映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

チン・モヨン監督「あなた、その川を渡らないで」 2172本目

まあ何て可愛らしいおじいちゃんとおばあちゃん。人間、こんなに可愛く歳を取れるものなのか。犬たちと日がな一日遊びながら暮らす。ピンクや黄色の、やたらと可愛らしいコスチュームの2人。幸せっていうのはこういうことを言うんだろう。お隣の国にこんな天国に生きている人たちがいると思うだけでちょっと幸せだ。

この映画の“モラルを問う”みたいなことを書いてる人がいるけど、人はみんな100%死ぬわけだから、それを見ていたいと望む人がいて、見られてもいいと思う人たちがいたんだから、良いのだ。誕生や結婚や出産を撮影することと同じ。セックスは映画で本当に行われることも割と多いのに、本当の死を取り上げるのはモラルの問題なの?死ということは生の最後のくだりであって、暗いことでも不幸なことでもなくて、ちゃんと看取って大切に送れたのはとっても幸せな営みだと思う。そういう視点に気づかせてくれる映画でもあります。

私も、猫を膝に乗せて一緒にうとうとしてる休日の午後とかが一番幸せだもんな・・・。そういうことを忘れない、思い出す、ということが大切なんですよね。変な話、「万引き家族」を見たときの印象と近い極楽感なんだけど、この映画には私の黒い部分でさえ“やっかみ”は感じなかった。言われなくても、若い頃からお揃いを着てたわけじゃないとか、いろんな苦労もあっただろうことが当然想像されるから、かな。

大変良いものを見せていただきました。お隣の国が少し、心情的に近くなりました。