映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

溝口健二監督「夜の女たち」2257本目

1948年、戦後すぐの作品。

田中絹代がパンパンの役を熱演しています。同じ監督の「赤線地帯」も切ない映画だったけど、この映画の女たちもひどい目にあっています。

家出をしてきた義理の妹の久美子が、声をかけてきた男に酒を飲まされて犯されて有り金を全部取られ、持っていた荷物も着ていた服も女たちに全部盗まれてしまうというくだりは、本当にやりきれない。日本は平和な国だなんてウソで、この国に生まれ育った人も生活に困ったら平気で人を傷つける。傷つける人もまた痛めつけられて傷ついてる。

夜の女たちがリンチをしあう瓦礫の山のなかに、ステンドグラスだけが残った教会がある。誰にも慈悲も恵みも与えられないけど、悲しそうな目でマリア様が彼女たちを見てる。

病院の院長は「君たちは『新しい女』にならないといけない」と説教をするんだけど、新しい女って何だろう?そこを出て体を売るのをやめたら、何をして食べていけばいいんだろう。この映画の世界の中には、悪い人以外ほとんど出てこないのに・・・。

答えも救いもない、教育的配慮も行きつくところの結論が出ていない、そんな気持ちのやりどころの見つからない映画でした。

あの頃映画 松竹DVDコレクション 夜の女たち

あの頃映画 松竹DVDコレクション 夜の女たち

 

大島渚監督「白昼の通り魔」2256本目

大島渚監督の映画ってときどき見たくなる。濃くてどろどろしてるんだけど、華やかで粘度は意外と低い。

この映画の小山明子(先生)と川口小夜(しのちゃん)はとても魅力的です。小山明子って、アヌーク・エーメ的なクール・ビューティですね。本当にきれいで、誇り高く汚れないけど、女のサガを内面に秘めてる。この映画の彼女は最高です。川口小夜は若いころの杉田かおるみたいで、かわいらしくてちょっと野性的。この二人のライバル関係はあくまでも敵対的で、愛憎というには愛はなかったけど、最後ああなるんだ。どうオチをつける?と思ったけど、不思議とすわりのいい終わり方でした。

佐藤慶は本当に、悪を秘めた男の役が多いな。どんな不自然な悪いことをやっても自然に見せてしまう。すごい性格俳優。

あの頃映画 白昼の通り魔 [DVD]

あの頃映画 白昼の通り魔 [DVD]

 

 

アルフレッド・ヒッチコック監督「リッチ・アンド・ストレンジ」2255本目

1931年のイギリス時代の作品。

なんとなく、もうちょっと古いかなと思いました。画面替わりに文字による情景説明が入るし、主人公の夫婦の夫のほうは、顔は白塗りで口紅は赤く、作った表情の割にぞんざいなセリフ…無声映画の時代の人って感じがします。

妻のほうを演じたジョーン・バリーはベビーフェイスで、今ラブコメに出ても人気が出そう。

それにしても、すごい世界一周です。お金持ちのおじさんが出資してくれたとはいえ、一般の人がイギリスを出てヨーロッパ各国、アフリカ大陸、中東を経て東アジアまで豪華客船で旅行するなんて、今でいえば宝くじが当たったくらいの大変なことなんじゃないでしょうか?今だってこんなに回ったら200万円って感じじゃないですかね。

当時実際にロケで世界中を回ったんでしょうね。これほどの映像をイギリス国内で作れるほどまだロンドンの人種のダイバーシティはなかったはず。スポンサーJTBみたいな、旅行プロモーション映画かな?ストーリーにヒネリがない割にお金がかかってて、船旅って憧れる~という気持ちだけがあとに残るあたり、本当にそうかもと思ってしまうのでした。

リッチ・アンド・ストレンジ [DVD]

リッチ・アンド・ストレンジ [DVD]

 

 

ペドロ・アルモドバル監督「神経衰弱ぎりぎりの女たち」2254本目

なんか、細かいところが面白いですね。この監督の映画は。舞台劇みたいに、キャラの立った人たちが入れ替わり立ち代わり。ど派手なタクシーの運転手や、息子の彼女とか。。

スペインのブランドDesigualみたいにカラフルで、色恋ごとがいっぱいで、賑やかな映画。ちょっとマンガっぽい。「殺人者の母です」のCMなんかも、ラテン系の面白さ。日本でこれやったら、風紀委員会の人たちが大騒ぎだ!

アントニオ・バンデラスが、今では考えられないような真面目なっ坊ちゃん役なんだけど、みょうな色気は隠せなくて、ますます妙な青年です。

その父イヴァン、いい感じにチャラい中年男で、彼を取り巻くパワフルな女たちはみんな、すっごく美人とかすっごくおしゃれではないけど、とにかく生き生きとしています。このくらい元気でいたいんだけど、日本でこれだと相当目立つだろうな・・・。

ピンクのスーツでバイクの後ろにまたがり、けん銃で空港へ行けと脅迫するおばちゃん。セロファンを貼ったようなつけまつげ、風で倍の大きさにふくらんだ頭。すっごーい。

そして 「ほんとうに自立した女」が主役の映画では、よりを戻してハッピーエンドとは、まずならない。男なんてアクセサリーみたいなもんなのです、彼女たちにとっては(極言!!)。

神経衰弱ぎりぎりの女たち [DVD]

