思議ちゃん風だけど勇気あるまっすぐな妻を演じたのはシシー・スペイセク。キャリー…って思ってしまうけど、いい役者だなぁ。失踪した息子の父を演じたジャック・レモンも、性格の違う息子に対する複雑な心情と深い愛情が真摯に伝わってきて素晴らしかったです。

この映画がカンヌで最高賞を取る世界はまだ健全だと思う。日本は大丈夫なんだろうか…。

 

 

ガイ・ナティーブ 監督「SKIN スキン」2879本目

いいもの見た。正しすぎるくらい教育的で、かつ、面白く、学ぶものが大きい。

DVDには映画に先駆けてネットで公開された短編(白人のレイシストが黒人の復讐で全身いれずみの真っ黒な体になる物語)も入ってるし、監督の長いインタビューも入っています。

教育的すぎて、授業で見る映画みたいに起承転結、勧善懲悪がはっきりしてるけど、ネオナチの少年たちが拾われて育てられた事情も描かれているし、イベントに呼ばれた母と子たちがたまたま「アンチ・レイシズム」でなければ主人公が転向することもなかったかもしれない。ほんとうに紙一重だ。

この映画が、直感的に”こわい”感じがするのは、ネオナチとして登場する筋骨隆々とした若者たちの迷いのなさ。まっすぐ見つめる視線の強さ。そういうのがリアルだから。この間アメリカの大統領選のあとに殴り込みをかけた人たちと雰囲気が似てる。

でも、開き直って自分こそ上等な人間だ、としたり顔で、どこかで見たような言葉で人を責める人ってめちゃくちゃ多いよなぁ。怖いことが多い世の中だけど、逃げ回るだけじゃ克服できないのかな。どんな人にも大きな心で接して、包んであげられるようになれたらいいんだけど。レイシストの転向をサポートしつづけるダリルみたいに。

SKIN/スキン [DVD]

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  • 発売日: 2021/01/20
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バーベット・シュローダー 監督「バーフライ」2878本目

映画「ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス」→自伝「パティ・スミス ジャスト・キッズ」→ドキュメンタリー映画「ブコウスキー オールド・パンク」→詩集「ブコウスキー 死をポケットに入れて」ときて、この映画を見てみることにしました。乱読、乱鑑賞はこうやってつながりを辿って行くのが楽しい。

この映画は彼自身の脚本による自伝作品。すでにドキュメンタリーを見てるので、彼がバーカウンターにたかるハエみたいにいつもいる常連だったことも知ってるけど、ドキュメンタリーよりドラマ化したこの映画のほうが汚っぽい。実際にブコウスキーが入り浸ってたバーやホテルの部屋を使って撮影をしたらしく、壁紙がボロボロだったりするんだけど、それより、いつもニヤニヤしているミッキー・ロークが、常にちょっと暗いまじめな表情の本人と違う。本人がとても品のいい人で、口調は優しく知的で穏やかなので、ミッキー・ロークも性格的には近い感じだけど。

それにしてもフェイ・ダナウェイって本当に素敵。知的で服装はかちっとして、メイクも薄めだけどすごく色気があって。

ブコウスキー(この映画では「チナスキー」がバーで仲良くなった女が別の男と泊りに出かけたり、殴り合って血まみれになったり、こんどはチナスキーのほうが別の女を連れて帰ったり…という、バーを巡る3日間の日常を描いた作品で、なんということもない世界なんだけど、 (監督がコメンタリーで話すように)バーテンダーが人に優しかったり、何度も同じ失敗をして笑いが起こったり、そういう日々が大切なんだなと感じさせる作品。

バーに通って女をひっかけて…って日本でも行われてるんだろうか。私もそういえば新宿某所の地下のバーにボトルを入れて大人ぶってた20代の頃があったのを思い出してしまった。(ナンパは皆無だった、残念ながら)

バーフライ [レンタル落ち]

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  • 発売日: 2002/10/04
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トム・ティクヴァ監督「ヘヴン」2877本目

<ネタバレあり>

故クシシュトフ・キェシロフスキ監督が映画化を望んでいた三部作のうち、唯一脚本が書かれていたのがこの作品だそうです。トム・ティクヴァは個性的な監督だし、ケイト・ブランシェットは素晴らしい女優なので楽しみ。

「地獄」篇をダニス・タノヴィッチ監督が映画化した「美しき運命の傷痕」は、地獄というほど地獄ではない淡々とした作品だったけど、この「天国」は狙った相手でなく無垢な市民4人を爆弾で殺害してしまった事件、つまり、いわゆる地獄です。

自分がやったことの結果を知ったときのケイト・ブランシェットの演技が素晴らしい。ショック、放心、目の中にみるみるうちに涙が湧いてきて、否定しようとする。…こんな演技ができる俳優だから、「万引き家族」の安藤サクラの泣きの演技に注目して高く評価したんだなと納得します。レベル高いコメント!

彼女の取り調べでの通訳を買って出た若い刑務官は、真摯な彼女に「恋をした」といいます。爆弾犯と若い彼は、恋愛関係に陥るには遠い、共通点のない二人に見えます。

取り調べはあくまでも、彼女がテロリストの一味であるとして、他の仲間についての自白をひたすら求め続けます。

彼の計画により、彼女はそこを抜け出し、本懐を遂げ、二人は隠れ家で子どもたちのように眠ります。このときの二人の表情が、天国。

強い決意を持っていた彼女と、彼女を見つめる彼。フィリッパとフィリッポ、違う年の同じ日に生まれた運命的な二人。

「私は愛を信じることをやめたの」「愛してる」「わかってる。でも私は終わりを待って得るだけ」言うべき唯一の言葉のやりとり。最初は全然接点がなさそうだった二人が坊主頭になって双子のようになっていく。

彼が彼女を助けたのは、”正義感”の強さなのかな。彼の父は彼を行かせることしかできない。

丘の尾根を歩いて行く二人は天国にいるみたいだ。やっぱりこの映画は地獄じゃなくて天国だった。

…妻夫木聡と深津絵里が演じた「悪人」(男女逆だけど)にしろ、犯罪者に共感する物語はけっこうある。カタストロフィに向かって一気に加速する二人。

キェシロフスキ監督に恥じない美しい作品だと思いました。何よりもケイト・ブランシェットの泣きの演技は必見です。

ヘヴン 特別版 [DVD]

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  • 発売日: 2003/11/14
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