映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

デヴィッド・O・ラッセル 監督「世界にひとつのロマンティック」2408本目

「世界にひとつのプレイブック」にひっかけた邦題だなーと思ったら、監督が同じなんですね。同じ監督なら許されるか…。しかしこっちは、すっとぼけたコメディで、頭に誤って釘を打たれてしまったアリス(ジェシカ・ビール)は終始、茫然としたような表情なのが可笑しい。彼女を振りそうになってる自己チューな警察官はともかく、彼女がその窮状を直訴しにいく代議士がジェイク・ギレンホールというのも、なんか変。私こういうおバカ映画が好きです。

ジェシカ・ビールって、美人でセクシー、かもしれないけど、それより知的でまともな人っていう印象だなぁ。“ジャスティン・ティンバーレイクと結婚したセクシー女優”っていう説明がまっさきに来る感じじゃないです。ジェイク・ギレンホールは、いつもなんか異次元の映画で宇宙人みたいな役をしてるイメージ(先入観といっても過言ではない)があるんだけど、この映画ではお間抜けでお人よしなのも楽しい。といっても、熱血になりきれない感じが、どこかやっぱり“得体のしれない人”感を残していたけど、楽しかったからいいや。 

そんな、軽く楽しめる作品でした。

世界にひとつのロマンティック(字幕版)

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マジッド・マシディ監督「運動靴と赤い金魚」2407本目

イランの映画。いろんな顔、いろんな肌色の子がいるね。白人っぽい子もいれば、肌が浅黒い子もいる。みんな無邪気。

靴を買うお金にも困っている家庭で、お兄ちゃんがちょっと目を離した隙に妹の靴を失くしてしまう。家にほかにスリッパくらいしかない。親に言うと怒られるので、お兄ちゃんは妹に自分の運動靴を貸してあげることにしました。妹が学校から急いで帰ってきて、お兄ちゃんは交代でその靴をはいて学校へ。

映画はずっとこのお兄ちゃんのがんばりを中心に描きます。テストでは100点、マラソンでは一等になる優秀なお兄ちゃんです。どうもこの家のお父さんは、優しくて純粋な人なんだけどちょっと商売が下手…。

(以下ネタバレっちゃネタバレ)

最後にはお父さんが給料をもらって二人の新しい靴を買って家へ向かいますが、マラソン大会で一等になったお兄ちゃんは三等賞品の靴を逃したのが悲しくて、泣きながら痛む足を池に浸していると、大きくてきれいな金魚がたくさん足の周りに寄ってきて、ゆらゆら泳いでいました…。

子どもたちの素直ながんばりが可愛くていじらしく、ダメなお父さんも厳しすぎる先生も「いいところもあるじゃん」と描かれます。なんか優しい。それに、どの人にも逃げ道を残すように細かく作りこんであるな、と思います。

このお兄ちゃんはきっと、蚊に刺されやすい妹のために原因を研究して突き止めた少年(実際にあった話でこの子は今は研究者になってる)みたいに、優しく賢い一家の長になっていくんだろうな。

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ジョン・フォード監督「捜索者」2406本目

ジョン・フォードが監督で、ジョン・ウェインが主役で、アメリカのモニュメント・バレーで撮影されたとなると典型的な西部劇ってやつですねきっと。そして、唐突に何の脈絡も必然性もなく、女子供ばかりが立てこもっている家を焼き討ちにして、逃げようとした幼い女の子まで殺してしまう“インディアン”たち。

数年前にこのあたりに観光で行ったとき、現地の日本人ガイドが普通に「インディアンたち」って今も言ってて驚愕したんだけど、それは変えられない言葉の習慣というだけじゃなくて、頭も切り替えられてないかもしれない。

この当時の“貧しい南部の白人たち”が共通の敵(「あいつらのせいで何もかもうまくいかない」)を求めた気持ちは今はむしろ移民や国外の人たちに向けられていて、たいして何も変わってないのかも。 

