映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイケル・ムーア監督「華氏911」816本目

この人は、じつにストーリーテリングがうまい。
見ていると、自分の心が、彼が導こうとしている方向にすーっと動くのがわかる。
これを「感動」と定義してしまうと、真実からは離れていくのかもしれない。
私は自分の心の動きが、怖いと思う。

たとえば、この映画で暴いたブッシュ一族とサウジアラビア資金にのつながりは、100%事実なのかもしれない。でもこの映画では、オバマ一族とどこかの国のなんらかの資金のつながりがあるのかないのか、何も触れていない。そういう意味で、公平にみるとこれは「共和党より民主党が良い」とは取れない。

たとえば、この映画の中で一度だけ、マイクロソフトという会社名が出てくる。
中東のパイプラインにからんで一儲けをもくろむ会社のひとつとして。
でも、マイクロソフトの誰かが写るわけではないし、具体的にどういう形で関与するかは述べられない。あくまでも、会社名が出るだけ。でも、流して見ていると、その前後に同様に触れられた企業と同じようなことをしたんだ、と思ってしまいそうになる。

感動させようとする気持ちや、(制作者にとって重要な)本当のことを伝えようとする気持ちは、公平な見方を促すというベクトルとは真逆だ。見る人の論理的思考じゃなくて感覚に訴えようとしてるわけだから。

他の映画を見たときも、ちょっと怖い感じがした。この人の映画はすごく面白いし、生生しいし、私は実のところブッシュ嫌いオバマ好きの民主党寄りの人間だけど、こういう情動操作には乗りたくないなぁとすごく思うんだ。