映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

白石和彌 監督「孤狼の血」1969本目

ちょっと期待しすぎたかもな。。新作を旬なうちに見るのって、ワクワクするような前評判で頭がいっぱいになってしまって。

ストーリーより、豪華な役者陣の極悪演技をつい楽しんでしまう映画です。役所広司は安定だけどやっぱり凄みがあります。松坂桃李は何をやっても、悪く見えてもやっぱりキレイ(すごくいい意味で)。もはや安定のピエール瀧(本当にいいよね)、そろそろ悪にしか見えなくなってきた竹野内豊、悪く見えないけどいい田口トモロヲ、そして朝ドラではいい人すぎるチャラ男をやっていた中村倫也のまるで板についたチンピラっぷり、素晴らしい。真木よう子も、恨みつらみがにじみ出ていてよかった。

そして松坂桃李役所広司を目指す。わかるけど役所広司はこのくらいの年齢の時から、街中や会社の10人中5人くらいには普通になりきれる役者だったと思うので、目立つほど可愛い松坂桃李とはどうしてもイメージが違う・・・。

 

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エリア・カザン「ラスト・タイクーン」1968本目

 エリア・カザンの遺作だし、主役が若きロバート・デニーロだし、ロバート・ミッチャムだのジャンヌ・モローだの、ほかにも名前はわからないけれど見るからにレジェンドな人がたくさん出演しています。これはフィッツジェラルドの小説の主人公が、実在の早逝した超敏腕・映画プロデューサーで、この錚々たる映画人たちはこの原作の映画化を望み、快く協力した、というようなことだろうか、と勝手に想像しています。

でもあんまりよくわからなかった。私の見たエリア・カザンの映画は(「エデンの東」、「ブルックリン横丁」、「草原の輝き」、「波止場」)わかったと思うんだけどな・・・。

本当はどういう気持ちになるはずの映画だったんだろう。フィッツジェラルドはどういう結末を書きたかったんだろう。主役のモデルになった実在のアーヴィング・タルバーグが早逝したことやフィッツジェラルドのほかの小説のことを考えると、きっと主役は華麗な生活を送りつつ痛切に妻に似た女性を愛し、小説のラスト付近で亡くなっただろう。・・・でもこれ以上想像できないや。

他バージョン、宝塚の「最後の大君」とかも見てみたいな。きっと宝塚なら、オリジナルの感動できる結末を提供してくれてるだろうから・・・(消化不良)

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エミール・クストリッツァ監督「ジプシーのとき」1967本目

この監督の日本公開2作目だけど、最初の「パパは、出張中!」 ですでにパルムドールを取ってるので貫禄たっぷり。そしてそのあとの監督の映画世界にとって重要なジプシーの世界との出会いでもあります。

彼らの暮らしの私たちとの違いは、「貧しさ」とか「文明度の低さ」とか(あるかもしれないけど)ではなくて、西洋近代的なルールが通用しないことだと思う。カオスの中で人間たちは動物たちと同じところにいる。悪知恵が働く奴が金を儲けて、そのうち憎まれて、殺し合いが始まる。魔法や「超常的なこと」は生活の一部として存在する。ファンタジーアニメにしか今はない世界が、本当は元々の世界なのかもなー、と、「近代文明」のなかで息苦しくなっている人たちが、こういう映画を見てほっとする。だからこの監督の映画はヨーロッパで絶大な評価を受けるのかも。

どうしようもない小悪党たち(彼の映画の常連)のことが、監督は嫌いじゃないんだと思う。きちんと育っていい教育を受けて大企業に勤めて立派な家に住んでる人が、ボスニアヘルツェゴビナにもたくさんいると思うんだけど、監督は全然そういう人たちに興味がない。だって面白くもなんともないもん。面白いのは、ジプシーの小悪党たちや、感情豊かで演技が達者な動物たち、母なる女たち・・・。これらがベースにある人だから、監督が撮ると内戦が「アンダーグラウンド」という喧騒と豊穣と幻想の映画になるんだなと思います。監督によって彼らは全て赦されている。だからクストリッツァ監督好きなんだよなぁ。

中身のことをいうと、子供を生み落とそうとしているアズラがふわっと浮いたのは、無実だから。それに気づいたベルハンが彼女を優しく抱きしめることができて、よかったのです。(それまでのすれ違いを思うとやっぱり切ないけど) 

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ラケシュ・ロシャン 監督「クリッシュ」1966本目

インド製のマーベル風スーパーヒーロー映画。

これって続編?じゃなくて原題は「クリッシュ3」。1と2はどこへ行った?

