映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイク・ニコルズ監督「クローサー」2751本目

2004年の作品。真っ赤なショートヘアのナタリー・ポートマン、こんなにキレイなのに割と性格の悪い役もハマるジュード・ロウ。彼が出会う写真家にゴージャスなジュリア・ロバーツ、その恋人に野性的なクライヴ・オーエン。マイク・ニコルズ監督の恋愛ドラマです。でもあんまりロマンチックじゃない、不思議な映画。

この映画って、「恋の喜び」以外の、恋愛の嫌な面だけを取り上げて、妙な出会い、(その後のロマンスは省略して)他の人を好きになって浮気して別れる、妙な再会、「やけぼっくに火が付いた」、…。恋愛イコール執着ってことなのかな。

ハッピーエンドの恋愛ドラマを見飽きた人向け(必ずしも大人ってわけではない)。

実際にこんな不安定で落ち着かない恋愛ばかりしてきた人は、多分全然いいと思わない映画。

私は…「たくさん映画を見てきた人」のカテゴリーだと思うけど、この4人がみんなとても魅力的で、付き合うにしても別れるにしても、こんなにあけすけに正直に気持ちを話したことなんかないので、自分には無理って気持ちと、ちょっとうらやましいような気持ちですねー。 

クローサー (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

モーガン・スパーロック監督「スーパーサイズ・ミー:ホーリーチキン!」2750本目(KINENOTE未登録)

2002年に作られた前作はKINENOTEに載ってるけど、2019年制作のこの作品は載ってません。USでは映画館で上映されたあと、なんとYouTubeの無料サービス映画として公開されたとのこと。(日本は対象地域外になってます)私はAmazon Primeで見ました。

前作がマクドナルドハンバーガー、この作品がチキンとくれば、ケンタッキーに行ったのかと思ったら、冒頭から「スパーロックがチキンのレストランを開くらしい」ときた。まさか!

そもそもチキンサンドのチェーン店がアメリカにこんなに何種類もあるなんて知らなかった。ヘルシーなイメージがあるのかな。日本でいえば唐揚げチェーンって感じかしら。グリルチキンサンドのほうがヘルシーだけど、売れてるのはフライドチキンサンド。→「グリルド・クリスピー・サンド」という名の、フライドチキンに筆で焦げ目を描いたやつに、野菜をのっけたサンドイッチ。

皮肉の塊って感じですね。こういう店が東京にオープンしたら、つい行っちゃうね、私なら。日本の客は絵を描いただけの「焦げ目」には騙されないと思うけど、なんと店頭でネタバレしてる。マジで!ヘルシーなものを期待してきた客はみんな、嫌な顔でブロイラーのサンドイッチをもそもそ食べたり、残したり。

めちゃくちゃ皮肉たっぷりの変なチキンのロゴ、「健康ハロー」(イメージアップ)しまくり、グリーンの壁に自然っぽい手描きフォントで「壁の色は健康っぽく見せるためで意味はありません」って書いてある…。面白い。面白すぎるこの人。こういうユーモアのセンスってフランスの風刺新聞ともつながる。日本でいえばビートたけしくらいかな。怒る人も多そう。アメリカにもあるけど日本のほうが食に対する執着が強い人の割合が圧倒的に多そう(料理教室通ったりするやつ)なので、やっぱり国産で近くの農家が作ってる野菜とか食べてるほうが安全な感じがするよな…。

 

ビリー・ワイルダー監督「異国の出来事」2749本目

(ネタバレあり)

1948年、マレーネ・ディートリッヒ御年47歳のときの作品。彼女の恋敵である女性議員を演じるのはジーン・アーサー48歳。昔からけっこうシニアな女性の恋愛映画って作られてたんだなぁ。

監督はビリー・ワイルダー。マレーネ・ディートリッヒと共に、第二次大戦前にベルリンで過ごしていたことが知られています。冒頭に出てくる、構造体だけが残ってあとは全部焼き尽くされたベルリンの町の空撮は、ワイルダー監督自身が懐かしい町が心配で、見に行きたかったんじゃないのかな。撮影のためと言えば入国する理由もつく。ディートリッヒの場面は米国内ロケか、それともドイツに行ったのか。この頃にベルリンに戻って母に会ったという記述がWikipediaにあったので、ロケに同行したのかもしれません。

この映画はあるアメリカ人将校と愛人(ドイツ人、ディートリッヒ)、アメリカ女性議員(ジーン・アーサー)の三角関係が中心にあるのですが、本命はディートリッヒで女性議員は彼女への調査を妨害するために便宜的に好きなふりをしてるだけ。そこに、ディートリッヒが戦時中に付き合っていたナチスの元将校が現れて、浮気された復讐を遂げようとします。…ディートリッヒが女の意地悪な性を演じていてうまい。アイオワ州の共和党員を演じるのはジーン・アーサー。いつもガチガチに編み込んだ頭(靴ひもを編み込んだの?とディートリッヒがイヤミを言うし)とグレースーツですが、将校に迫られるといともたやすく落ちてしまい、女性らしさが開花します。思い込んだら一直線、エンディングまで彼を追って突っ走ります。(おそらく彼は逃げおおせられまい、という雰囲気)

