映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

関根光才 監督「燃えるドレスを紡いで」3757本目

いま旅行で那覇にいるのですが、今回は「暮らす旅」という趣旨でウィークリーマンションに滞在していることもあって、国際通りの裏道をぶらぶら歩いていたら「桜坂劇場」という、いかにもいい映画やってそうな映画館に行きあたったので、ちょうどいい時間から始まるこの映画を見てきました。(「人妻集団暴行致死事件」もやってたけど、これを旅行先でおばさん一人で見るのはちょっと)

ファッションデザイナーがパリコレに出す作品を作るドキュメンタリー、というと、ファッション大好きでなければ入り込めない世界かなと思うけど、このデザイナー、中里唯馬という人は、社会活動家と呼んでもよさそうなくらい確固とした主張のある人で、むしろその社会活動の記録としても見ごたえのある作品でした。

タイトルは象徴ではなくて、世界中から洋服が集められて販売されて、とうとう売れ残ってケニアで廃棄されて見渡す限りの山となってところどころ燃えている「布くず」を取り上げます。山に捨てられる直前の売れ残りの洋服のかたまりを日本に運んで、セイコーエプソンの技術でそれを叩いて崩したものを圧着して、ツイードみたいな風合いの布地を作り、それを生かしたドレスをデザインしてパリコレに出展しよう、という壮大なプロジェクトです。

かといって頭でっかちではなく、本人も”地獄”と呼ぶ試行錯誤を経て、出来上がったドレスの美しいことといったら・・・。この人なかなかすごい人です。思想家、活動家兼、日本から現在唯一パリコレに出展しているデザイナー。総合的にいうと「現代美術家」のように見える。たたずまいは上品でたおやか、語り口はやわらかいけど、意見は確固として譲らない。

どうすればこういう、たたずまいが美しい人になれるのかな。自分を知って、自分を肯定し、周囲に影響を与えられると静かに信じていられるからか。

「洋服はもう十分にあります。もう洋服を作るのはやめてください。」とケニアの人たちは言っていた。その通りなのだ。食べ物みたいに消費するとなくなるものじゃないから、まだ着られる衣服は製造するとどんどん積み重なっていく。

といっても、ビジネススーツをずっと着ていると肘のところが光ってきたり、襟元が薄汚れて薄くなってきたりする。寿命はある。ダメになった部分だけを取り換えられる洋服も、中里氏は作っている。やむにやまれない工夫だろうな。セーターなら糸に戻して、弱ったところだけ除いて編みなおせるし、浴衣や着物もほどいて作り直せる。カスタマイズが進むと使いまわしが難しくなる・・・。

そもそも、石油原料のポリエステルで安い衣類をどんどん作って使い捨てるのって、ガソリン車や火力発電と同じだもんね。大きな課題だと改めて実感しました。