映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウィル・メリック 監督「search #サーチ2」3793本目

あー今回も危なっかしいティーンエイジャーの女の子だなぁ~と思ってたら、失踪したのは母のほうか!そしてすごいハッキングスキルでガリガリ、パスワードを暴いたり現地探偵を雇ったり、観光地のカメラの履歴を見たり、謎の真相に迫っていくのがこの子なのでした。やるなぁ!

っていうハッキングのあれこれをいいテンポで見せてくれるのが、スリリングで盛り上がります。それにしても、どいつもこいつもパスワードが家族といっても簡単にばれすぎ(笑)本当のサイバー捜査ではもうちょっとプログラム駆使して警察のほうが娘より先行するくらいじゃないと困る。

途中までは米墨の一般市民がオーディエンスにどんどん加わったりして楽しいけど、犯人がわかったあたりから普通の誘拐ものになってしまって、そっから先はもういいかなという気もしました。(それでもSiriの活用とか笑ったけど)

サーチ3を作るとしたら、たぶんChatGPTとか駆使し始めるんだろうな。どんどん作って見せてほしいです。

search/#サーチ2

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  • ストーム・リード
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コートニー・ペイジ 監督「七つの大罪クラブ」3792本目

なんとなくゴシックホラー学園的な設定がちょっと惹かれる。ちょっと悪い個性的な美少女が7人。ヴァージン・スーサイズみたいな、女性監督の特徴がたっぷり現れた作品の一つといえるかな。

大罪の一つが優等生、ってところがちょっとつまらない気もする。彼女の存在が映画を動かしてしまうってのも…。とことんビッチのままで全員滅ぼされてくれたほうが、映画としては盛り上がったんじゃないかな、なんて思う私こそが極悪か…。

斎藤久志 監督「草の響き」3791本目

これもまた佐藤泰志の原作。主役を演じるのは東出昌大。はなから彼は鬱という設定で、そういわれればそう見えるけど、彼のしっかりした体格や表情、力強く走る姿から、”暗さ”をあまり感じないのが、見ている者としては救いだな。その妻は奈緒。彼女の普通っぽさがこの世界に溶け込んでいて、一瞬ちょっと疲れたような表情も、いい。

これも、病んだ人がそこにいる日常の一片で、淡々と過ぎていく時間に半歩ずつ遅れていって、自分だけとてつもなく遠いところに置いて行かれると、当人だけが思っている、そういう風景だ。そのズレの存在、身近な他者が感じている痛みまでひしひしと受け止めてしまう人だから、著者は生きづらかったんだろうなとも思う。そういう日常をそのままの形で提示するのが、作家としての彼のいとなみ。

彼の作品に起承転結はなく、終わりを示すものもない。著者はやさしすぎて、作品中で生きている登場人物たちに「カット!」が言えなかったんじゃないか、と他の作品を見て思ったけど、別の見方をすると、作者が終わりを告げることは死を意味するから、生きている限りは書き続けるという意識でいたかったのかもしれない。

死にざまも生きざまの一部だ。それに誰かの死はその人のコミュニティの日常のひとこまでしかない。でもやっぱり、じわじわと、悪い、かなしみの予感が漂ってるんだよな。

自分の家族が倒れたり亡くなったりした直前の、よくもないけどまだそれほど悪くもない日常、を見ているようで、なんとも痛くかつ懐かしく感じるんだ、この人が原作の映画は。それでも懐かしさが勝つからか、見てしまうんだよな…。

城定秀夫 監督「夜、鳥たちが啼く」3790本目

佐藤泰志の原作作品がまだ作られてるんだ。なら見る。

誰かが感想に、彼の原作作品の中では一番結末が明るいと書いてたけど、そうだな。鬱屈しているばかりで、上手に作品として表出することもままならない男と、欠落だらけの女。私には今も山田裕貴の良さがよくわからないけど、松本まりかいいですね。綺麗で一見さわやかだけど、心は暗闇の中にいるような重さがある。欠落が食虫植物みたいに、あでやかに、男たちをひきつけて呑み込んでいく。

でも、底からどん底へ滑り落ちていくような場面はこの映画にはない。”まだそこまで行ってない”だけかもしれないけど、この風景は、自分や自分が過去に付き合った人も含めて、だいたいみんなこんな日常だ、という風景。そこから、何かのきっかけでクサビが外れたみたいに転がり落ちるか、あきらめずに這い登るか。(底の底で達観して笑う、というのもいいけど)

みんないつの時点で夢をみたり自分に過大な期待をしたりするのをやめるんだろう。死ぬまで乙女のような夢を見続ける人もいるんだろうけど、達観した後にも美しい世界を見続けられる人もいる。(私もそうかも)

なんとなく危なっかしい、スレスレのところをゆらゆら歩いている二人と一人の子ども。なんとなく、数日後の新聞になにかの事故か事件の被害者として載ったりしないか、ハラハラする。

