映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

久松静児監督「警察日記」60

これも1955年作品。
会津磐梯山近くの町の警察署にやってくる人たちを日記のように描いた、生活感と人情あふれる映画です。起承転結があるわけではなくて、ロードムービー・・・というより定点待ち受けムービーです。

戦後の貧しい生活に耐えて生き延びようとする人たち、それをなんとか助けようとする人たちの姿があたたかいです。子どもを何人も抱えて夫に出ていかれて、働くこともできず困り果てて無銭飲食をしてしまう母親や、心中寸前まで追い詰められて子ども二人を棄ててしまう母親。料亭が二人の子を引き取って可愛がって面倒をみたり、若い警官が売られていく若い娘にそっとお金を渡したり。…助けられた人ばかりじゃなかったんだろうけど、こういうオープンで血の通った付き合いっていいなぁと素直に思います。なんか前にCSで見てた「マクベス巡査」の世界。(あっちは最近の映画で、スコットランドの片田舎のマクベス巡査を演じてたのは映画「トレインスポッティング」でアクの強いベグビーを演じたロバート・カーライルです。)

これにも森繁が出ていて、棄て子をなんとかしようと奔走する警官役です。まだ若い警官の三國連太郎宍戸錠のイケメンっぷりも見どころ。棄て子のお姉さんの方を演じているのは、まだ6歳くらいの二木てるみで、せつなげな演技が泣かせます。

とても地味な作品なんだけど、こういうさりげないものほど、細かいシーンが心に残って、何かの折に思い出したりするんですよね。

ところで、この頃の映画を見るときに楽しみにする人がだんだん決まってきました。
千石規子のちょっとワルな魅力、三木のり平の芸達者さ、加藤大介のどこか上品な上役ぶり、いつも悪者の親玉を演じる三島雅夫の貫録…。三島雅夫の演じる大物は、ヒッチコックみたいに重厚なんだけどなんとなく陰があって、複雑な人間性を感じさせて、実在しそうな感じがあります。「スラバヤ殿下」ではペテン師をうまく利用する芸能ゴロみたいなのを演じてましたが、この映画では闊達で剣道大好きな警察署長という屈託のない役です。明るいのになんとな〜く裏表がありそうに見えるところが魅力。

この頃の映画ってほんとどれも面白いですね。当時ノリに乗ってた大衆娯楽だったんだろうなーと感じさせます。だんだんマニアックになってきましたが、引き続き追っかけて行きます。以上。