ビリー・ワイルダー作品なので、それぞれの人の中ののずるさや思い込みや弱さがくっきりと浮かび上がってきて面白かったです。

異国の出来事 [DVD]

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  • 発売日: 2007/07/25
  • メディア: DVD
 

 

チェン・チャン・ホー監督「キングボクサー 大逆転」2748本目

 ぜったい自分で借りそうにないDVDが届いたので、何百枚もレンタルしてるけどTSUTAYAがとうとうミスったかと思いましたが、ググってみたら、タランティーノやエドガー・ライトが子どもの頃に狂喜した映画とあった。私が選んで借りたんだわ。

見始めてみたら面白いのなんの!突っ込みどころというより、もはや、テレビの楽しさ「だけ」をダイジェストにしたような強烈な内容に爆笑しつつ見入ってしまいました。

いろいろ思い出します。「燃えよドラゴン」とかと同じジャンル、同様の作りの映画なんだけど、これ多分、タランティーノたちは私が小さい頃、楳図かずおの恐怖マンガを読みふけってたような気持ちでワクワクゾクゾクしながら見たんだろうな。荒唐無稽で無茶苦茶なんだけど、面白くて面白くて、ページをめくる手が止まらない。テレビで言えば、不思議と「仮面ライダー」シリーズを思い出しました。30分のヒーロー格闘実写ドラマなんて、山場以外の場面を入れてたら入りきれなくなるから、実に中身が濃く詰まっていました。「女囚さそり」シリーズとかも、この仲間だな。やたら印象的なリアリティのない絵面が連続してるんですよね。

主役をアニキと呼ぶ、べん髪を下した(!)日本の落ち武者より強烈な髪型の、眉毛がとんがった男とか、ギャグマンガのキャラクターにしか見えません。

中盤から登場する「悪い日本人」、こんな日本人いそうだけど、ブルゾンちえみwithBみたいに両脇を固めてるおかっぱ頭2名は架空のキャラっぽい。

最初から最後まで、ヒーローは熱く、ヒロインは華やか、悪役は笑うくらい悪く、そして戦闘シーンはキレッキレ。深みも何もないけど、娯楽はシリアスに傾いたりせず、とことんこの線でいってください! 

キング・ボクサー/大逆転 [DVD]

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  • 発売日: 2013/09/13
  • メディア: DVD
 

 

 

 

瀬々敬久監督「感染列島」2747本目

これ、瀬々監督だったんだ。トレンディドラマの流れで妻夫木聡と檀れいを主演に作られた映画っぽいけど。

12年前の作品。12年って長い。妻夫木くんはまだ高校生でも通りそうな初々しさだし、佐藤浩市も壮健な感じだ。

この映画では、感染者のうち数割という高率で亡くなっています。今日本で発病しているCOVID-19より症状が重いのに、医師がマスクだけの軽装なのが、今の私たちには気になってしまう。感染源は鶏?(以下ネタバレあり)…と思ったら違った!というか、最初の感染源を特定するのは最初の仕事なので、映画中盤までわからないということは、ありえないですね。「コンテイジョン」も見てるし、私たちもうそのくらいの知識は誰でも持ってる。

それにしても、WHOあがりの檀れいが「トリアージュ」判断を疑われたあとで泣き崩れるとか、山伏のような研究者くずれの人に精鋭多数×最新の機器による研究が負けるとか、感染源だと疑われるアボンという国に着いてもガイドがいないとか、現場の動線とか判断基準とか士気とかをまるでフィクションで塗り替えてしまう演出が、テレビっぽくて好きじゃないなぁ。現場の人たちが命がけで本物の恐怖と戦ってるのに「かくし芸大会」くらいの訓練で何でもやれるみたいに安易な映像化をこなしちゃってる。これ見て泣いたりしたくないなぁ。。

アボンというのは明らかにフィリピンだな。この国から始まり日本で広がったのに、それ以外の国への広がりについてまったく触れられないのも、他の国に興味ないんだなぁ。

こういう映画って、「人を感動させるには?」っていう方法論を研究するとできそうだ。まあ、そうやって作られた出来のいいアメリカのドラマシリーズとかで感動しちゃうこともあるんですけどね…。 と不機嫌になってしまうのは、好きじゃないので普段見ないジャンルの映画を見てしまったからでした…。

感染列島

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  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: Prime Video
 

 

フー・ボー監督「象は静かに座っている」2746本目

(ネタバレあり)