一方で、こういう映画に対して「不公平だ、偏っている」と批判したり、双方の言い分を含めて描いたりするのって、アメリカ的“驕り”なのかな、という気もする。だって批判してる彼らは私たちみんなの上にいるわけではなくて敵方当事者なのに、「やりすぎた、悪かった」と謝るならまだしも(「ダンス・ウィズ・ウルヴス」の時代)、いつの間にか上から「双方平等に」(アカデミー賞が白すぎる、とかね)って言いだしている。赤の他人に飲み屋でお説教をはじめる偉いおっさんみたいな、アメリカ的な「俺えらい」病か…。

私たちが知らないだけで、極悪日本人が白人に退治される映画もけっこう作られてたりして…あ、100年以上前に作られた「チート」がそうだった!

しかしこの映画「捜索者」、行ったり来たりが多くて若干むだに長いなぁ。もうちょっとシンプルに監督の思う善悪をパキッと決めてくれてもよかったのに…共感できるかどうかは、長さでは変わらないから。。

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川島雄三監督「愛のお荷物」2405本目

子どもは神様からの授かりものではないのか、この映画では徹頭徹尾“お荷物”扱いで、妊娠した女性は「申し訳ありません!」と父となる男やたちに謝り続ける。逆だろ!時代が違う映画を見るときはわりと寛容なほうだと思っていたけど、これはなんとも。

といっても、おそらく、この映画は人口爆発をおそれて人工中絶法案を通そうとしている当時のご時世を皮肉った作品で、むしろ制作側は「いいじゃないか産めよ増やせよで。大事な命なんだから」という意見を持っていたんじゃないですかね。

どっちにしても産む、産まないという母体の生死にも関わる決断を男ばっかりで決めようとしているのが違和感があるけど、そういうクレーム対応として菅井きんフェミニスト代議士(まだ若いのに妙にしっかりもの)が登場するんだろうな。

まだまだまだ映画が男の男の世界だった頃の映画でした。

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シドニー・ルメット監督「その土曜日、7時58分」2404本目

(ほぼネタバレあり)

在りし日のフィリップ・シーモア・ホフマン、今よりちょっと若いイーサン・ホーク。兄のアンディ(ホフマン)が弟のハンク(ホーク)に宝石店強盗を持ちかける。もちろん普通の素人。なんか痛い、いやな予感がします。サングラスと付け髭で返送したらフレディ・マーキュリーみたいになってしまった弟。どうやら兄は自分では手を下さないようで、現場にはいません。弟はにわかに捕まえた相棒を強盗に入らせて自分は外で待ちます。この、アメリカのちょっと寂れたショッピングモールの感じが、すでにわびしい。。。

計画は失敗して最悪まであと一歩(※母だけが死んで共犯者が生き残って証言するのが最悪かな)というところで終わります。

卑怯の連鎖。

兄は長年の恨みをぶつけるかのように弟を操ろうとする。弟は何も深慮せず、話に乗るけれど、自分は手を汚さないために共犯者を見つける。共犯者は実弾の入った銃を持っていた。母は店を守るため命を張った。親や兄弟を裏切るほどの罪を兄はすでに犯していたし、弟はもともとの弱さから兄の策略にひっかかった。母を逝かせて、父は兄のほうを疑う。弟は兄の妻と寝ていた。…という地獄。どこからそうなってしまったのか、昔からとっくにそうなる伏線が張られてたのか。

悲惨すぎて見るのがみじめな気持ちになってくる。兄は弟をずっと憎んでるのに、弟は憎まれていることに気づかずに兄の言いなりになってるんだ。でも憎むってどういう感情だろう。本当は愛してもいたんだろうか。ためらっているうちに兄は撃たれる。卑怯は連鎖して悲惨が悲惨を連れてくる。

兄という立場は、何がなんでも家族や自分を守って戦い続けるのがサガだから、「俺を撃てよ」とは思えないのかもしれない。父の立場はそのサガがもっと深い。

でもやっぱり、シドニー・ルメット監督はすごいな。突き詰めると人間って、愛と、その裏返しの憎しみでできてるのかもしれない。

その土曜日、7時58分 (字幕版)

