映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ピーター・ハイアムズ監督「2010年」2151本目

2010年も、もはや遠くなりにけり、と思うけど、この映画が作られたのは1984年だから「2001年」より16年も後。でも、改めて見てみると、こっちは80年代の映画らしさが溢れてますね。セリフが多くて登場人物がフランクで。そういう作りが、「普通」です。 「2001年」をロゼッタ・ストーンのように捉えて、一般の宇宙関係者がそれを紐解こうとする映画という感じ。「ブレードランナー」vs「ブレードランナー2049」の関係性と逆だな。「2010年」をドゥニ・ヴィルヌーヴに撮らせて、「ブレードランナー2049」をピーター・ハイアムスに撮らせたほうが、まだ違和感がお互いに少なかったんじゃないかな。2001年と2010年では、映画のジャンルがそもそも違ってきてるもん。

2001年は、モノリスそのものと同様の謎の塊なので、一般人の視点で作られたこの映画でそれを解き明かすことができる訳ではなく、そういう意味では前作の孤高は保たれたのでした。

モノリスって何?・・・正直言って、CPUにしか見えない。黒御影石ではない。ツルツルに磨き上げて高密度の計算能力を持たせたシリコンウェファー。シリコンのトランジスタは1950年代には存在してたらしいので、映画を作るのに当たって、”進化をもたらす知恵の結晶”として、巨大なチップによく似たものを創造したんだろうな。

2010年自体は普通の宇宙映画なんだけど、2001年を違った目で見直すのにはすごく役立ちました。

2010年 (字幕版)

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スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」2150本目

何回見てるんだ。と思うくらい見てますが(VHSで持ってるくらいですから)、改めて新しい発見があったりします。

1968年制作だなんて、毎回信じられない。これが68年作なら、同時代やその後の粗い映画はなんなのか。キューブリックの前にモノリスが現れたのでこんな映画が作られたんじゃないの?

1ミリの隙もない完璧な映像に、息もできずに今回も見入ってしまいましたよ。静寂の宇宙をすーーと横切るディスカバリー号。その中を「吸盤靴」でスマートに歩くアテンダントたち。こういう画面を眺めるだけでうっとりします。

今回気づいたのは主役の「キア・デュリア」が「バニーレークは行方不明」のヤバいお兄ちゃんと同一人物だということ。彼の青い大きな目がこの映画の老人とも胎児ともそっくりなこと。この造形技術も、今から50年前だと思えない。冒頭の類人猿も、本当に生きてるみたいだ。

また見るんだろうな、この映画。そしてまたうっとりする。

2001年宇宙の旅 (字幕版)

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イ・ハ監督「家を出た男たち」2149本目

 面白かった。韓国版「ジャンプ(原作、佐藤正午)」みたいな、妻を探し求めるロードムービーで、コメディなんだけどシリアスな部分もある。いかにも女性にモテそうなチ・ジニ(テレビの「チャングム」の官僚ですね)に、同行する三枚目の友人は俳優としても大好きなヤン・イクチュン。コミカルで可愛いです。さらに、妻の兄というインチキな男まで参加して、ますますおかしな道中になっていきます・・・。

韓国の郊外の普通の人たちの生活とかが見られて、こういう映画って好き。

家を出た男たち [DVD]

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佐向大監督「教誨師」2148本目

大杉漣ってやっぱりいいね。まっすぐに、心からの言葉として、役の言葉を言えるのが素晴らしい。この映画は役者さんがみんないいです。五頭岳夫というんですね、あの汚れたトレーナーを着た年配のおじさん。実際いるんだろうな、わるい人たちの悪意をいっぱい負わされつつも、澄み切った笑顔で生きてきた人。光石研の生きる欲も、生々しくて、生き生きとしている。玉置玲央の冷たさは、誠実さでもある。熱演。彼はたぶん精神の元々のどこかが鈍感あるいは敏感すぎる人として生まれていて、誠実であろうとしてヒーローになれなかった(彼の中では、だけど)。そうなる前に引き戻す道があったのか・・・なかったのか・・・。関西のおばちゃんが烏丸せつこだと気づいたときはちょっと愕然とした。彼女と光石研は生き生きとしてるんだ。どこまでいっても生きようと思える人ってすごい。

