映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルキノ・ヴィスコンティ 監督「白夜」2643本目

「100分で名著」の講師やプロデューサーが名著について語るというNHK学園のセミナーに行ったとき、沼野先生か島田雅彦のどっちかがこの原作を推してたので読んだのだ。マストロヤンニはロマンチストなだけで。映画化したのがヴィスコンティでイタリア映画、というのがミスマッチに思えたけど、イタリア的な激しさがこの小説に限ってはロシア的な刹那感に合っていた気もします。イタリアに白夜なんてないので撮影はすべて室内のスタジオ。夜の10時に女性が一人で外で人を待つなんて、白夜でもなければできないから、この設定は必要なんでしょうね。

とてつもなく内向的な男と、感情の起伏がヤバいくらい激しい女の物語だと、原作を読んだときに感じたけど、映画では男の内向性がほとんど感じられない。小説のほうは独白がすごく多いんですよ、彼の主観で書かれてるから。そういうドロドロした部分がなくて、演じてるのがさっぱりとしたマストロヤンニだから、男のほうはくどくない。女の方はわりと小説のイメージどおりです。私から見るとちょっとコワイ。でも男も女も激しくロマンチストなんですよ、だからこういう芝居がかった恋に落ちそうな際で盛り上がる。

ジャン・マレーって強面ですね。居酒屋で踊ってた若者たちの動きが美しくて印象的でした。

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ルカ・グァダニーノ 監督「サスペリア」2642本目

<ネタバレあり>

Amazonスタジオが豊富な資金で制作した作品。アメリカのドラマみたいに、かなり刺激的。モヤモヤもいっぱい残るけど、面白かったです。

ダコタ・ジョンソンが主役というのが面白いですね、彼女は「フィフティ・シェイズ」シリーズでは運命に翻弄されながらも自分を保ち続けた女性でした。オリジナル「サスペリア」のジェシカ・ハーパーも、純粋だけど弱弱しくなくて元気な女性だったから、意外と近いイメージなのかもしれません。(ただ、結末を考えるとこのキャラクターは地味すぎるというか説得力が弱い気もします。抑えながら演技するのも難しかっただろうけど…)

オリジナルの舞台は監督のお膝元のイタリアでしたが、今回はベルリン。これは世界中のオーディエンスを集めるという意図かなぁ?

で、彼女たちが踊る「民族」(folks)ですが、これは拳法ですね。太極拳をかじったときに「ひじで突いて、顎を刺す!」みたいなすごいことを唱えながらシャドウ拳法をする感じで指導を受けましたが、それをオカルト化するとこうなるのか。

ストーリーとしては、ダコタ・ジョンソンを中心に「民族」を踊ることで彼女になにかを召喚しようとしたら、ラスボス出現しちゃって中間管理魔女たちが駆逐されてしまったということなのかな。彼女のその変化の前後がもう少し明確に見た目とかで示されていたら、もっと説得力のあるストーリーになったんじゃないかな?

ティルダ・スウィントンは、ゾンビ映画でも魔女映画でもすとんと入り込んで持ってっちゃう。現在のジェシカ・パーカーは昔どおりの愛嬌のあるおばちゃんで、会えてうれしかった。それにひきかえクロエ・グレース・モレッツ…黒髪で出てきて、ほぼゾンビのような姿でひたすらさいなまれるだけの可哀想すぎる姿…。

文字通り首の皮一枚でつながっているティルダ・スウィントンが生き返りそうな雰囲気があったし、ラスボスは元気いっぱいなので、まさかの「新サスペリア2」は十分計画されているように思えます。

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クシシュトフ・キェシロフスキ 監督「ふたりのベロニカ」2641本目

トリコロール三部作を見終わって、はかなげで優しい女神的なイレーネ・ジャコブをもっと見てみます。「赤の愛」とも違う不思議な女性(たち)です。

ストーリーを追うのは難しいわかりにくい映画なんだけど、こういう作品は心の目で見よう。原題は「ふたりのベロニカ」じゃなくて「The Double Life of Veronique」つまり「ベロニカの二重の人生」。直訳されていたら難解に感じる日本人はだいぶ少なかったんじゃないだろうか。つまり(比ゆ的には)ベロニカは二人じゃなくて一人なんだ。ドッペルゲンガーというより一つの魂が双子みたいに分かれてヨーロッパのあの辺とこの辺で生活している。

