映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クエンティン・タランティーノ監督「ヘイトフルエイト」3832本目

タランティーノ作品に過去につけた点の中で、これが一番低かった。でも今回は、実に面白い映画だと思っている。いつも出てるサミュエル・J ・ジャクソンが、今回はまるでアガサ・クリスティの密室ミステリの探偵みたいだ。今までで一番ミステリー要素が強いのでは?タランティーノ作品にこういう楽しみ方もあるのか。

この場面の直前まで、荒くれ者たちの間で殺戮は起こらない。(ギリギリの緊張感で自制している)でもいったん始まると止まらないのがこの人の作品。だいたい、1~2名を除いてみんな死ぬ。<以下とつぜんネタバレ>この作品では全滅だ。どいつもこいつも、往生際が悪い。他人はためらわず殺すが、自分は生き延びたい。楽して賞金を稼ぎたい。人間の悪い部分をかためたような奴らなので、面白い…けど、やっぱりちょっと全滅しすぎかな。うまく生き延びるのもこの場合不自然だけど、何かもうひとひねり欲しかったような。

これって、脚本が事前に漏れて書き直したやつでしたっけ?当初の結末はどんなだったんだろう。気になって仕方ありません。

ヘイトフル・エイト(字幕版)

ヘイトフル・エイト(字幕版)

  • サミュエル・L・ジャクソン
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クエンティン・タランティーノ監督「ジャンゴ 繋がれざる者」3831本目

ジャンゴ=ジェイミー・フォックスは精悍でスタイルが良くてカッコいい。クリストフ・ヴァルツは「イングロリアス」ほどのケレン味はないけど、詐欺師の演技もうまい。ファンになりそうだ。召使長のサミュエル・J・ジャクソンは、うますぎて誰だかわからなかった。幅が広い!!デカプリオは、嫌ったらしい富豪が似合いすぎて、本当はこういう人なんじゃないかと思ってしまう。ここまでの4人の演技が本当にすごい。殺戮しすぎのバイオレンス映画だと思うけど、彼らの演技の迫力が。特にデカプリオだな…彼の華やかさ。一人で映画のエネルギーの大半を放出してるような。

11年前に見たときは、これほどの殺戮のかぎりをつくしてる映像を見ながら、私は「サイコ―」とか感想に書いている。KKKの頭巾の縫い方は確かに面白かったけど、二度目に見てもそれほどバカ笑いはできない。当時は仕事のストレスが相当たまっていたことがうかがわれる…。肉片が飛び散るのとか、今はもういいよという気持ち。

ジャンゴかっこよかったし、ブルームヒルダ美しかったけどね。

 

クエンティン・タランティーノ監督「イングロリアス・バスターズ」3830本目

タランティーノ監督作品を片っ端から見直してるわけですが、これはけっこう苦手かもなぁ。というのは、軍服の人たちが人を殺す場面は、見ていて苦しいから。たとえナチスであっても、”ショッカー”みたいな下っ端の人たちにいい思想も悪い思想もなく、善だろうが悪だろうが、何にでも転ぶだけの人たち、つまり、私たちの多くと同じ一般庶民なのかな、とふと思ったりするからかな。

「国民の誇り」=「民族の祭典」だよね。オリジナルは「Festival of Nations」(とBeauty)でこの映画では「Nation’s Pride」らしい。うまいなぁ。シンデレラのガラスの靴みたいに、現場に残した靴を女優に履かせてみる場面も。クリストフ・ヴァルツ、やりたくなかったかもしれないけど、相手を追い詰める役が本当にうまい。そもそも、映画のフィルムが極めて引火性が高いことを利用するというアイデアが卓越している。