冒頭に、クリッシュというスーパーヒーローのようなものの誕生について、3時間を10秒み無理やりまとめたような「まとめ」が流れます。が、短すぎて全然わからない〜

ヒーローのクリッシュ(普段はクラーク・ケント、じゃなくてクリシュナ君)も彼女も、ハリウッドで美男美女と言われそうなルックスで、ハーフっぽいというかあまりインド人っぽくありません。バックバンドはレゲエスタイルだけどダンスと歌は完全にインド式。この違和感!君たちに「オラ・アミーゴ(スペイン語で)」なんて言われたくないよ!(爆笑)

マッド・サイエンティストが撒き散らす細菌が最初に感染を広げるのがアフリカのナミビアというあたり、インド人にとってアフリカって遠いんだなとか、本題と関係ないところについ目が行ってしまいます。

自由にどんな姿にもなれるカメレオン女ちゃんは、できすぎてて3DCGのようです。黒い瞳カラコンかな?彼女が自分の妄想の中で、クリッシュとペトラ遺跡とか死海のようなところで踊る場面も壮観すぎて・・・。

とにかく、この映画は設定の面白さが最高なので、「とにかく一度見てみて」ですね。

クリッシュ(字幕版)

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ジル・ミモーニ監督「アパートメント」1965本目

フランス語の映画なので、タイトルは「ル・アパルトマン」にしてくれた方が、フランスっぽかったんだが・・・。主役はヴィンセントではなくヴァンサン・カッセルなのに。

男ストーカーと女ストーカーの映画。アリスは感情の起伏が激しいというより、何が何でも一人の男性を愛し続けてるから、嘘に嘘を重ねるようになる。辻褄が合わなくなる。

モニカ・ベルッチ32歳、可愛い!この美女じつは「下ぶくれ系」だったのね。ヴァンサン・カッセル30歳も若い!彼らは映画の中ではすれ違いばかりだけど、その後結婚したことを考えるとなんだかロマンチック。激情の女性を演じるロマーヌ・ボーランジェも可愛い。

若い頃(といってもわずか2年前らしい)と現在の彼ら、髪型が全然違うのでわかるんだけど、すれ違ったりぶつかったりが激しくて、なかなか訳がわかりません。でもちょっとマジカルでロマンチックな気持ちになれる映画です。

パリのカフェで素敵な(男性でも女性でも)人と待ち合わせしてみたいわ〜。

アパートメント [DVD]

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ロマーヌ・ボーランジェ

関口現 監督「SURVIVE STYLE 5+」1964本目

映画中毒の私は、またTSUTAYA宅配でMax16枚を借りて、嬉しそうに1枚1枚見たわけですが、これが一番面白かった。大笑いするし、成り行きが全く予想つかないし、オシャレだしセンスがいいし下らないし。

変な映画、どう変かというとポップでキッチュでカラフル。「シェルブールの雨傘」に間違って荒川良々が出てるみたいな。木村多江のCA制服がすごく可愛い!赤のツイードっぽいジャケットと赤いスカート。岸部一徳一家の住む家の中もリカちゃんハウスみたい。

構成は「クラウドアトラス」式、入り組んだオムニバス、というほどではなく筋は簡単に追えます。浅野忠信x橋本麗香は「惑星ソラリス」のパロディか。

そして音楽がカッコいい。車の中でヘッドバンギングする岸部一徳一家。

色々あったけどグッとくる可笑しさでした。映画に深い意味や感動を求めずにいられない人「以外」の全ての人に、こういう映画を見て楽しんでほしい、というか、一緒に見て笑いたいです。

(舞台はクリスマスだったりするんだけど、むしろハロウィンに見たい映画と言えよう。)

 

新藤兼人 監督「ふくろう」1963本目

新藤兼人の映画を見るの、久しぶり。

<ネタバレあります>

この映画は割と晩年の作品。内容は1964年の「鬼婆」の舞台を変えたものなんだけど、こっちは現代劇でコメディ。社会風刺なのか?なかなかアクの強い役どころの大竹しのぶ、飢えそうになっていたのが急に何を思い立って魔法を始めたのか・・・可笑しいというか妙ちきりんというか・・・。それにしても入れ替わり立ち替わり、俳優がたくさん出てくる映画だなぁ。

「客」の皆さんには、リピーターになっていただいた方が上がりがいいんじゃないかという気もするし、変な映画なのです。

 そしておもむろに、開拓地の失敗についてとうとうと語り始める大竹しのぶ。どんだけ社会派の鬼婆なんだー!

生き延びるのは、死にたがってる男だけ。彼以外はみんな、開拓団の失敗に責任があるような、ないような・・・。

しかし、多少でもお金を持った女たちが洋服にお金を使わないことなんて、ないのだ。旗を切って縫った服でも着てればいい、口紅くらい塗ってあれば・・・というのは男の考え。

まほうのお酒を飲んだ男たちは、泡を吹いた後、鶏やヤギや牛や馬になったのか・・・?ギャグというより「ガロ」のマンガみたいな濃すぎる世界・・・。

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