映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

キャロル・リード 監督「華麗なる激情」1976本目

1965年のイギリス映画。原題は「The Agony and The Ecstasy(苦悩と恍惚)」です。

冒頭10分間ほどミケランジェロの生い立ちについて語る部分が、ほぼ「日曜美術館」。だったら邦題は「ミケランジェロ〜その苦悩と恍惚〜」でよかったんじゃないか。その後タイトルが出て、そこから後はフィクション。ミケランジェロを演じるのは猿で有名な(すみません、どうしてもそういうイメージが)チャールトン・ヘストン

どれだけお金かかったんだろう。天井画を描きかけのシスティーナ礼拝堂のセットとか、どうやって作ったんだろう。途中、ミケランジェロが激情を爆発させて一部を破壊したりもしてます。石切場でハッパをかける場面も大規模です(鉄筋コンクリートに見えるけど、石切場で合ってます?)。ローマの街角もリアルで、これ一体どこでロケやったんだろう?セットだとしたらいくらかかったんだろう?(wikiによると制作費717万ドル、興行収入800万ドルとあります)

システィーナに本格的に取む最後の數十分は、彼の天才をじっくり楽しめる時間でもあります。映画の中の絵は複製画なわけですが、十分感動的。ただ、完成したとたん、数世紀を経た現在の絵になるのが・・・フレスコ画の修復過程を特集した美術番組じゃないので、そこはしょうがないか!

(映画の長さがわずか138分なのに、インターミッションが入るのって不思議・・・)

 

ジョー・ライト 監督「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」1975本目

ほんとだ、ゲイリー・オールドマンが太っちょの老人のチャーチルを演じてる。(ご冗談を!若い頃にシド・ヴィシャスを演じた男ですよ!)こんなおじいさんになってから首相に就任したの?可愛いタイピストリリー・ジェームズ、「ベイビー・ドライバー」のデボラです。

・・・でも・・・すみません、面白くないです。有名人をそっくりに、ちょっと皮肉っぽくユーモラスに演じるというのは、風刺画なら面白いけど、外国人の私がこの映画だけを見て心底楽しめるかというと、そもそもそういう意図で作ってないように思えます。画面は素敵なんだけど、絵で語る部分があまりなくて、会話劇なんですよね。小説を読んでるみたいで、絵で印象に残るのはやっぱり特殊メイク、というくらい絵に語らせてないところが、ストーリーにそれほど入れ込めない私には楽しみが少なかったのかも、と思います。

チャーチルについて。25年前にロンドンに行ったときに、地元の友達が連れて行ってくれたのが、彼の生家である世界遺産ブレナム宮殿でした。親が宮殿に住んでるとんでもない貴族!とびっくりしつつ、連れて行ってくれるということは、単なる過去の首相の一人というだけでなく、人気があるんだなぁと思いました。その後ダンケルクを描いた映画を何本か見て、国民を「生かす」決断ができた軍人ってあまりいなかったんだろうなと思いました。(もちろん戦勝あってのことですが。)それくらい「誰でもよく知ってる、親しまれている偉人」なのでしょう。

 それにしても、就任時すでにずいぶんおじいさんだなぁと思ったら66歳ですって。他にいなかった感強いですね。wikipediaとか見ても、首相就任後は短くて、その前が長い!

 

ロバン・カンピヨ 監督「BPM ビート・パー・ミニット」1974本目

ジャケットしか見てなかったので、元気なヨーロッパのゲイの人たちの映画(例「パレードへようこそ」)かと思ってたら、「エイズ」が一番恐ろしかった時代の映画だった。

しかも、前半はACT-UPという活動団体の活動を描いた映画だと思っていたけど、やがて積極的なショーンと内向的なナタンの物語が描かれていきます。仲間が次々と倒れていき、自分も数値がどんどん悪化していく中で、活動はますます過激になっていくのは自然だったのでしょう。製薬会社に政治はつきものだけど、今は効果のある薬が誰にでも手に入ると聞いているので、それが本当である限り、良かったなぁと思います。逆にいうと、このころのHIVは中世の黒死病みたいに怖いよ。

早い段階で感染してしまった人たちに、こういう集まりがあって良かった。でもきっと、一人で消えるように行ってしまった人もたくさんいたんだろうな。

昔、この映画の舞台と同じ頃に、HIV患者で若くして亡くなったフランスのエルヴェ・ギベールという人の「楽園」という小説を読んだことがあったな。治療をしながら恋人と傷つけ合う夢を見るんだ。恐ろしいような美しいような世界だった。

この映画では、ナタンの優しさに救われるなぁ。

 

ロバート・ワイズ監督「アンドロメダ…」1973本目

ロバート・ワイズって、「市民ケーン」を編集し、「ウエストサイト物語」と「スタートレック」とこの映画を監督した人なの。幅広いなぁ!で、原作は「ジュラシック・パーク」のマイケル・クライトン

