映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ボブ・フォッシー監督「オール・ザット・ジャズ」2200本目

1979年の映画。華やかでキラキラしたミュージカル映画ね・・・と思って見ていたら、後半とんでもないことになってすごく驚いた。この後半が面白くてたまらない。正直なところ、ゲイっぽい雰囲気のわがまま放題の演出家がどう生きようと、あんまり知ったこっちゃないんだけど、死に際してそういう人の頭の中で何が起こるかってことには、身を乗り出すほど興味がある。

前半にもやたらと「キューブラーロスの死の5つの受容段階」の話が出てくるし、アンジェリークという名前の金髪のふわふわしたジェシカ・ラングもよく考えると変なんだけど、セックスのミュージカルより入院して手術を受けて死を前にして、否定して怒って取引をして落ち込んで受け入れるミュージカルの方が、1000倍新鮮だし面白い。

カンヌの人たちが好きな映画は、淡々と人や国家の深刻さを語る映画かと思ってたけど、そういえばヨーロッパの人たちはキツイ皮肉も好きだし、不幸を笑い飛ばすことも好きだよね。

最近「看取り」の勉強をしていて知ったキューブラー・ロスの名前が娯楽映画に出てきたのも驚きだけど、この人が女性だということも初めて知った。この映画はつまり、死の間際に”走馬灯のように自分の今までの人生が目の前に広がっていく”を映画化したものなんだな。すごいな。死と対局にある、生を謳歌する華麗なるエンタメの世界に、ゾンビ映画やオカルトでもなくリアルな死を持ち込むというアイデアが。私は死ぬときに、こんなに輝かしいショーを自分に見せてやれるだろうか?

ボブ・フォッシーの映画はほとんど見たことがなかったので、自伝的作品と言われても監督とロイ・シャイダー演じるジョー・ギデオンの共通点はわからないけど、ジョーはまさしく、才気走った欲望に忠実な演出家そのものでした。ロイ・シャイダーってすごい。もともと演出家でも振付師でもないなんて信じられない。まさか「恐怖の報酬」や「フレンチ・コネクション」や「ジョーズ」の彼らと同一人物だなんて。

映画を、よくわからなかったから2回見ることはよくあるけど、面白かったから2回見るのは滅多にありません。いやー、この映画は面白い。興味深くかつ楽しみも多い。ぜひ覚えていて、いつか自分が死ぬときに自分自身のショーと見比べてみたいです。

 

ピーター・イェーツ監督「ジョンとメリー」2199本目

Maryを「メアリー」でも「マリー」でもなく「メリー」と書いてたのは、メリー喜多川の頃くらいまでだろう。この映画も1969年という大昔の作品です。流行が繰り返すからか、ジョンとメリーを見ているかぎり、それほど古い感じはしないけど、同じ家に住む黒人カメラマンの髪型が昔ながらのアフロだったりするあたりが、パーマネント技術が古い時代だとわかるし、学生運動の激しさも70年台以前です。そんな時代背景はさておき。

ダスティン・ホフマンが出演する映画も、ミア・ファローの映画もたくさん見たけど、この二人を組み合わせるのは不思議です。ミア・ファローはアート系の映画に出る不思議ちゃんで、ダスティン・ホフマンは常識的な学生とかビジネスマンのイメージだから。

で、この二人の「出会ったその夜に泊まってしまってから」のことを、それぞれの心の中の気持ちを語らせながら進めていくのですが、「男と女」(1966年)をとうぜん思い出します。ニューヨーク版「男と女」を作ろうとしたのかな。一人語りが多すぎて、コントみたいに笑ってしまうところもあるけど、どんな男と女にもある、相手を知りたい、自分をわかってほしい、男って・・・、女って・・・、という心の中の葛藤とやりとりと、しつこくなく大人に描いていて面白い。ミア・ファローは少女っぽい不思議ちゃんなのに、どこか男よりも冷静。あくまでも男目線で描いてる映画だからなのかな。

男と女について思うときに、これから思い出してしまいそうな映画でした。

ジョンとメリー [DVD]
 

 

ジョー・チャペル監督「ザ・ハッカー」2198本目

タイトルもジャケットもB級っぽいし、始まったとたん、女性がヌードで踊るバーで語り合うハッカーたちが出てくるし、あーあという感じもしたけど、面白かったですよ。

実在のネットワークセキュリティ専門家、シモムラ・トモを演じるラッセル・ウォンがコンピュータ・エンジニアにはありえないモデルのような垢抜けっぷりでカッコよくて、自己顕示欲と劣等感のカタマリのハッカー(悪い奴なので”クラッカー”)ケビン・ミトニックは、アメリカ映画の中の白人なのに安っぽい。

この映画の後にハッカーを描いた映画はいくつもあるけど、だんだんイケてないネルシャツ(または「Windows」とか書いたTシャル)にデニム、早口で空気読めないという実態に近い描き方が増えてきてると思います。この頃はまだ、アジア系のハッカーはガールズ・バーでブイブイ言わせてるイケメンかも、と思われてたのか。あるいは実態を知りつつ、あえてカッコよく描いてくれたのか。

