映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

チャド・スタエルスキ 監督「ジョン・ウィック」2193本目

キアヌ・リーヴスは昔から好きなので、今更ながら見てみました。

面白かった・・・

なんで面白いんだろう。解説を見ると、“完全無欠で冷血な殺し屋が、妻の形見の犬を殺されて逆上。元の雇い主に戦いを挑む”という、え?犬?なストーリーだし、ジョン・ウィック本気で暗殺しようと思えば映画中全部で45分くらいはチャンスがあるのに、そこではあえてキープして決闘まで持たせるというおかしな構成。だけど、キアヌ・リーヴスがやると本気に見えるし、必然に見える。スタントマン出身の監督が撮っているだけあって、アクションがリアルで見ごたえがある。車がすぐ炎上したり落ちたりするんじゃなくて、こすったりへこんだりつぶれたりする。アクションを見せるためだけの映画としても、この暗い画面、絶望したキアヌの表情・・・面白いな、と感じさせて、最後まで息もつかせずに見せてしまうという、この映像制作力。これが娯楽映画ってものなんだな・・・。

もう、恋愛とか友情とか人間ドラマとか何もなく、ひたすら暗く絶望したヒーローが戦うことだけに終始したのが、この映画の勝利です。

まさかの続編も見てみようかなぁ。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 監督「灼熱の魂」2192本目

驚きました。これがカンヌで外国語映画賞を取らなかったなんて。

パルムドールを取っても全然不思議じゃない力作でした。

苛烈な政治闘争のど真ん中にいた女性とその子供たちが、運命に振り回されることは想像できるけど「まさかここまでは。偶然が重なるにもほどがある」と言うこともできます。 でも、あまりに過酷な状況を外の世界に知らしめるためには、現実らしさを昇華して寓話化することも必要。この映画は、苦く苦しい運命を生き抜いた一人の女性と、その子どもとして生まれなければならなかった人たちの「約束」を通じて、最後には人間の中の美しいものにたどり着きました。

見てよかった・・・。

灼熱の魂 (字幕版)

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三宅唱 監督「きみの鳥はうたえる」2191本目

そうかこの映画も、佐藤泰志の原作なのか。

著者の若い頃から設定は変えられていて、3人はスマホを使ってLINEで会話し、DJがテクノを流すクラブで踊り、「オリビアを聴きながら」のレゲエバージョンを歌う。

この優しく流れるような音楽がいいですね。Hi'Specっていうアーティストらしい。佐藤泰志という作家は、優しすぎて、登場人物たちの日々に「終わり」をつけることができなかった(だから、どの小説もオチがなくて尻切れっぽい)という仮説を前に書いたことがあるのですが、この映画でも同じものを感じました。

折しも今日の東京はどんよりと曇って、降るのか降らないのかわからないお天気。低気圧のなかで、作家が見たもの、感じたもの、考えたこと、書きたかったこと、書けなかったこと・・・ぼんやりと私も考えてみます。

ジョン・キャメロン・ミッチェル 監督「ショートバス」2190本目

この世界の人たちはどうしてこんなに、豊穣を愛するんだろう。大勢の人たちが笑いながら交わりあっている、着飾ってライトを浴びて歌い踊っている、というような。寂しさの裏返しなのかな?そんなに寂しいの?

裸になって、体じゅうの穴という穴をカメラの前に、全世界の人たちの前に、さらけ出す。気持ち良さも気持ち悪さも。さらけ出すのが終わったあと、もう何も残っていないように感じたりしないのかな。それとも、全部出し切ってもどんどんエネルギーや生きる力が湧き出してくるのかな。

この映画を見てる人たちのほとんどは、さらけ出すことに違和感とか恐れを持ってる。出し惜しみをしている。何回か生まれ変わったら、もう恐れるものがなくなって、穴という穴までさらけ出しても恥ずかしくない、大きな心の持ち主になれるのかな。

