映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エルンスト・ルビッチ監督「生きるべきか死ぬべきか」2144本目

1942年のハリウッドで作られた反戦映画。7年前に一度見たときには、第二次大戦真っ最中にこれほど挑戦的な映画を作れるアメリカってすごい!と衝撃を受けたことだけはよく覚えてます。

キャロル・ロンバードがすごく綺麗。いつもドレスアップしている女優の役だから、というのもあるけど、思い通りにウェーブするブロンドの髪、大きくてとろんとした青い瞳、女らしいのに威勢が良くて知的な佇まい。この映画を撮ったあとすぐに亡くなったなんて、残念です。

この映画って、シレツキー教授の本物と偽物とか、ゲシュタボと反ナチスとか、お芝居とかなりすましとか、なかなか複雑で、よくよく2回見てやっと意味がわかってきたかな。役者さんたちに力があるし、しっかり作られた作品です。本物の死体vs偽物の場面なんて、すごいブラックユーモア。偽物(つまり反ナチスのほうね)の土壇場での知恵、余裕に見える表情、なんとなく、ナチス統治下でも笑いや強さを失わなかった人たちのパワーを見たようでちょっと感動しました。

生きるべきか死ぬべきか [DVD]

生きるべきか死ぬべきか [DVD]

 

 

 

パク・フンジョン 監督「新しき世界」2143本目

2013年の韓国映画

韓国って国は、本当に表面しか知らないので(他のどの外国もそうだけど)、賑やかな都会や平和な山あい以外の、特にアウトローの世界ってグイグイ惹かれますね。

でもこの映画とはあまり相性が良くなかったみたい・・・人物はわりあい清潔感があってパリッとした人気若手俳優っぽいんだけど、拷問のかけ方はエグくて”アウトレイジ”とかの仲間という感じです。東アジアみんなそうだと思うけど、日系もいれば韓国系も中国系もいて、固まったたり喧嘩したり・・・うーむ、どうもこういう身もふたもない今年か言えないので、今日はこのくらいにしておきます。

いつもは、ぴんと来なかった映画は2回見て確かめるけど、この映画は2回め見たいと思わなかったです。。

新しき世界(字幕版)

新しき世界(字幕版)

 

 

ジョージ・ミラー監督「イーストウィックの魔女たち」2142本目

大丈夫、がっかりしたりしません!最初から娯楽気分で見てるから。<ネタバレあり>

タイトルはむかーしから知ってたし、魔女の一人がシェールだということも覚えてたけど、悪魔がジャック・ニコルソンかぁ。シャイニングとか「郵便配達」の影響かしら。あとの二人の魔女は、スーザン・サランドン(おなじみ!)とミシェル・ファイファー

カレル・ストラッケンというのですかね、屋敷のやけに見覚えのある執事はツイン・ピークスアダムス・ファミリーでおなじみの彼。でもこの映画がこの中で一番先です!

音楽は、立派な室内楽・・・と思ったらスター・ウォーズと同じジョン・ウィリアムズでした。この映画が安っぽくならないのは、音楽のクオリティの高さもあるかも。

といっても終盤はまるでゴーストバスターズ。悪魔はちっちゃい「イレイザーヘッド」の赤ちゃんのようになってはじけてしまいました。ジャック・ニコルソンってこういう役、好きでやってる?もしかして。

女性3人が好色男に勝つ、というだけで、なんとなくスカッとするんですよね。スーザン・サランドンミシェル・ファイファーも好きだし、シェールも妖しげというよりストレートな感じでとってもチャーミングでした。

 

マイケル・ラドフォード 監督「イル・ポスティーノ」2141本目

1994年のイタリア映画。イタリアの小島に亡命してきたチリの共産党員の詩人と、島の郵便配達人との素朴な友情を描いた作品。こういう素朴な映画ってわりと好き。優しい気持ちになります。

パブロ・ネルーダノーベル賞を受賞した偉大なる詩人だそうです。共産党員ですから、私利私欲を求めず市井の人々に対して暖かい。この辺りは事実なんだろうけど、郵便配達人マリオのくだりはフィクションなんでしょうね。とりあえず、ネルーダ詩集取り寄せて読んでみなくちゃ。

詩人の写真を見てみたら、演じたフィリップ・ノワレとそっくり。マリオ役のマッシモ・トロイージは、エピソードを知ってしまうとますますこの映画が切なくなってしまいます。

私ほんと、フツーの人たちを描いた映画って好きだな。世界中の小さい町のあちこちに、こういう純粋で優しい人たちが暮らしてるんだろう、って思える。

イル・ポスティーノ(字幕版)
 

 

グレゴリー・ホブリット 監督「オーロラの彼方へ」2140本目

原題は「frequency」。ここでは「周波数」ですね。日本語にしてしまうと身もふたもない。

邦題は映画の内容が全く想像できないタイトルになってしまってますが、オーロラはこの映画の中でかなり重要な要素です。ニューヨークでオーロラが見える頻度ってどれくらいあるんだろう。DVD特典に「80年ぶりに観測」と言うニュースについて触れてたりするくらいで、ほとんど見えないからこそ、出現した特別なときに奇跡が起こるストーリーに説得力が出るんでしょうね。