何かこの映画には哀しみがある。ポーランドの中でもクラクフは「シンドラーのリスト」のシンドラーの工場があった、有名なホロコーストの町だ。クラクフのベロニカは天才ソプラノだけど、彼女の人生ははかない。最後のほうに人形遣いが言う「オーブンに手をかざして火傷してしまった方の女の子」だ。「手を伸ばさないほうがいいという霊感のおかげで、すんでのところで火傷せずに済んだ女の子」であるフランスのベロニカは、楽天的で活動的だ。彼女はクラクフのベロニカのところまで出かけて行って写真も撮っている。先に見つけたのはクラクフのベロニカのほうだけど、はかなく息絶えてしまう。ずっと胸の痛みを感じつつ、生き延びているほうのパリのベロニカは、だいぶ時間が経過した後に彼女の写真を見つける。クラクフのベロニカの存在に気づいたとき、同時に彼女がもういないことを察知して泣き崩れる。

これがもし1941年のことだったとしたら?クラクフのベロニカはゲットーの中で息絶えて、「もし自分がクラクフでなくパリで生まれてたら」と自分の別の人生を夢見たかもしれない。…これが大前提にあったんじゃないかなぁと私は何となく感じてるのです。

それにしても女神だった、イレーネ・ジャコブ。 

ふたりのベロニカ(字幕版)

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クシシュトフ・キェシロフスキ 監督「トリコロール 赤の愛」2640本目

青、白、と見たのでこれもまた見ました。イレーヌ・ジャコブすごく可愛いけど、青・白の二人の女性の強さを見せつけられた後だと頼りない気もする。(私もこんな頼りない女性だったはずなのに、ヨーロッパの映画ばかり見てると強いのが普通って感覚になってる)

内容は前に見たときの印象と変わらないけど、最後の「大団円」はこうだったっけと思い出した。ジュリエット・ビノシュとオリバー(そっちは役名かい!)のカップルはなんでドーバー海峡をイギリスに渡ってたんだっけ、ジュリー・ デルビーは疑いが晴れてカロル・カロル(本来の役名だ、偽造パスポートじゃなくて)と一緒に渡英中、そしてイレーヌ・ジャコブも渡航中だけどジュリエット・ビノシュの夫に彼女を寝取られた法律家の男性と一緒みたいだ。この二人の今後を予感させる終わり方ってことかな。

この監督って多くを語らないけど、作品のなかで芯の通った暖かさが一貫していて、安心して身を任せて見られるな。誰も不幸にならない、犬も死なない、盗聴愛好家は否定もされないけどちゃんと自分でもっと正しい道を選ぶ。もっとこの人の作品を、寄りかかって任せきって味わいたい…けど見るのが難しい作品が多そうだなぁ…。

トリコロール/赤の愛(字幕版)

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  • 発売日: 2013/12/21
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クシシュトフ・キェシロフスキ監督「トリコロール 白の愛」2639本目

「白」でフィーチャーされてるジュリー・デルビーは「ビフォア・サンライズ」シリーズでイーサン・ホークと出会って恋に落ちるフランス女性だ。シリーズ最初の作品がこの映画の翌年なので、監督はこの映画で彼女を見初めたのかな。

冒頭の裁判の場面は、「青」で亡くなった夫が実は付き合っていた女性の職場だ。ジュリー・デルビーとポーランド人の夫は、夫の不能を理由に離婚調停中。…というこの夫のほうを中心に、今回の映画は進みます。特別目立つところもカリスマ性もない、普通っぽい男性です。彼は同郷の男と電車のホームで知り合って、彼のスーツケースに身を隠してポーランドへ。…あまり愛想のない人々、さむざむしい風景。なんとなくアキ・カウリスマキの映画に出てきそうな殺風景な美しさ。この主役の俳優の名前は、ズビ…ズビ…ズビグニエウ・ザマホフスキ(一生懸命ここで打ち込んだところで絶対覚えられそうにないけど、エキゾチックな映画人の名前って大好き)。どことなく愛嬌があってなんかいいですね、彼。監督は本当は、ポーランドで資金繰りができたらこの映画のポーランド撮影分みたいな映画を撮りたかったのかな。

