映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

李相日監督「悪人」107

2011年作品。

いい映画だった!
文句なしのイケメン妻夫木聡が、汚い金髪、もっさりとしたジャンパーと太いズボンのイケてない九州の海辺の町の若者にしか見えない。美人女優深津絵里が、孤独なOLにしか見えない。決して大げさでなく、これは自分と同じような人だと思えるすばらしい演技力、演出力です。
ラストの、タクシーの中でのつぶやきを見たら、この女優に賞をあげよう!と思うよなぁ、やっぱり。
満島ひかりの、殺したくなるようなイヤな女っぷり、岡田将生の軽薄男っぷりも良い。樹木希林柄本明は抑え気味でやっぱり良い。

昭和なかんじのテーマなんだけど、「絶望」や「孤独」といっても全然同じではない、いまの日本のリアルをしっかりフィルムに焼きつけたという意味でも価値があります。希望なんかないんだけど、日常の続きで明日はちゃんと来る、というようなうす明るい感じがあります。

人間をあたたかい目で見ていて、この感じいいなぁと思ったら原作が吉田修一なんですね。パークライフくらいしか読んでないけど、あれを読んだときの読後感のよさを思い出しました。人はそうやって生きていくんだよね。見終わってもやっぱり、明日も私はぱっとしないんだろうけど、人にやさしくしたいな、と思える映画です。