映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イングマール・ベルイマン監督「魔術師」2464本目

馬車が木立の向こうから走ってくると、その背後から夢のように美しい陽射しがさしこんでくる。印象的な場面だけど私でも知っているスヴェン・ニクヴィストの撮影ではないようでした。 

マックス・フォン・シドーが若い上に「髪を黒く染めて付け髭をつけている(途中で拾った瀕死の男によると)」。

魔術団の老婆がやたら不吉なことを言っていると、瀕死の男が同じ調子の呪いを続けるのが、なんだか呼応しているようでちょっと可笑しい。そんなブラック・コメディなのだと、この映画を評する人もいます。むかし同僚にスウェーデン人がいて、やたらメールが長くてクスリとも笑わない海坊主のような大男だったけど、あとあと聞いてみると「あのときはすごく楽しかった」など言ってたらしい。そんなスウェーデン人の、わかりにくいユーモアいっぱいの作品なんじゃないか、多分。

<以下ネタバレっていうのかな>

途中で拾った男のほかに、魔術団の博士を殺したと思い込んだ執事という2つの死体が手持ちにあったので、医師を脅かすためにインク壺に眼球を仕込んだりしたのは、そういう新鮮な材料を工面したものかもしれない。でも、そういうハリボテなんてまさに魔術団がもともと仕込んでいそうなものだ。怪しい魔術団を貶めようとした人たちは最後に王宮に招かれた彼らを送り出して、ちゃんちゃん。やっぱりコメデイだった、とほっとするのでした。

魔術師

魔術師

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武内英樹 監督「翔んで埼玉」2463本目

めくるめく魔夜峰央の世界。ビジュアル系とか宝塚とか、もっというと歌舞伎や戦隊ものアニメにも通じる”不自然さの”が体質的に嫌いな人は、はなから見ないほうが良い。この世界に異常に親和性の高いGACKTと、何にでもなりきれる天才二階堂ふみがいれば、すでに画面は完成したも同然。よく見るとパタリロもいるじゃないですか。

この東京vs埼玉という一方的な愛憎関係が、九州から出てきた私には昔から何言ってんのかさっぱりわからないのですが、世界を見渡すと同じようなところだらけ。ニューヨークvsニュージャジー、イングランドvsスコットランドetc…田舎のネズミと都会のネズミっていう童話もありましたね。だからいいんじゃないですか?(東京生まれの人に言わせると九州は田舎ですらなく「地の果て」だそうです。この井戸の中の蛙が!おっと本音が)

こんなどうでもいいことをグダグダ言う人たちを、笑いいさめる映画でもあるんじゃないですかね。こんなおバカ映画で、力の限り真剣に演技をするGACKTや二階堂ふみを見ていると、その真摯さがすがすがしいのでした。

できることなら、この映画のエキストラに出たかったなぁ~

あー疲れた。

翔んで埼玉

翔んで埼玉

  • 発売日: 2019/09/11
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ルネ・ラルー監督「ファンタスティック・プラネット」2462本目

目の赤い、なんか怖いキャラクターのこの映画、ずっと気になってましたが、コロナがらみのAmazon経由シネフィルWOWOW無料ということで見てみました。1973年の作品なんですね!なんとなくモンティ・パイソンのつなぎアニメみたいな品質とテイストなのが納得です。

彼らよりずっとちっちゃくて、愛玩動物のように飼われたり、単に駆逐されたりしているのが人間。人間もまた蚕みたいな生き物が吐き出す衣服を身に着けてる。どちらの生物もメスは乳房丸出し、または片出し。いいのか悪いのかよくわからないけど、こういう設定をするのは間違いなく男性だと思うな。

小さい人間の中に、大きいドラーク族の言葉や技術を理解するものが現れて、ロケットを開発して別の星へ逃げる。そこで発見した頭のない像がドラーク族のよりどころだと見抜いた人間たちは、像を片っ端から破壊することでドラーク族を破綻させる。

でも人間たちはドラーク族との和解を申し入れ、めでたしめでたし。

…もうストーリーがあまり頭に入らないほど、絵面が奇妙キテレツすぎて。なかなか不思議な面白さの作品でした。なんか夢に見そう…。

 

オットー・プレミンジャー監督「軍法会議」2461本目

ゲーリー・クーパーってどうも私は印象が薄い。日本人的に真面目できちんとしていてちょっと神経質そう。親しみは感じるんだけど、私は映画にもっと破天荒なものを求めてるのかも。

この映画は、プレミンジャー監督がお得意の”けれん味”を極力抑えて、ストーリーテリングに徹しています。とにかく長セリフの交換が延々と続く、続く。なんだか分厚い小説をいっしょうけんめい読んでるような気がしてきます。字幕だし。

内容は、今見るとまさか!と感じてしまいますが、「USの軍隊は陸軍と海軍しかないので空軍も設立すべき」という論戦が軍法会議にまで発展したという話です。第一次大戦後、1925年が舞台ですが、実際US air forceが独立したのは、第二次大戦後の1947年だったんですね。知らなかった!海軍がNavy、陸軍がArmyでなんで「空軍」を表す英単語がないんだろうと思ってたら、設立の時期が全然違ってたんですね。

日本軍が攻めてくるということをここで予言しながらも、真珠湾で備えることができなかったと。その事実はアメリカ国民にとって、誤解を恐れずに言えば911前の最大の屈辱だった、のかもしれません。

こういう”裁判”を陪審員方式でやると、新しい正解を訴える人が勝つことなんてまずないだろうな。合理性を重んじるあの国の、最新兵器を駆使する軍隊という場でも、こと人間や主義主張が関わってくる場面では、旧体制が勝つことも多いのかもしれません。