嘱託殺人を持ちかけられて引き受けたけど、彼は実弾でなく空砲を打って一杯食わせます。そこから、死んでなくてよかった!と、映画の緊張感が緩んでいきます。なんか、これもいい映画だなぁ。全然こじゃれたフランス映画じゃなくて日本映画にあってもおかしくない、地に足の着いた人間ドラマだった。こういう風に、好きになったときにはもう監督や俳優が故人ということってけっこうある。クシ…キェヒ…とかいう監督の残した足跡をたどって ポーランド行きたくなるなぁ。フィンランドほどは寒くなさそうだし。。。

さて、「赤の愛」は一度見たけど再見してみよう。

トリコロール/白の愛(字幕版)

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クシシュトフ・キェシロフスキ監督「トリコロール 青の愛」2638本目

Amazonから毎月390円引かれてるのはなんでだろう?と思ったら「シネフィルWOWOW」に加入してた!ということで、しばらくそこで見られる映画を立て続けに見てみます。まず、見そびれていたトリコロールシリーズの青と白から。

青のヒロインはジュリエット・ビノシュ。26年前というとポン・ヌフより後、イングリッシュ・ペイシェントより前。可愛い不思議ちゃんキャラと思ったら、意外と今の、社会派映画にばんばん出てるときの雰囲気と変わらない。昔からシリアスな演技者だったんだな…。母親がポーランド人なんですね。この映画に出たのもその縁だろうか?

でこの映画、意外といいですね。理屈じゃない愛の映画なんだけど、ジュリエット・ビノシュがクールですっきりしてるので不幸に引きずられることもなく、無為にもならず、いい映画でした。彼女をひたすら見つめる映画なのですが。こういう映画って、何が良かったのか説明するのがすごく難しいですね。

「青の部屋」は夫と楽曲を書いてた部屋なのかな。今さらこの監督に感銘をうけてるんだけど、20年以上前に亡くなってたんですね…。今見られる作品だけでも見てみよう。 

トリコロール/青の愛(字幕版)

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  • 発売日: 2013/12/21
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黒崎博監督「火の魚」2637本目

冒頭で離島の連絡船に乗り込むのは室田日出男…えっ違うの?とボケをかまさずにいられないくらい室田日出男似の、原田芳雄。尺は劇場用映画にあるまじき54分間。(もともとNHKのTVドラマだから)監督はNHK職員の黒崎博。その後「セカンドバージン」も映画になりましたね。地方発ドラマとして広島局が制作したものだったんだ。東京や沖縄の離島ともかなり違う、人里離れた島の風景に引き込まれます。そして何より、脚本が渡辺あやだ。このドラマがあったからその後の朝ドラ「カーネーション」があった。あれも尾野真千子が主役で、NHKにあるまじき不倫がテーマにあるのにすごく琴線に触れる名作になりました。

金魚が女の子になった小説が売れているという。それは「蜜のあわれ」だ。このあいだ二階堂ふみが主役をやったやつ。 それを執筆中の室生犀星の担当編集者を描いたのがこの小説、というからメタだ。

荒く漉いた原稿用紙の上をすべる万年筆、薄暗い部屋の窓から差し込む夕陽が金魚鉢に当たる、など印象的な映像が続きます。なんだか古めかしい映像。2009年の作品なのに。

それにしても、尾野真千子ってどうしてこんなに良いんでしょうね。彼女の良さって、倍賞千恵子の良さみたいだ。中に太くて真っすぐで澄み切ったものが入っている人のたたずまい。演技もいいけど演技をしなくてもいい。ぶれない。

DVDの特典にメイキングというかドキュメンタリーみたいな詳しい映像が入ってて、それもまた良いです。監督がとことん出演者たちと話して、納得しながら作りこんでいくんだ…。もともとは花束を渡さずに帰る筋だったのを、原田芳雄が主張して最後に会話する場面ができたんですって。Wikipediaによると彼自身が余命宣告を受けてから間もなくの作品。うん、この作品は、最後に二人が話せてよかった。作品がそれで成仏できた、と思う。

(「蜜のあわれ」の初版は本当に金魚の魚拓だったんだ。)

劇場版 火の魚【DVD】

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  • 発売日: 2012/07/21
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