でも逆に、見てると落ち着く気もする。なんだろうこの気持ち。自分自身が、ゆらゆらしている人たちを「神の視点」みたいな遠いところから見ていると、ちょっと愛しい気がするからかな。自分も赦されるような。何も起こらない、大きな変化など何も起こらない映画だけど、不思議な感覚を、押し付けずに感じさせてくれる、という点で、共感できる人はむしろ少ないのかも。客観的な評価などしにくい映画だなぁ。でも嫌いではないです。

 

「ストリート・ギャング セサミストリートが誕生するまで」3789本目<KINENOTE未掲載>

懐かしい!田舎の子ども(私)は、この番組をただぼーっと眺めてるだけで英語が話せるんじゃないかと思ってたっけなぁ。テキストを買ったこともあるけどまったく何もわからなかった。でも洋楽はもう聞き始めてたから、カーペンターズ、レイ・チャールズ、サミー・デイヴィス・ジュニア、テディ・ペンタグラスとかが動いて歌ってるのを見てどきどきしたもんでした。ゴードン、ボブ、マリア、ああ懐かしい。スペイン語の1~10くらいはこの番組で覚えたかもしれないな・・・。

このドキュメンタリーを見始めて初めて、マペットは手を高く上げて操ってたことを知った。これはきついわ。

これが「ひらけポンキッキ」の元になったとWikipediaには書いてるけど、ポンキッキや「おはようこどもショー」とセサミストリートをひっくるめて全部が、Eテレの子ども番組の人形劇のもとになってるよな~。(操演と声の両方をやってる人は少ないが)

番組が始まったのは1960年代で、ジム・ヘンソン(アーニーなど)とフランク・オズ(バートなど)のルックスが反戦運動やってる学生みたいでじわじわきます。ジム・ヘンソンの訃報をおぼえてるけど、1990年にわずか53歳で亡くなってたのか。しみじみと、自分の幼少期の終わりも感じるな…。

これが今でも放送されてるって、素晴らしい。最新シリーズがU-NEXTで見られるので早速見てみると、メインの女性がちょいちょいスペイン語を混ぜてきたり、アジア系らしき女の子マペットがいたりするのが今っぽいですね。数が数えない子どもや、ABCが使えない子どもは減ったのではないかと思うけど、分断がなくなったとはとてもいえない状況なのが残念ではあります。

黄インイク 監督「緑の牢獄」3788本目

沖縄の西表島の炭鉱で働くために台湾から移住してきて、そのままずっと住み続けている人々がいる。国と国の関係は時代によって、政治や経済の影響でどんどん変わっていく。宣伝はお金と嘘でいっぱいだけど、見せられた夢に憧れる人の多くは失望する。失望したあとの人生は長い。けっこう長い尺を使って、アメリカから渡ってきた日系アメリカ人と思われる若者も生活を語る。テレビや雑誌で取り上げられる「ハーフモデル」などとは無縁の島の生活。

起承転結のないこういうドキュメンタリーを撮る理由は、”忘れられた人々”、invisible peopleに目を向けることだと思う。製作者が強く結論を意識すると、観客を誘導する作品ができてしまう(マイケル・ムーアとか)。それを避けたいという強い気持ちがあったんだろう。知らなかったことにただ目を向けることが、この映像を撮ってくれたことに対する観客のやることだと思う。

岸政彦が続けている東京、大阪、沖縄の生活史プロジェクトと似た感触の作品だとも思う。市井の人たちの語りは断片的で、長尺の映像作品としてまとめるのは難しい。でも、文字でなく映像として発表することで伝わることも多いから、なにか新しい方法論が出てきてもいいのかもしれない。

緑の牢獄

緑の牢獄

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ジャン=ステファーヌ・ソヴェール 監督「暁に祈れ」3787本目

「SKIN」を見たときの印象を思い出した。説明のない、コントラストの弱い白黒みたいなカラー映像。というより、昔よくあった赤黒の二色刷りみたい。(最近見ないな)

白い肌でスキンヘッドの男は目立つ。言葉も通じないジャングルみたいな場所として描かれてるけど、野生の動物たちみたいに描かれてるタイの犯罪者ってこんなにただ獰猛なだけなのかな。言葉が全然わからないからそう感じるのかな。

原作となった自伝を書いたイギリスのボクサーのWikipediaを見たら、出身地のリバプールに戻った後にまた盗みを働いて、この映画のプレミアには出られなかったとのこと。映画の最後でも「薬物依存を断ち切る努力を続けている」とあって、今はクリーンだとは書いてない。家庭に恵まれなかったようだけど、人って何があっても変われないのかな・・・。

暁に祈れ(字幕版)

暁に祈れ(字幕版)

  • ジョー・コール
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