それともずっと別世界のままなのかな。

ショートバス [DVD]

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デヴィッド・ロバート・ミッチェル 監督「アンダー・ザ・シルバーレイク」2189本目

面白いね。

アドベンチャー・ゲームを映画にしたような作りだけど。デヴィッド・リンチの映画みたいな怪しさが現実としても現れてきて、自分自身が思い切り巻き込まれるし、謎を解いたりもする。巻き込まれる自分が中二の少年ではなくて、ハリウッドに憧れて出てきた平凡なアメリカの若者ってところが、アメリカ的にはリアルなんだろうな。

この終わり方が中途半端とか、伏線が回収できてないっていう人もいると思うけど、私はもっと巻き込まれて続きが見たいなと思っている。

もしかしたら、大した謎ではなかったのかもしれないけど、一瞬この不思議な、現代的な世界に巻き込まれてドキドキさせてくれてよかった。

アンドリュー・ガーフィールドは、「沈黙」の純真で悲痛な若い宣教師のイメージで、この映画でもなんだか見ていてかわいそうな気持ちになりそうになるけど、この映画の中でこの役の彼はとても自由だ。自分の意思でウサギの穴に飛び込む命知らずだ。命がけで楽しむ、それが生きるってことだよね?

 

山本薩夫 監督「忍びの者」2188本目

1962年の作品。市川雷蔵主演の、忍者映画ブームの先駆けとなった作品だそうです。

歌舞伎とかにありそうな、悪い親方と若い奥方、若くて有望な間男、お家や身分の関係、と行ったテーマなのですが、市川雷蔵がいつもだけど今度も素敵で、とても楽しめる作品でした。

これ、子ども時代に見たら憧れただろうなぁ。ドキドキする要素が散りばめられているし、雷蔵の不思議な魅力。若々しい明るさ、強くてお茶目な目元と、それに反する妙に苦い口元の表情。彼のどこかにある”暗さ”は、子どもたちから見れば「謎」とか「大人の世界」のように見えるんだろうな。それは「忍者」という言葉そのものに潜む、秘密や伝統のロマンにぴったり合います。

白黒映画だからこそ、神秘性がさらに高まってるかもしれません。

市川雷蔵は、1969年にわずか37歳で亡くなるまでに159本の映画に出演したそうです。若い頃しか私たちに見せてくれなかった彼の姿を、この時代の映画で浴びるほど見ていた1960年代の少年少女が、うらやましい気がしてくるな・・・。

忍びの者 [DVD]

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キャメロン・クロウ 監督「シングルス」2187本目

 シアトル、1992年。ニルヴァーナでいえば「ネヴァーマインド」と「イン・ユーテロ」の間。Windowsでいえば最初のメジャーバージョンである3.1が出たとたんにバカ売れしていた頃。まだ独身者向けアパートは高騰していなくて、シアトルはジミヘンの思い出の残るグランジの街だ。Nintendo Americaがシアトルにできたのは1982年だから、この映画の若者はゲームをやって育ったかもしれない。Amazonの創業は2年後。グレイズ・アナトミーはこれより10年以上あと。・・・そんな時代のシアトルです。

普通の若い大人たちが出会って別れて、という人間ドラマで、そこがシアトルでなくても良い感じはするけど、気分を変えるために出かける先がアラスカという距離感(意外と”地の果て”まで簡単に行ける)とか、都会なんだけどどこか落ち着いていて人が多すぎない感じとか、暮らしやすい街っていう性格が生かされてる気がします。

主役はキーラ・セジウィックキャンベル・スコットなんだけど、ブリジット・フォンダマット・ディロンっていう有名俳優がどうしても注目されてます。それぞれが一生懸命生きていて、共感が持てます。

恋愛って本当に、進んでいいのかやめたほうがいいのか、迷うし、怖いし、正解はないからね。怖がりすぎないで、心を開いていけばいいのかな。などと思ったのでした。

シングルス (字幕版)

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