しかしやっぱり、不穏な気持ちが続く。自爆攻撃的な奇襲もちょっとムズムズするし、映画館ごと焼き尽くすというのは、いくら非情な敵といっても地獄絵図だ。負の連鎖。ナチスがユダヤ人を攻撃し、イスラエルがパレスチナを攻撃して…どこまで続くんだ。世界はマハーバーラタなのか。(報復に報復が続くインドの長大な叙事詩らしい。昔ちょっとだけ読んだ)こういうの見ると、私で報復を止めて欲しいから、いいよその弾を受けよう、とか思ったりする。私自身のうらみつらみはなかなか消えないけど、あまり血が流れないならそのほうがいい。これは自殺願望とは違うんだけど、人に共感される気はしないな。

次は「ジャンゴ」行きます。

 

 

伊東英朗監督「SILENT FALLOUT」3829本目<KINENOTE未掲載>

現状、上映会でしか見られない2023年制作の自主映画。1950年代以降にアメリカやヨーロッパ、ソ連や朝鮮半島で行われてきた原爆と水爆実験による、知られざる被ばくの実態をしずかに追った作品です。わざとらしい帰責が感じられず、家族や友人たちが一人、また一人と体のさまざまな部分のがんを発症して、生存したり亡くなったりしてきた経緯や、その方々が、今思い返すとあれが実験の瞬間だったという状況を語る場面が淡々とつながれています。

ユタ州の女性医師が代表となって、アメリカ中、世界中(一部日本からも)の子どもたちの抜け落ちた乳歯を集めて、徹底的に残留放射能を調べたプロジェクトを追う映像は、コンテンツがあまりに力強いので、感動的な場面を排した作りでも十分すぎるほどインパクトがあります。

直接関係ないけど、ユタ州ソルトレイクシティってモルモン教の本拠地で有名ですよね。教団全体として声を発しても、US議会には届かないのかな。

奇しくも、昨日「日本原水爆被害者団体協議会」の2024年ノーベル平和賞受賞が報道されたばかり。彼らが地道にコツコツと世界平和のために活動してきたことは、今までもしみじみと尊敬の念を持っていましたが、受賞の場面を見て、5秒くらいたってから涙がポロポロと出て来ました。初めて、彼らが本当に汗や涙を流しながら、自分たちを守ることもせずに、ひたすら、後に来る人たちのために身を削ってつなげてきたものが、突然私にも見えたようで。今年世界でたった一人または1つの団体だけに捧げられる賞賛に、彼らは値するのだと、やっと世界が気づいたということが、胸にぐっときてしまいました。

アメリカ南西部の砂漠で行われた核実験の雲は、みごとに北米全土を何度も何度も覆ったようでした。敵に落とすために作った兵器による自爆行為、といってもいいのでは?他の国による実験の放射能が日本にもたくさん降りました。世界地図を見ていると、誰も生き残れないのかなという気さえしてきます。人類というサルの一種が、驕って愚かにも作り出した自滅の毒。絶滅危惧動物、レッドリストの筆頭が人類で、まだ誰も気づいてないだけだったりして…。(それとも、気づいたノーベル賞選考委員が、切羽詰まって平和賞を被爆者団体に授与したんだろうか)

現状、上映会を開くことでしか見られない作品ですが、「アジアンドキュメンタリーズ」のようなコレクションには出してくれてもいいんじゃないかな?と思ったりしますが、映画がコンテクストのないところで一人歩きして語られることを望まないのかもしれませんね。私は見られてよかったです。

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クエンティン・タランティーノ監督「デスプルーフ」3828本目

デス・プルーフなんて、面白いことを考えたもんだ。なんとなく、子どもの発想って気がする。そこがいい。

カート・ラッセルが鬼畜なテストドライバー、素敵なギャルをナンパしては地獄へ送る。ゆがんだ欲望の現れだ。。。しかし最後にナンパしたギャルたちは世界最強だった。タランティーノの、ゾーイ・ベル愛というかリスペクトの極致が見られます。

この映画もまた、リベンジによるすっきり感Maxで、多分日々のストレスが強い人ほどこの映画で喜ぶはず。(以前見たときほどではない私は、だいぶのんびりと暮らしてるようだ)

