映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

荒井晴彦監督「花腐し」3761本目

そうか「火口の二人」の監督の作品か。主役の女性がすごくさっぱりした雰囲気なのと、”濡れ場”が映画全体に占める割合の多さが共通している。…えっこの女優、さとうほなみって、「ゲスの極み乙女」のドラマー!だいぶ前にフェスで見たけどすごく上手かった。天は二物を与えた。脇役として、赤座美代子や、山崎ハコが出てるのも、なんか昭和の新宿感が出てて良いです。そもそもこの監督の作品には、作り物じゃない裏新宿感、みたいなのがあって好きだな。

それにしても綾野剛は、ネイティブ日本語話者の私にもほぼ聴き取り不能。一度見てもあらすじしかわからなかったので、二度目はテレビの前に座り込んでじっくり見ました。・・・なんかね、若いきれいな女のハダカが多すぎて、まるで「女囚さそり」か!と思うほど不適切にもほどがあるのが違和感だったけど、エネルギーが枯渇してしまったおじちゃんたちには彼女たちのあふれる生命力が必要だったのかな、としみじみ思いました。おばちゃんたちが韓流にときめくのと本質的には同じことなのかもしれない。ましてや、この映画のテーマは、いい女の喪失ですから。絶望して自分も後を追いたい、というところから、最後に綾野剛は立ち上がれるのか。・・・だから結末は荒業です。「アンダーグラウンド」の最後みたいに踊りだすとか、歌いだすとか、夢をみるしかない。

一方で若くて美しい女がどうして死んでしまうのか。借金したばかりの映画監督がどうして死ぬのか。・・・なんか何度も失敗して最後に成就した太宰治の道行みたいですね。あれはとにかく死にたい男がいて、一人では死ねなくて、割と知り合って間もない、心に闇を抱えた女と何度も心中を試みたのだと思います。こっちは、二人とも死ぬことばかり考えていたようには見えないけど、どちらも本当は絶望を抱えていて、呼応し合ってしまったのかな。とか、映画で語られなかった部分を勝手に補っています。

まぁ、欠落とか暗闇とか、誰にでもあるわな。それをずっと持ち続けることは、持病となんとかうまくやっていく、みたいなことだ。

それにしても、歌う祥子に見とれていた監督が、栩谷が立ち上がってデュエットを始めると目を逸らして、やがて画面から消えてしまうのがなんか切ないですね。そこからの心中と考えると、いつも笑顔だった彼の胸の内を思っていたたまれない気持ちになります。

いい映画でした。人間愛というか・・・女性全般への(欲望もありつつ)リスペクトと、男全般への「俺たちってダメだよな!」という温かさが伝わってきて、最後なんか泣けてしまった。

花腐し

花腐し

  • 綾野剛
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