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ペドロ・アルモドバル監督「ハイヒール」2403本目

やっぱりアルモドバル監督の作品は面白いなぁ。

必ず「えっ」というようなヒネリが入るんですよね。何本見ても予想できず、毎回驚かされる。そして必ず、とても大きな愛に包まれる。ラテン的な愛憎が新鮮。普通の日本人の私は、いつも誰かの愛情をちょっぴり信じられず、しっかり憎み切れないけど、彼らはちゃんと憎むから激しく愛せるのかもなぁ。

往年の人気歌手の母(マリサ・パレデス、「オールアバウトマイマザー」の大女優ね)は、自分の恋人と娘(ビクトリア・アブリル)が結婚したことで娘を憎むようになる。

この監督の映画では男は常に何かやらかして殺されて、母と娘は愛を確認する。

いつも道徳とか常識は、愛に比べれば二の次で、罪もしばしばスルーされる。それなのに見ているほうはなんとなく納得してしまうのが、監督のストーリーテラーとしての技の見せ所なのかもしれません。

ちなみにタイトルの「ハイヒール」は最後の最後に娘が、半地下の病室の窓を母のために開けてやりながら、「小さいころ、母のハイヒールを部屋からこんなふうに見るのが好きだった」と話す、という形でやっと登場します。それにしてもアルモドバル監督の映画に出てくる女性は全員(オカマも)すごいピンヒールをはいてるよな…。

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マイク・ニューウェル監督「コレラの時代の愛」2402本目

美麗なタイトル。こういうところに凝ってる映画って好きです。イラストはそこだけだけど、力の入った作品だと伝わってきます。

この映画は、一人の無垢な少女に一目ぼれして、その後一生愛しつづけた男の話。原作はガルシア・マルケスで、舞台は彼が若いころに暮らしたコロンビアのカルタナヘという美しい町です。ガルシア・マルケスの作品にある、「百年の孤独」もそうだけど、長年にわたる忍耐強さ、執念深さ、重すぎる愛とかに圧倒されます。でもそれほどの圧迫感によっても誰かが狂気に走るわけでも、自爆するわけでもなく、海より深い愛がやがてフェルミナ(永遠に愛される女性)を包み込み、世界がフロレンティーノ(ハビエル・バルデム演じる執念の男)で満たされる。…そのくらい、すごいんだ。彼の愛は地球より大きい、ような感じ。この粘着をもってして大きな愛だと納得させられる演技ができる人は、ハビエル・バルデム以外に思いつかないです。

二人とも老けメイク・老け演技がとてもよくできていて、フェルミナの若い身体と老人になってからの身体の変化がすごかった。顔だけ後で合成したんじゃないかと思うくらい。実際どうやったんだろう?

フロレンティーノが強烈なので目立たないけど、フェルミナもなかなか気が強くて強情な女性です。まず拒否から入る。でも自分を守ろうとする野生のバラの棘みたいで、男たちが引っ込むことはありません。

フロレンティーノは600人以上の女性との関係をいちいちノートに詳しく書きつづる(それほどの粘着質の男)のに、一人の女性を愛し続けるというのはどうなのか、という感想が当然出てくると思うけど、時間ってのは結婚したフェルミナにも独身のままのフロレンティーノにも同じように流れるわけなので、フェルミナを横恋慕し続ける53年の間に通りすがる女性たちがいても、しょうがないんじゃないでしょうか。通り過ぎるだけの彼女たちのことも、それだけで忘れたくないから何から何まで書き留めるバルデム。

こういう情感、こういう人生。ものすごく偏った私のイメージでいうと、スペインなら決闘を申し込み、メキシコなら銃で相打ちになるけど、コロンビアだから誰も傷つけあわずに執念深く待ち続ける、とかね。(泣くまで待とうホトトギスか?)

ガルシア・マルケスの理解がすこーし深まったかなと思えた佳作でした。小さいけどこういう気づきがあるから、映画は面白い。

コレラの時代の愛 (字幕版)

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