全体としてみると、監督の、愛すべき女性たちへのリスペクト、虐げられてきたことに対するリベンジ・ムービーなのかなと感じる。で思った。彼と長年コラボしてきた大物プロデューサーが、女性たちを最低なやり方ではずかしめてきたと知ったとき、監督は彼と手を切った。でも、その思いはまだ完全には発散されていないんじゃないか。そのうち、女優たちが変態プロデューサーに見事なリベンジを遂げる作品を作ってくれないかな。だって彼は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」や「イングロリアス・バスターズ」で憎むべき敵を倒すアナザー・ストーリーを作ってきた人だから。

ちょっと仕事が詰まってきたけど、次の作品も見ていきます。

 

クエンティン・タランティーノ監督「キル・ビル Vol.2」3827本目

Vol.2のほうが、初見のときの印象が残ってない。「ビル」が特段こわくもなく変でもない、一見ふつうのおじいさんだったところから始まるからかな…。愛人に父親と紹介されて、デタラメな話を合わせさせられるのって、けっこう殺意わきそうだな。

という過去の教会での出来事のあと、時系列は現在に戻ります。ワルでどこか可愛げのあるマイケル・マドセンはテンガロン・ハット、場所はアメリカの砂漠。タランティーノの生まれ育った本来の世界に近い。「レザボア・ドッグス」「ジャンゴ」やこの場面は得意分野って気がして安心して見ていられます(Vol.1は不安だったんかい)。

マドセンの魅力もわかる。が、20年前の私には、苦手な西部劇が始まってしまったようにも見えました、確か。そして、彼のブライドへの仕打ちは、キチクの仕業に見えたに違いない。(こんなのきっと、引田天功みたいに、技を持ってる人なら彼女には簡単に違いない)と自分に言い聞かせながら見ていた気がする。実はその仕業、”トラウマ映画”の一つとして見たあの映画の結末と同じ。今の私は、再見だからもう平気だ。

パイ・メイという仙人は、ドラゴンボールかストリートファイターに出てた?と思うほどマンガだ。これは日本人にはマンガすぎて、そこだけCGと思うくらいだ。

「お前は(白人でアメリカ人で女だから)最悪だ」という字幕があった。セリフでは「It will take a while(白人でアメリカ人で女だから、修行が終わるまでだいぶ時間がかかるだろう)」。皮肉っぽい言い方が日本語字幕では、ストレートな言い方に常に直すんだよな。急いで読むから簡単にしなければいけないのはわかる。あれ?日本語は主語や細部を省いて「あれ」「そんな」「こういう」といったあいまいな表現が多いのと、矛盾する気がしてきた。私たち普段、あいまいなまま共感だけしあって暮らしてるのかしら。まぁ、それでもいいか、平和なら…

脱線した。戦闘シーンは、銃や自動車ならいいけど武道だと、うっとりするほどのキレは、当たり前かもしれないけど、ない。だからマンガに見える。そしてVol.2は長い物語に決着をつけるために、1つ1つの場面にじっくり時間を取っているので、Vol.1の流れで興奮している観客がクールダウンする。集中力が途切れたころにエンディングで、ブライドと娘が車に乗って出て行ったあと、ビルどうなったっけ?…家の外に誰かが倒れている場面は見逃してしまうかもしれない。ここで見落としてはダメなのだ。

ということで、20年空けて見てもキル・ビルはカンフーやチャンバラになじみのある東アジアの観客には、どこか違和感の残る作品ではありました。Vol.2をもう少しまとめて、3時間半くらいの1本の作品にしてもらったほうが…ああすみません、わがままを言い出したら止まりません。

でも見直してよかった。新しい発見がたくさんありました。

 

クエンティン・タランティーノ監督「キル・ビル Vol.1」3826本目

ひとりタランティーノ特集のつづき。この人の作品は、”映画好き”になる前からずっと見てたので、感想を書かないまま来てしまってた。この作品も感想を書くのが初めてだなんて、我ながら意外。