まーどっちでもいいんだけど、軽く楽しむ分には面白い映画でしたよ。

この映画が作られたのは1999年、つまりWindows 95より後なので緑とか青のコマンド画面は古臭く見えただろうけど、1995年が舞台で構内システムのハッキングの話なので、当然のようにコマンド画面だったんだろうな(などと細かく切り込もうとする私自身オタクの仲間ですから、、、)

ザ・ハッカー [DVD]

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ウェス・アンダーソン監督「ダージリン急行」2197本目

いきなり登場するのが、さっきは「天才マックス」だったのにすっかり髭面の大人になったジェイソン・シュワルツマンエイドリアン・ブロディが飛び乗った電車にビル・マーレーは電車に乗り移れず、オーウェン・ウィルソンは顔中包帯だらけ。と、愉快なんだけど、色彩がインド的ではなくタイっぽい。キミドリとピンクのペイズリー、みたいなウェス・アンダーソン的世界。そこが、本当のインドと全然違う感じがしてしまう・・・インド的痛快さって大好きだけど、これは違う。外国の文化なんて、みんな大なり小なり誤解してると思うけど、誤解の仕方が私と違うのでなじめない。

三兄弟が仲良くなるために、不思議でカラフルな外国が必要だったんだろうな。これはインドという名の架空の国だと思えばいいのかな。うーん。

残念だけどあまり入り込めない作品でした〜。

ダージリン急行 (字幕版)
 

 

ウェス・アンダーソン監督「天才マックスの世界」2196本目

ウェス・アンダーソンって、三谷幸喜に似た妙な”えぐみ”みたいなものがあるよね?簡潔に喋る面白みのない男の率直さを、くすくすと笑う感じ、が共通していて。(今の朝ドラ「なつぞら」でいえば中川大志演じる東大卒の監督見習いみたいな)

15歳のマックスを演じてるのは当時18歳のジェイソン・シュワルツマン。自己否定的な中年男を演じるビル・マーレーといい感じで、すでに名優の兆しがありますね。

彼らが恋をする、知的でどこかロマンチックな、少女みたいな女性を演じるのはオリヴィア・ウィリアムズという女優さんです。可愛い・・・。こういう役柄は、「そりゃー惚れるよ」と思わせてくれないといけない。イギリス英語のアクセントもあって、なかなか素敵でした。

あと、この映画は・・・音楽がズルい。いいところで「Won't get fooled again」だし「ウー・ラ・ラ」だし。音楽担当はDEVOのマーク・マザーバウだし。監督が私と同世代で、ちょっと上の子たちと同じ音楽を聞いてた人だということがすぐわかる。(違う世代の、興味のない人にはなんの意味もない話だけど、、、)

なんとなく、こういう使えない天才の話って割となんども見た気がするけど、この映画はあったかくていいですね。多分ローズマリー先生のオープンで、彼らをそのまま受け入れてる(少なくとも恋人でなければ)ところが、この映画のトーンの基本に、実はなってるんじゃないかな?

天才マックスの世界 (字幕版)
 

 

 

リドリー・スコット監督「プロメテウス」2195本目

ノオミ・ラパスのデリケートで知的で向こう見ずな感じ、いいですね。いつ見ても、もっと見ていたくなる人だなぁ。まさにエイリアン第1作のシガニー・ウィーバーの存在感を思わせます。

アンドロイドのデイヴィッドを演じてるマイケル・ファスビンダーは、私のイメージする典型的なゲルマン人の美形。・・・この映画はこの二人でもう満腹です。

どう猛な軟体動物のエイリアン自体は、シリーズで見慣れていて、異星人も人間と同じなので新しい驚きはあまりない映画で、「前日譚」をあとで書き足した感は否めません。でも、この二人にも構成にも目を奪われて、楽しめる作品になりました。

こうなると、エイリアン・コヴェナントも見ないわけにはいかないな・・・。

プロメテウス (字幕版)

プロメテウス (字幕版)

 

 

ジュリアン・シュナーベル 監督「バスキア」2194本目

現代アーティストって流行があるのかな。

バスキアの名前をしょっちゅう聞いてた時期があったけど、最近は聞かなくなった。クラシックな絵画を描く人なら亡くなると価値が上がるけど、ストリートアートだと今そこにいないとインパクトが薄くなるのか?

バスキアのアートは今見てもドキッとするし美しいしパワフルだ。悲劇性も破壊性も感じない。こんなアーティストがいたこんなニューヨークがあった、と言うことでいいんじゃないか、と思う。

ベニチオ・デル・トロが若いなぁと思ったら、その後もビッグ・ネームが次々と。ウィレム・デフォーゲイリー・オールドマンデニス・ホッパーウォーホールはデイヴィッド・ボウイだし。コートニー・ラヴがふわふわ歩いてるし。

「(ボウイ演じる)アンディが死んだ」とデニス・ホッパーが言う。そのデニス・ホッパーもボウイも死んだしバスキアも死んだ。まるで70年代のロックスターみたいだ。

でも全然古くないなぁ。アーティスト自身も、周囲の人たちも。今は例えばバンクシーのような、また別のタイプのストリート・アーティストがいて、それを取り巻く人たちも今の時代も、また別の輝きがある。この映画は、この時代の一つの美しさを綺麗な形で残していて、いつの時代にも若いアーティストに刺激や共感をもたらすんじゃないかなと思います。

バスキア(字幕版)

バスキア(字幕版)