レジェンドであるタル・ベーラからメッセージ届いてるのに、彼より先に死んじゃうなんて。せっかく傑作ができたんだから、せめて褒められてから行けばよかったのに。…なんて生き残った者たちが何を言っても無駄。そういう繊細な神経、「海炭市叙景」原作の佐藤泰志みたいだな。とっくに長寿を全うしたレジェンドの作品を後追いで見るのと違って、生木を裂かれるような辛さがありますね。

最初から真面目に見てたのですが、話が見えてこなくて、いったん止めて予告編を見たり他の人の感想を見たりしてから再開。これでやっと「4人」が誰で、それぞれざっくりどういう問題を抱えてるかが見えてきました。…リンが不倫してるとか、あたまがよくないと一度見ただけではわからないんじゃないか…というくらい、内容はトゲトゲしてるけど、表現はオブラートに包まれていてまろやかです。画面が暗い、何が起こっているかわかりにくい。これから「サタン・タンゴ」も見ようと思ってるんだけど(配信開始したので)、ついていけるかなぁ?

なんと、3時間半たったけど、まだみんな町を出ていません。町を追われた4人が「満州里(内モンゴル自治区らしい)へと向かう道々のロードムービーかと思ってたので、閉塞感が増します。

暗い。確かに暗いし希望がないし登場する人たち全員すさんでるけど、この4人はかなり生命力を感じさせるのが救いですね。4人とは、友達をかばうつもりでいじめっこを階段から突き落として死なせてしまった少年。彼が思いを寄せる少女…実は教師と不倫していて動画が流出。死なせたいじめっこの兄…親友の妻と不倫してるところを親友に見つかり、彼は思いあまって自殺。いじめっこを死なせた少年の祖父…愛犬を殺されて加害「犬」に復讐した。引っ越しの足手まといになるので老人ホームに入れられそうになっている。(切符を買うのは「兄」を除き、いじめっこの幼い妹=老人の孫を加えた4人だ)

座る象がいるサーカスのある、彼らの目的地は内モンゴル自治区。外国でもなく海も見えないそんな町に向かうのか。調べたら実はモンゴルとの国境にも近いけど、ロシアとの国境に面した町でした。広告が出てるくらいだから、彼らの町はそこから割と近い設定なんだろうか。

1日のうちにやたらと人が死ぬ。この映画の中で特に”終わっている”感じがあるのは、やっぱり、死んでいった人たちなんだよな。親友に妻を寝取られた男。悪さばかりしていたら誤って突き落とされて死んでしまった少年。友達に嘘を言って助けてもらったけど、思い余って、死んだ少年の兄を撃ってしまって、最後は自分を撃つ少年。…座っている象はバスより大きかっただろうか。多分明るくなったらロシア風のお菓子の家みたいな教会も見えてくるだろう。

何もない町で生まれて生きて死ぬ人たちは、決して生きててしょうがないわけじゃなくてちゃんと生きてた。監督は自分の映画の情熱を、きっと全部この作品につぎこんだんだと思います。

象は静かに座っている(字幕版)

象は静かに座っている(字幕版)

  • 発売日: 2020/10/07
  • メディア: Prime Video
 

 

タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ監督「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」2745本目

冒頭から出てくる施設には老人とダウン症の若者が一緒に暮らしてる。いろんな年齢、いろんな状態の人が触れ合う機会があるのはいいけど、ダウン症の若者はザックだけなのかな?

シャイア・ラブーフはいつからこんな肉体派になったんだろう?ちょっと前までティモシー・シャラメみたいに細くて繊細な感じだったのに。しかもかなり荒んだワルです。実際の彼は父親から虐待されていた経験をのちに映画化しているんだけど、親から受けたものが祝福だったか呪いだったかで、その後数十年の人生が左右される。抜け出すのに必要なエネルギーは半端なものじゃない。彼の頑張りに敬意を表したいと思います。

この映画より前に「チョコレートドーナツ」を見た人はみんなあの映画を思い出すだろうな。「ソルトウォーター・レッドネック」も「ピーナッツバター・ファルコン」も、すごく普通の、エリートじゃないアメリカっぽい。「リング上では頭に浮かんだ一番汚い言葉を言え」って指導、それにこたえてザックが「誕生日パーティーに呼んでやらない!」ってのが、笑ってしまった。

結局リング上の相手や、彼の下敷きになったであろう追手たちの病状はどうだったのか、タイラーは負傷したけど逃げきれそうなのか、など、不安要素はたくさんあるけど、人生は短いので冒険したほうが良いのです。こんなご近所の冒険なんて、やろうと思えば1週間休みを取って行って来られるもんね…。私もちょっくら山にでも出かけてみるかな…。

ザ・ピーナッツバター・ファルコン(字幕版)

ザ・ピーナッツバター・ファルコン(字幕版)

  • 発売日: 2020/04/15
  • メディア: Prime Video