遡ってパルプ・フィクションを見て、ミアは確かにユマ・サーマンだと思った。黒髪ボブだとわかりにくいよな~。キル・ビル見たとき、この女優さん初見だと思ってました。彼女ってどこか、どんなに痛めつけられてもくじけない、気にしない感じがあって、その辺がタランティーノもきっと好きなんだろうな。

ほかに、再見であらためて思うのは、「Kill Bill」ってめちゃくちゃストレートなタイトルだな。日本語なら「ラスボス殺し」か。戦後すぐなら「死せよ総長」みたいな。ストーリーはまさしくRPG。途中で4人の強烈な刺客を倒し、自分も瀕死になりながら敵を討つ。この世界には警察はいないか、いてもお役所仕事以下ののんきな奴らで、ブライドもビルの仲間もやりたい放題だ。

第一の敵の家で、娘が帰ってきたとたん友達のふりをする場面、まさに”タランティーノ節”だな。それでも殺すのも。

昏睡状態のブライドを、ダリル・ハンナは殺せず去っていくけど、彼女が開けたドアから入ってきた蚊が彼女を刺して目覚めたんだったら、筋を進めてくれてありがとうだなぁ。

オーレン石井の章のアニメ、傑作だなぁ。そしてオキナワでサニー千葉がやってるチャイナタウンみたいな寿司屋のブライド、最初は普通のおめでたい観光客みたいで和む。こういう無駄なディテールも、日本らしくも沖縄らしくもないけど、こだわりがあっていいな。彼女の手下の”ケイトー・マスク”の男たち。ショッカーみたいなやつ。グリーン・ホーネットでブルース・リーの手下役だったケイトーも日本人だもんなぁ。

栗山千明、初見のときは堅い気がしたけど、今見ると女子高生らしい青臭い狂気が感じられて、マンガとしては面白いなと感じる。彼女が振り回す鉄球も、以前より強そうに見える。前は当時ほかのドラマに出てた彼女のイメージが頭から抜けなかったのかもなぁ。

これは権八ロケではなくて、権八に似せたセットを組んだんでしたっけね。海外の日本レストラン麻布を足して二で割ったくらいの雰囲気、わりといいと思います。このあと外国からお客さんが来たら権八を予約する、というのを何度もやったっけ…。(キルビルの少し前からだな、小泉首相とブッシュ大統領が行った2002年から)

The5678’sの演奏は、うまくもないけどひどくもない。日本女性がタイトなドレスでなぜか、変でちょっといい感じのロックをやってる、ということ自体がなんかすごく面白い。

「やっちまいなぁぁ」の「ぁぁ」のところが、初見ではすっごくイヤだなと思ったけど、それも今回は気にならない。前より楽しめてるな、私。

でも今回は逆に別のところが気になる。ブライドが権八で四方八方から刺客に狙われている場面、背後にスキがありすぎ。ブライドとオーレンの日本語は、下手というより不自然で、私の日本語の生徒たちは笑うかも。なまっててもしゃべり慣れてる人のセリフの方が聞きやすい。(サニー千葉の英語みたいに)でも気になったのはそれくらいかも。

唐突に雪景色の庭園も、ちょっとヘンテコだけどとても美しい。美しいが、どうもアメリカ人たちのコスプレという感じの、締まりのなさはある。本物の剣術を鍛えるのにどれほどの鍛錬が必要か、という部分かな。ゾーイ・ベルに匹敵する女性のボディ・ダブル殺陣師が見つからなかったからか。(しかも二人必要)

Vol.2まで生き延びた最後の刺客が、レザボア・ドッグスからずっと出てるマイケル・マドセン。若い頃からずっとワルで刑務所を出たり入ったりしてるけど、どこか憎めない愛嬌のある男。を演じさせたら抜群な彼、Vol.2が楽しみです。