映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・ブニュエル監督「欲望のあいまいな対象」656本目

ふうーん。とてもひねくれた、ヨーロッパ大陸的なウィットとか、ラテン中年男性の果てしなき性欲とか、そういう普段見慣れないものがたくさん詰まった、かぐわしい映画でした。

追っかけて追っかけて、ちっとも愛してもらえないふびんなお金持ちの中年男を演じるのがフェルナンド・レイ
一見清純だけど、実は欲望のかたまりでもある、という若い女を、キャロル・ブーケとアンヘラ・モリーナという、二人の女優さんが交互に演じます。君だけしか見えないとか言ってる男も、実は相手が入れ替わってても気づかない程度のもんだよ、という意図もあるかな。ちょっと笑える。

女は天使であり悪魔であるとか、女には二つの顔があるとか、それだけがメインテーマなんだとしたら初々しい気もするけど、そんな女たちに翻弄されながら死ぬまでさまよい続けるのが男だ、と巨匠が最後の作品で訴えるのだとしたら、重みがあります。(いや逆か?)

妙に縁のある男女が一等車のコンパートメントにたまたま乗り合わせ、そこで語られる中年男の身の上話をみんなで聞く、というシチュエーションが、とてもおいしい。上流階級らしい、礼儀正しいたたずまいで聞いているけど、好奇心で目をきらきらさせて前のめりになってる感じとか。

筋書きとかせりふだけじゃない、なんともいえない「存在感」「設定のおかしさ」といったものが、とてもいい映画でした。