神経衰弱ぎりぎりの女たち [DVD]

 

 

奥田瑛二監督「少女 an adolescent」2254本目

監督がテレビのインタビュー番組でこの映画について話してたのを見て、借りてきました。
彼自身が演じるインチキ駐在さんが、エロくて悪くていい感じ。
彼が惚れる14歳の中学生も、大人と一緒に葬儀の仕事をしているところは大人に見えるし、セーラー服のときは子どもに見えて、多分、監督がかもし出したかった「adolescence」という中途半端な年代の魅力は十分感じられた。
画面づくりとか演技づけとかは、ちょっと物足りない、まだ照れがある。。。。そう考えると、「0.5ミリ」で妹に妹の義父が襲い掛かる場面を平気で演出した安藤桃子監督(奥田監督の娘だ)は、なかなかの度胸だな!
でもこんな、大人が中学生と恋をする映画って、今はもう撮れないだろうな。
昔はいくらでもあったけど。

中学の教室で少女が授業を受ける場面で、先生がどーも島田雅彦だなと思ったら、やっぱり島田雅彦だった。

少女 [DVD]

少女 [DVD]

 

 

トム・ディチロ監督「ドアーズ まぼろしの世界」2253本目

オリバー・ストーンによるドキュメンタリーに続けてこれを見てみる。

改めて、デビューアルバムに10分間の「ジ・エンド」が入ってるって、もうそこで死んでもいいってことだよね。腹が座ってるのか、ヤケクソなのか、神がかりなのか。ジム・モリソンのそういう、透き通るようなバカさが美しく思えてならないわけです。

関係ないけどドアーズの写真を見てると、ビル・ゲイツポール・アレンマイクロソフトを設立しようとしているアメリカ西海岸の写真だっけ、と思う。いいんじゃないでしょうか、どっちも。

本物のジムはステージで、明らかに目がいっちゃってて何か決めています。この状態で「higher」の歌詞をpolitically correctな何かに言い換えるなんて無理だ。太古の昔に、麻薬性のある草は呪術や儀式に使われたといいます。そういうものによって、着ているものを全部はぎとられて、彼らは純粋な神の子のようなものになって、人々の思いを映し出したり、神様の意思を照らし出したりしたのかもしれない。それと同じことをジム・モリソンもやっていたような気もする。

ジム以外のメンバーを、レイは瞑想教室でスカウトしたってのがちょっと笑った。いかにもすぎて。ジムは神がかった巫女のような人だと思ってるんだけど、レイはなんかいろいろ企んでて面白いな。ドアーズって歌詞もメロディも演奏も天才のようだけどへたくそで、やっぱりすごいわ。

ドアーズ / まぼろしの世界 [DVD]

ドアーズ / まぼろしの世界 [DVD]

 

 

オリバー・ストーン監督「ドアーズ」2252本目

マーティン・スコセッシブライアン・デ・パルマのようにオリバー・ストーンも音楽愛の強い監督なのか?というと、中で流れる楽曲のクオリティをみると、そうでもないのかな。

この映画が公開されたことは覚えてるけど、割とドアーズを聞きこんでた中二からまだあまり時間がたってなかったので、見たくなかったんだ。この映画。ジム・モリソン様セクシー!みたいな感じだったから・・・(ああ痛い)

そんな熱も冷めてはや20年?30年?なので見てみた。

ヴァル・キルマーがあんまりセックス・シンボルに見えないんだけど、今のいいおじさんになった彼は、のちのジム・モリソンに意外と似てるかも。割と骨太なんだよね・・・。一番好きな曲「Touch Me」をキルマー自身がレコーディングする場面があって、ただしゃべってるだけみたいなんだけど、もともとがそういう歌なのでなんだかぴったりくるのが不思議でした。

冒頭のクレジットにツイン・ピークスカイル・マクラクランを見つけて、もしや彼がレイ・マンザレク?と思ったら当たり。私のイメージでは、ジム・モリソンは詩の世界をそのまま生きたロマンチストで、レイ・マンザレクはエンジニアタイプ。カイルはそれともちょっと違うけど。パメラをメグ・ライアンがやるというのもこの時代ならではだなぁ。

亡くなって久しい希代の音楽評論家、中村とうようが唯一認めなかったと言われているドアーズ。

なんか音楽のアシッド的世界より、この映画はもっとドキュメンタリー的で、あんまりこれ自体は詩的でも耽美的でもない。まったくないです。なぜ戦争映画を撮る監督がこの映画を作ったのか?共通点はベトナム戦争かな。私はやったことがないからわからないけど、LSDをやると世界がドアーズの音楽のようになるのか?戦争へ行った若い人たちも同じような経験をしてたんだろうか?

終盤、ドラッグで壊れたジムが立つステージがオリバー・ストーンの戦場に見えてくる。そこにナバホ族の老人が現れる。

墓地にはオスカー・ワイルドサラ・ベルナール、マルセルプリースト・・・に交じってジム・モリソンという墓が並んでる。この落書きのひどさ。明るくて賑やかで、落書きだらけだけど堕ちた感じのしないきれいな墓地だ。安息の地に行けてよかったじゃないか・・・。

どうしようもないけど、やっぱりジム・モリソンは絶対に忘れられないロック・スターで詩人だったんだ。 

ドアーズ [DVD]

ドアーズ [DVD]