なかなか緻密に作られたSF映画ですねー。 2018年の私たちとしては、よくあるテーマという気もするけど、隙がないので十分ドキドキします。研究員たちの消毒のエピソードが、しつこくていい(笑)。というか、映画全体が、こういうトリビアみたいな細かい作業の連続です。かなりショッキングな前提から始まるけど、その後に起こる事件は「汚染」とその対処だけで、その前もその後もひたすら研究員たちは細かい作業に邁進します。きっとコンピューターとかのエンジニアって、こういう映画好きだろうなぁ。「アンドロメダ株」と呼ばれるこの宇宙生物(無生物?)がまた、スピロヘータのように完全な多角形をした結晶で美しい。

なかなか面白かったですよ〜。

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チャン・フン監督「タクシー運転手 約束は海を越えて」1972本目

「タクシー・ドライバー」といえばクレイジーロバート・デニーロ・・・を思い出すけどこの映画の最初はのんびりしてます。ところがそれば、だんだんと信じられない事態へ。軍事政権下の韓国南部の広州という田舎町で、一般市民による民主化デモが起こり、軍隊による発砲で170人とも言われる学生を中心とした市民が亡くなったという実話に基づく映画です。

どんな背景があるにしろ、自国の軍隊が、地元の一般市民の大勢に発砲して殺害するというのは、どういうことなのか・・・。クーデター、あるいは、内戦だという意識が若い兵士たちにない限り、撃てないと思うんだ。当時のこの国は軍事政権だから、自分たちの所属する政権がおびやかされていると感じられたんだろうか。それとも、高度に訓練された軍人は一般市民を撃てと言われてすぐに撃てるものなのか。

「実話に基づいてる」というので、あれこれ検索してみたら、実はこの主人公の実態は「タクシー運転手」ではなく、ホテルづきのドライバーで以前から民主化活動家と付き合いのあった人らしい。本人が見つからなかったのは、事件の4年後に病没したからだという話もあります。ネット上の情報で、原典はハングルで読めないので、どこまで本当かは私には判断できないのですが・・・。

それにしても恐ろしい話だ。他のタクシーも交えた軍隊とのカーチェイスが嘘っぽいとか(その通りだが)、コミカルにし過ぎてるとか、色々言われてるけど、私が生まれたあとですぐ隣の国でこんな事件が起こっていたというのは恐ろしいです。平和って本当に薄い氷の上を歩くようなものだな・・・。短いニュースだけでは見えてこないことを、時間をかけて調査して取材して、ドキュメンタリーやこういう映画にしてくれている人たちの苦労に感謝します。

 

ブノワ・ジャコー 監督「エヴァ」1971本目

怖いもの見たさ。イザベル・ユペールが出てる映画は、つい見てしまいます。ましてや今回、「たかが世界の終わり」で惚れてしまったギャスパー・ウリエルにまた逢えるとなれば・・・。

しかしイザベル・ユペール65歳、いつまで官能的な役どころをやり続けるのか・・・もはや「魔女」の領域に入ってきてますね。高級熟女デリヘルっていうんですかね、なんかほんとすごいです。確かに気になる存在感だけど、若い女の子に備わった、意図せず人を誘い込むような、妖精みたいな魔力がそこまで長く続くわけもなく・・。一方のギャスパー・ウリエルは、そういう若い男の子にしかない、男女問わず触れたくなるような美しさがあふれています。もうしばらく彼は、生まれついた美しさだけで主役を張れるな・・・。顔が美しい人はそこそこいるけど、姿とか立ち居振る舞いも美しい人って意外と少ない。

この映画では(「たかが」でもそうだけど)美しいという以外に特徴も才能もない青年の役がまたぴったりなんだな〜。彼の素敵な恋人も、仕事上の人たちも、結局のところ彼の美しさ以外求めていないのでは・・・。それに気づいていないのは彼自身だけ、という世界。何もない彼と、年齢が老齢である以外、知性もウィットも才能もお金も、何もかも持っている彼女。普通の人(映画を見ているほとんど全ての人)はどっちもソコソコで、突出して愚かでも突出して美しくもないから、珍しいものとしてこの映画を楽しめるんだろうね。

ただ、そういう楽しみを与えるには、ギャスパー・ウリエル演じるベルトランは、まとも過ぎた。もっとチンピラで自堕落で退廃的でないと。

 ちなみに1回300ユーロ(38900円くらい)って「高級娼婦」なの?そこそこ高級な弁護士の時給くらい?知らない人と会ってすぐに寝るのってどんな感じなんだろう。慣れれば知らない人とご飯を食べるくらいの感じなのかな。体を使った仕事って、介護やマッサージ整体の類いとも似た部分があると思う・・・。

同じ原作の映画化が1962年にも行われていて、主演がジャンヌ・モローらしい。そっちも見なければ!(イザベル・ユペールジャンヌ・モローも、肉体に頼って生きるような崩れた感じが全くないけど)ギャスパー・ウリエルは、この先もし崩れていくとしても、味のある演技を開花させていくとしても、見届けたいなと思います。

エヴァ [DVD]

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平栁敦子監督「オー・ルーシー!」 1970本目

面白くはあるけど、「予想通り」の枠を超えることはなかったなぁ。

設定を見ただけで結末までだいたいわかってしまう。何も知らずに見るのが一番いい、予告編まで見てしまったのは失敗だったけど、それにしても予想がつきすぎてしまう。やっぱり私は、映画には驚かせて欲しいなぁ。しょんぼり。

オー・ルーシー!

オー・ルーシー!