しかし、こういう映画で監督の意図に賛同する気持ちって複雑。US空軍がこのとき設立されて、日本の真珠湾奇襲が失敗したとしたら…。どうせ敗戦するならその時点で敗色濃い結果が見えていたら、失うものがもっと少なく済んだんじゃないか。そんな気がしてならないのでした。 

軍法会議 [DVD]

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ジャック・ベッケル監督「モンパルナスの灯」2460本目

これを借りた理由は多分、宝塚の「赤と黒」を見たからだ。以前見たジェラール・フィリップ主演の「赤と黒」は宝塚にはあるまじき悪党の物語なのに、それを忠実になぞりつつ清く美しい宝塚流にちゃんと完成していた先日の公演はなかなか素晴らしくて、改めてジェラール版を見直そうと思ったのに、TSUTAYAでレンタルできなかったので未見のこれを借りたという(まるで風が吹いて桶屋が儲かったのでレンタルした、くらい遠かったな)。

そして相手役は、この間「男と女 人生最良の日々」で見たアヌーク・エーメ。彼女の若いころの姿もまた見たくて。美しく、かわいらしく、かつ高潔で凛々しい、女性から憧れられるクール・ビューティですよね。この頃はなんとなくまだちょっと初々しくてぽーっとしてて、「男と女」みたいな完成をみる前、という風です。前の彼女として出てくるリリー・パーマーもかなり完璧でキュートな美女。そして、ジェラール・フィリップは完璧な女殺しだなぁ…。知的でちょっぴり甘えたような表情をする美貌、常に自分が主人公であることを知って演じているかのようなカメラ映り。自分に対してその拗ねたような媚びるような表情を向けてほしい、と渇望した女性がいったい何百万人いたのか。

モディリアーニ本人の写真を見ると、なかなかハンサムでそりゃ女性にもてるでしょうって感じだけど、腺病質のジェラール・フィリップというよりオスカー・アイザックみたいながっしりした人です。

だけど結核が原因で早逝したのはモディリアーニの方。あっけなく召されて、実際にはジャンヌが彼のあとを追うという悲劇があったのですが、それには映画では触れられず、死後に値段が上がることを見込んだ画商が、何も知らないジャンヌの前で絵をかっさらっていく場面で終わります。

特異な才能をもった画家の夭折。もっとあの細長い女性の絵をたくさん描いてほしかった、老人になってから、老成した新しい境地を見せてほしかった。でも私たちは今あるもので足りるしかないんですよね…モディリアーニの絵も、ジェラール・フィリップの映画も。

モンパルナスの灯

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キャスリン・ビグロー監督「ハートブルー」2459本目

あのハードボイルド女性監督が、1990年にキアヌ・リーヴス主演の映画を撮ってたとは。原題は「Point break」、辞書では「一点突破」と出ました。

要領のいいスマートな銀行強盗に立ち向かっていく、まだ美少年然としたキアヌ。その銀行強盗はじつはサーファーだった。キアヌは自分もサーファーになって”おとり捜査”を始めます。

やっぱりハードボイルドだなぁ。体育会系だな。監督自身はサーフィンをするんだろうか。キャスリン・ビグローは、「金髪美人の女性監督がなぜ」という私の中の偏見や先入観を表に出させる人なんだけど、この映画も戦争とか殺戮はないにしろ、めちゃくちゃ男の世界なんですよ。大波にしなやかに乗ったり、スカイダイビングでどこまでパラシュートを開かずにいけるか、勇気を試したり。女性がすごく添え物っぽい。彼女自身は、「いいなぁ男同士って。男に生まれたかったわ」とか思うような少女だったんだろうか…などと想像。そういえば私も幼児のころ男子どもに「女はウルトラマンに変身できないんだぞ」ハミにされて腐ったものだった…。

それはそうと、嵐で海に入れないといってるのに、雨がストレートなしとしと降りってのは、ちょっとt作りこみが甘かったかもなぁ~ 

これを作ったあと改めて、もっとハードな作品を作りたいって思ったのかな。その後の快進撃はすごいです。

 

川島雄三監督「風船」2458本目

高度成長期の日本の、大企業で仕事や接待にいそしむやり手サラリーマンと、ホステス。

ナイトクラブではジャズ演奏の前で、ローラースケートを履いて踊りながら歌う(口パクだけど)、北原美枝。こういうショーを本当にやってたのかな。「太陽の季節」と同じ年の作品です。

クラブ通いのサラリーマン、三橋美智也の”ちょっと頭が弱い”妹役の芦川いづみがまた、可愛い!彼らの父親役は森雅之。老人のようなたたずまいだけど、このときまだ45歳。精悍な壮年です。

ホステスは新珠美千代。この手の役どころ多いなぁ。男あしらいがうまいけど、特定の男に執着するかんじが、素敵なひとなのにどこか痛々しい。その一途さが結局、命取りになってしまいます。

それにしてもひどい男たちだよな~。でもこの時代だけがそうというわけじゃなく、今もひどい男はたくさんいます。これからはむしろ、「人の気持ちがわかる人・わからない人」を科学的に分類して、わからない人とのかかわり方を考えていくべきなんじゃないか、なんて思ったりして。そうでもしなければ、一方的に思い入れる人たちがとてつもなく傷つくことは減らないんだろうな、と。

今回もまた、川島作品は傷ついた人たちへの温かい視線が残る映画でした。

風船

風船

  • 発売日: 2018/06/11
  • メディア: Prime Video