「メッセージ」とかで最近は、科学の粋を集めると「ねじれ」を越えることが可能になるという概念が空想でなく未来だと思えてきつつありますが、この映画の時代には全くのファンタジーだったんでしょうね。だからこそファンタジックに描かれている。どんどん未来を変えてしまって最後に後悔する話ってドラえもんでも他の日本のアニメでも「ドニー・ダーコ」でも散々見てきたけど、この映画は父と子の家族愛のおかげで、楽しめてあったかい気持ちになれる作品となっています。

DVD特典が充実してて、オーロラで電波障害が起こる科学的背景や、時空を超えることの説明なんかも収録されてます。

 

ロバート・アルドリッチ 監督「何がジェーンに起ったか?」2139本目

怖い映画ですね〜。「ドラキュラ」みたいな昔のホラー映画並みに怖いです。老女であり狂女であるという役柄の描き方は、モンスターのようで、その人間的な背景については最後の最後まで見えてこない。ベティ・デイヴィスジョーン・クロフォードのようなプロの俳優は、極端な役を演じきることで達成感を得られると思うけど。

<以下ネタバレあり>

真実を知ったジェーンが言う「じゃあ私たち、ずっと仲良くなれたってこと?」の意味。彼女は自分が加害者だからずっと面倒を見て、かつ、ずっと意地悪をし続けるものだと思い込んでたんだろうか?突然解放されて、彼女の心は、自責の念を負う前の自分にフラッシュバックする。一番幸せだった頃の自分に戻る。

一方の、自責の念を一生持ち続けたブランチの人生は。少女時代の妹の輝きをずっと羨望の目で見ている彼女の姿も、現在の妹の面倒を見続ける姉らしい責任感も、画面にはちゃんと映っていたけど、背後にある事情や感情を察すると納得がいきます。

人間の心理のドロドロを描いたミステリーの名作って、古今東西アガサ・クリスティから刑事コロンボから日本の最近のイヤミスまでたくさんあるけど、すごく深くて面白いものもあるけど娯楽としては楽しくないんだよね・・・。

 

小津安二郎監督「早春」2138本目

昔ってプラットフォームのずいぶん端っこまで人が立ってたんだなぁ!そんな駅で「電車の仲間」(ご近所さんなんだろうけど)ができたり、岸恵子のあだ名が「目玉が大きくてちょいとズベ公だから、金魚」だなんて。ちょっとリアルには想像できない日常です。

そしてまさか?の不倫物だった。
小津作品って、見れば見るほど、一見抑揚のない演技の裏に、人間のドロドロしたものを忍ばせているのが見えてきて、「東京暮色」あたりから面白みが深まってきました。
池部良は一見普通っぽいけどちょっとダンディ。淡島千景は笑顔がきれいで優しい。岸恵子は、清楚なのに言われてみると確かに”ズベ公”に見えてくる。杉村春子は小津映画では常にこの役どころだよね。加藤大介に宮口精二、三井弘次も出てる(若い!明るい!軽い!)山村聰、なつかしい。浦辺粂子、比較的若いけどヤケに枯れてる(笑)。中北千枝子、なんかいいですよねこの人。存在感が音無美紀子にも似てて、「普通」を演じられる存在感。東野英治郎はバーのカウンターの隣に座った初老の男(といっても実年齢はまだ49歳!)・・・といった具合に、私としては「オールスター映画」と言っても過言ではない。

既婚男性を好きになって「何がいけないの」と開き直る独身女性。彼女を囲んで説教をする男たち・・・小津映画の女たちみたいに、男たちもなかなか意地悪です。本当はみんな羨ましいくせに。でも、影で噂したりしないところにまだ友情が感じられます。彼らのうち誰かが、金魚といい仲になったとしたら、なんだかんだで受け入れるだろうから。

三浦という友人の見舞いを口実に不倫する。三浦を本当に見舞いに行った翌朝に死んだと言われて、無表情。その葬式の、何ともこじんまりとした様子。

転勤していく彼を見送る”ズベ公”の目に涙。小津監督は、不倫しようが憎んでいようが無関心だろうが、家族という単位で人間をとらえます。それは目に見えない確固とした枠組。

韓国映画を見て「私たちも感情をもっと出した方がいい」って書いたけど、この映画の人たちの無表情は、感情を抑えてるのとは違う。人前で顔に出さないだけで、ちゃんと怒り、ちゃんと笑ってる。感情はしっかり感じながら、表に出すことを抑えてるだけ。盲従とか誰もしないし、浮気されたら黙って家を出る。一番まずいのは、「浮気されても愛してる」とか思って嫌な気持ちを飲み込んでしまうことだ、と思う。

家族・・・。嫌なら別れちゃえば、などと思ってしまう私には、何が何でも家族という枠にこだわり続けた小津監督の想いは、本当は全然わかってないのかもしれません・・・。

早春 デジタル修復版 [DVD]

早春 デジタル修復版 [DVD]