オチのない終わり方というか、問いを投げかけた映画でした。こういう映画って頭の中にすごく残るんだよね。大切で難しい問いを、見た人はずっと考え続けるのかもしれません。

教誨師 [DVD]

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ジャン=ピエール・ダルデンヌ 監督「ある子供」2147本目

2005年のベルギー・フランス映画。今から14年前。

自分の赤ちゃんが「売られる」というのは、親にとって何より許しがたいこと、と想像します。幼くても母親のほうは卒倒するほどのショックを受けるけど、 父親にはその重みがまだちっともピンとこない。そして、目の前にあるそれ以外の「金になりそうなもの」と同じように軽く売り飛ばしてしまう。でも映画では貧困が悪いとか無学が悪いとか、幼さが悪いとか、善悪の価値観を見る人に押し付けることは一切しません。

ニュートラルだからリアルなんだろうな。こういうカップルが世界中のどこにでも大勢いるんだと思う。彼らを変えるのは自分の内側から沸き起こってくる感情しかない。

まだ物心ついてない父親を演じたのは、午後8時のイケメンな父親、二重らせんのイケメンな恋人、とその後成長したジェレミー・レニエ。まだ初々しい母親を演じたのは、その後キュートなタイピストになるデボラ・フランソワ。あえてのキャスティングだと思うけど、彼らの健康的な若さと美しさが、これからの彼らの人生に希望を持たせてくれます。

特別なことじゃない。同じシチュエーションで、子供が生まれてこないこともある。遠い国で起こったことかもしれないけど、多分私たちのすぐ側で、駅前ですれ違った子達も同じような経験をしてるのかもしれない。映画で自分の目がどこか一点に釘付けになって、身近な人たちの問題を見逃したりしたくないなと思います。

ある子供 [DVD]

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サム・ライミ監督「XYZマーダーズ」2146本目

冒頭、いや、タイトルからB級の匂い。すごく低い点をつけたい衝動がムズムズするけど、私は嫌いじゃないなぁ〜。コーエン兄弟xロバート・ロドリゲス、マイナス50、みたいな感じで、とことんバカバカしく、ドッカンドッカンやろう!という勢いが好き。ポール・L・スミスがずーっとガハガハ笑ってるのとか、ブライオン・ジェームズの「クロちゃん(安田大サーカスの)」みたいなアニメ声で命乞いするのとか。車が引っかかってギャー、落っこちてギャー、とか。

もっとみんなこういう映画作ろうよ、もっと見ようよ。いいじゃんおバカで。

XYZマーダーズ -HDリマスター版- [Blu-ray]

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フランソワ・オゾン 監督「8人の女たち」2145本目

うわー、フランス的!冒頭のタイトルのバックは、女優一人ずつ大輪の花、花。ドラマが始まっても、やたら鮮明で濃いカラフルな色合いの室内に、華やかで自己主張の強い大輪の女優たちがひしめいています。何これ!

貫禄だらけのカトリーヌ・ドヌーヴ、お堅いメガネのイザベル・ユベール、ヴィルジニー・ルドワイヤンは「カップルズ」で見た顔。数が足りないと思っていたら、ファニー・アルダンが堂々と登場。まるでアガサ・クリスティの「ねずみとり」だわ(ワクワク〕。いつの時代が舞台なんでしょう、典型的な黒人メイドまでいます。屋敷で唯一の男は顔すら見せないまま刺殺体になり、密室殺人?の容疑者はこの大輪の自己主張たち。・・・これ、女優だったら演じてみたいだろうなー!

外は雪、電話線は何者かによって切断され、車を出そうにも門が開かないほどの積雪。

スポットライトが当たると突然ソロで歌い出す女たち(笑)。最初から最後まで顔すら出さない男一人。夫殺しなんて大したことじゃない、みたいなキツいジョークがフランス的ですよね・・・。フランスの女の少女時代から老年期までを描いた、連続テレビ小説のような映画でした・・・(ほんとか?)

8人の女たち [Blu-ray]

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